窓のない教室
霧生四の避難居住棟では、学校の臨時教室が物資倉庫の横に移された。窓は一つもない。先生は遠い恒星の写真を壁へ貼ったが、冷域九から来た子どもたちはその景色を知らなかった。
「ここでは雪が降るんですか」
一人が尋ねた。教師は気象資料を確かめ、霧生四の山間部なら季節によって降ると答えた。ただし居住棟の外へ出られるかは、まだ決まっていない。
給水設備の点検で、教室の水飲み場が午後だけ停止することになった。堀江絹は説明札を持ってきた。子どもたちは授業の途中で飲める水を気にしている。先生は時間割を少しずらし、休み時間にまとめて水筒を満たすようにした。
授業の最後、子どもたちは自分が知っている空の色を紙に描いた。赤い線しか引けない子もいた。教師は何色でもいいと言い、どの絵も壁に並べた。
冷域九から来た少女は、壊れた時計の絵を描いた。針のない丸い文字盤の横に、小さな人影が並んでいる。先生が誰かと尋ねると、少女は「まだ向こうにいる人」と答えた。
授業の途中、外から退避艇の整備音が伝わり、机の上の鉛筆が震えた。子どもたちは一瞬黙ったが、教師は危険のない作業音だと確かめてから授業を続けた。冷域九では振動があるたび保安扉を閉めていたという話を聞き、先生は音が止まるまで待つ時間を設けた。早く慣れなさいとは言わなかった。ひとりの子が壁の写真を見ながら、星の名前を覚えたいと言い始めた。先生は黒板へその一文字目を書いた。
子どもの一人が教師の名前を覚え、帰り際に小さく呼んだ。先生は振り返って返事をした。廊下の向こうでは給水車が走っている。毎日使う言葉が少しずつ増えることも、この部屋の変化だった。
絹はその紙が落ちないよう、壁の留め具を二つ増やした。窓はなくても、今日ここに来た子の見た空が一枚ずつ増えていく。




