七隻目の熱
冷域九の整備区画で、柴野誠は七隻目の退避艇の冷却管を外していた。損傷は継ぎ目だけでなく、その奥へ続いている。金属を磨けば一時的に傷は隠せるが、航行中に再び漏れる恐れがあった。
「代わりの管は届きますか」
整備員が尋ねる。柴野は無人補給器の積荷を確かめた。交換用の弁はある。管そのものはない。瑞帆六から送るには規格が違い、現場で削り出す必要があった。
彼は採掘設備から外した古い配管を測った。肉厚は足りる。だが、内部に残った鉱粉が冷却液へ混ざれば別の故障を生む。洗浄槽には水の余裕がなかった。
地下施設の管理者、津久井怜は、飲用水を流用しないよう命じた。代わりに採掘機の閉鎖回路を使って何度も循環洗浄し、最後に少量の清水だけを使う方法を認めた。
夜明けに管を組み込むと、温度計は規定値へ近づいた。操縦士が喜びかけたところで、柴野は試験を止めた。冷えた状態だけでは分からない。熱くなった時の変形まで確かめる必要がある。
試験装置の音に合わせて、柴野は圧力と温度を紙に写した。端末には自動保存の機能がある。それでも地下の電源が落ちた場合を考え、鉛筆で線を引いた。若い整備員は途中で手を止め、管がわずかに鳴ったと告げた。柴野は測定器を確認した。正常値でも、音の原因が分からないうちは試験終了とは言えない。格納庫の隅では避難予定者が持ち込んだ荷物が整然と積まれている。それを見るたび、彼は試験時間を削りたい衝動を抑えた。
試験で熱した管を外すには、冷めるまでの待ち時間が要る。整備員は焦る手を止め、工具を所定の場所へ戻した。柴野は温度記録の横へ、音が聞こえた時刻を書き足した。
艇はまだ飛べない。格納庫の時計だけが動く。柴野は指先に付いた鉱粉を拭い、次の試験のために計測器を並べ直した。




