帰る船の席
霧生四に着いた第二便の六隻から、冷域九の退避者が降りていた。川瀬弥生は受け入れ票の残数を見て、帰還する船に誰を乗せるか、という欄があることに気づいた。冷域九へ戻るのは操縦士と整備員だけのはずだった。
「向こうに父がいます。手伝えることがあるなら戻りたい」
窓口に立った青年は、救護資格の入った古い身分証を差し出した。弥生は止める理由を探す前に、向こうの医療担当者へ受け入れ可能か照会した。返信はすぐには来ない。青年には港内の待機区画を案内した。
その夜、冷域九から回答が届いた。医療補助は必要だが、戻る便の席と空気には余裕がない。青年の父は、生存者名簿に載っていた。弥生は二つの事実を別々に伝えた。
「父に会えるなら、ここで待ちます」
青年はそう言って、避難してきた子どもたちの毛布を運ぶ仕事を申し出た。弥生は臨時の作業証を作り、正式な帰還希望は取り消さず残した。会いたいという気持ちまで消してしまう書類は、どこにもないはずだった。
青年は受入れ所で、冷域九から来た人たちの姓名の読み方を一つずつ教えてくれた。同じ採掘区に住んでいたため、家族が別々の区画へ運ばれていても、つながりを見つけやすかった。弥生は個人情報をむやみに口にしないよう伝え、本人が望む相手にだけ取り次ぐ方法を決めた。青年の父の情報は更新されなかったが、彼は他の家族が会うための橋渡しをしていた。夕刻、職員が差し出した温かな茶を、青年は両手で受け取った。
帳簿の端に、帰りたくても帰れない人の欄が増えた。そこに印を付けたからといって、いつ父に会えるか決まるわけではない。
翌朝、桟橋へ戻った彼は、冷域九行きの船を遠くから見送った。その船の座席には新しい医療器材が積まれていた。弥生は補給明細に署名し、戻ってくる人のために待合室の扉を開けた。




