予定表の余白
港湾管制官の倉科澪は、避難船『暁環』が中継予定点を通過した報告を受けた。
安堵する間もなく、新しい船団の申請が届く。臨時居住船が六隻。予定されていた燃料船が一隻。船団の背後からは、所属不明の小型艇が数十隻ついてくるらしい。数は接近するまで確かめられない。
澪は係留区画を空けるため、倉庫船の移動を頼んだ。倉庫側には倉庫側の事情がある。食料の棚卸しが終わらなければ、次の避難船へ積めないという。
「全部どかさなくていいです。外側の二列だけ」
彼女が言うと、相手はしばらく考え、二時間後ならできると返した。
昼には学校区画から、教室用の机を返却できないという連絡が入った。移送者の仮眠場所として使っている。澪は備品欄に延長の印をつけた。返却を急がせても眠る場所は増えない。
夕方、灯標七の壁面に新しい追悼者名簿が掲げられた。数が増えても、読み上げの時間は短縮されなかった。
澪は仕事を終える前に翌月の予定表を開いた。空いている日は、まだいくつもある。そこへ新しい到着予定を詰め込みかけて、手を止めた。
人が休める余白も、港には必要だ。彼女は整備員の交代日を先に一つ書き込んだ。戦況図にない小さな予定が、翌日の港を動かしていく。
交代日を書き込むと、整備班から『本当に休んでいいのか』と確認が来た。長い警戒で、休日の約束を信じられなくなっている。澪は臨時担当者の名を記し、引継ぎ時間まで割り当てた。約束は気持ちだけでは守れない。表の中に場所を作って初めて、誰かの休息が現実になる。その小さな作業にも、澪は時間を使った。
翌朝の当直者が迷わないよう、表の変更点には小さな注記を添えた。




