記録を残す手
灯標七の通信室で、湊透は『芦月』から届いた二十秒の映像を受け取った。
赤い像は拡大すると画素が欠け、縮めると輪郭が増えた。解析班は装置の不調を疑ったが、違う製造所のカメラが同じ現象を写している。透は編集のない生データを七つの記憶装置に複製した。
「こんな記録、何の役に立つのかな」
若い解析員がぼやく。
「分からないから残すんだ」
透は答えた。以前、観測班が不明な雑音を整理するため削除したことがある。数週間後に別の観測所から同じ音が届き、比較できなかった。その後悔が彼の作業を変えていた。
報告書には、赤いものが現れた方角、船内で故障した機器、乗員の体調を分けて記した。『恐怖を覚えた』という証言も削らない。計器だけが真実を示すとは限らない。
夜更け、避難船からの定時信号が受信できた。『航路継続、負傷者なし』。通信室に小さな安堵が広がる。透はすぐに、その時刻も保存した。
窓の向こうでは、港の補給灯が一つずつ消えていた。赤色未同定群がいつ戻るか、予測は立てられない。
七つの複製のうち一つは、民間の観測学校へ送った。軍の解析班とは違う機材や教育を受けた者が、別の異常を見つけるかもしれないからだ。送り先からは『授業にも使う』と返事が来た。透は生徒たちが危険を面白がらないよう、失われた艇の乗員名と観測条件を添えた。知ることは誰かの命の上に成り立っていた。
透は別の港へ記録を送信した。たとえ灯標七が途絶えても、同じ情報が遠くで残るようにするためだった。送信完了の小さな緑灯を確認すると、彼はようやく冷めた茶を飲んだ。




