増えた空気の値段
冷域九で補給器から取り出された酸素瓶には、霧生四の港湾印があった。柴野誠は瓶を地下避難室へ運び、医療担当と残量を測り直した。数日分の余裕ができたが、全員が好きなだけ使える量ではない。
「大人から減らすんですか」
若い作業員が聞く。柴野は首を振った。誰かの呼吸を我慢させる前に、漏れている配管を直すほうが先だ。
古い採掘用の空気管を調べると、継ぎ目から微量の漏れが見つかった。交換部品は補給器に入っていない。柴野は倉庫の予備パッキンを探し、規格を確認した。
修理のあと、数値はわずかに改善した。
「これだけですか」
作業員が呟いた。柴野は改善値を表へ書いた。
「この分だけ、子どもが眠れる時間が長くなる」
彼は大げさに笑わず、次の継ぎ目へ向かった。
回収した古いパッキンにも番号をつけた。どの管でどれほど劣化したか分かれば、ほかの箇所を点検するときにも役に立つ。柴野は手袋を替え、次の通路へ向かった。
補給瓶を使い切ったあとに必要な回収容器も数え直した。送り返せるものは、次の便で返すつもりだった。
地下の配管図は何度も修正され、古い線が消されないまま残っていた。柴野は現物と照らし合わせ、使っていない枝管を見つけた。そこには微量の空気が流れ続けていた。弁を閉じると圧力が少し上がる。彼は点検札に日付を記し、後任へ説明した。体力の残る作業員がいるうちに、難しい修理を済ませておきたかった。子どもたちは隣室で静かに眠っている。
夜、避難室では小さな寝息が続いている。外には赤い脈動があるかもしれない。柴野がいま手で触れられるのは、温度の下がった配管と、正確に動き始めた圧力計だけだった。




