紙の地図を渡す
霧生四の監視員、秋元莉央は、冷域九の退避指揮官へ紙の航路図を送るよう手配した。通信が途切れれば電子地図を更新できないためだ。無人補給器の小さな荷室に、折り畳んだ図面を入れる。
「現地で印刷できるのでは」
助手が問う。莉央は冷域九の電力事情を確かめた。印刷機まで動かせる保証はない。
地図には修正した中継灯の位置を示し、危険な区域は細い網掛けで囲んだ。確かでない線を、まるで通れる道のように描きたくなかった。
彼女は紙の角に、小さく更新時刻と発行元を記した。古い図と混ざっても区別できるようにするためだ。
無人機が出発すると、事務員が余った紙を束ねていた。莉央はそれを預かり、霧生四に残る救難班へ配ることにした。
星図は広い宇宙のすべてを描けない。それでも人が歩く通路と、船が通る細い道を一枚に載せることはできる。
配布する用紙は耐水加工が足りなかった。莉央は透明な袋に一枚ずつ収め、番号が読めるよう表を向けて詰めた。救援現場では床が濡れるかもしれない。
紙が汚れても読めるよう、重要な座標は別の欄にも大きく記した。印刷機の調子を確かめてから箱を閉じた。
印刷した地図の端には、古い場所名がいくつも書かれていた。莉央はそれを現在の地名へ置き換えず、両方併記した。現地の人が昔の呼び方で覚えているかもしれないためだ。霧生四の職員には新しい符号の方が便利でも、冷域九の作業員には馴染みがない。地図は描いた人が読めればよいのではなく、使う人が迷わず読めなければ意味がなかった。
彼女は最後の一部を自分の机に置き、赤い反応の最新情報を待った。




