見張りを置く窓
護衛艦『芦月』の篠宮航は、赤い反応の観測範囲を絞っていた。前方の区域は別の艦へ任せ、自分たちは霧生四から冷域九へ向かう輸送路の後方だけを見る。
「全部を見ておきたくなります」
白石が言った。篠宮は頷いた。だが広い宙域を一隻で警戒すれば、どの情報も浅くなる。
観測員は赤い反応の間隔を測ろうとしたが、時刻ごとに形が違った。篠宮は数ではなく、船の進路へ近づく変化だけを警報にするよう命じた。
見張り窓の一つに、小さな傷があった。整備員は内部から補修できると答えたが、篠宮は念のため別の観測位置も用意させた。視界が歪めば、敵の姿がさらに分からなくなる。
夜勤の兵士たちは交代しながら窓を見ていた。しばらくすると、一人が遠い灯を指した。赤い反応ではなく、戻ってきた小型補給艇だった。
篠宮はその識別符号を確かめ、霧生四へ帰着を知らせた。
敵の正体が分からないからこそ、彼は既知の故障を一つでも減らそうとした。
観測窓の傷は、近くで見ると細い亀裂だった。篠宮は日誌へ残し、監視時間に制限をつけた。見続けることが必ずしも正しいわけではない。
観測員が仮眠に入るたび、篠宮は交代者へ現状を短く説明した。同じ画面を見続けた者だけが分かる情報を、持ち場の外へも渡す必要がある。若い通信士が赤い点の数を尋ねたとき、篠宮は数え方によって変わると答えた。分からないことを曖昧に濁さず、そのまま共有する。戦闘準備に慣れた艦の中で、その言葉は少しずつ普通の報告になり始めていた。
戦う準備をしている時間にも、誰かが帰ってくる。彼は報告書にそれを記し、次の監視点へ目を向けた。




