戦艦ではない船
『星渡』の浦上柊は、護衛艦『芦月』から救難路の後方警戒を引き受けると連絡を受けた。彼は自分の船団も出せると思いかけて、人数の一覧を見直した。船員の休養は進んでいる。しかし乗客を移せる区画の改修が終わっていない。
「貨物船の一隻を空けますか」
浅海朔が訊いた。浦上は積荷を確かめる。霧生四へ残す予定の食料が多い。冷域九の人々を救っても、受入れ先に食べ物がなければ困る。
彼は霧生四の川瀬弥生へ相談し、食料を先に港へ降ろしてから船を改装する案をまとめた。作業員が少なく、予定より時間がかかる。
造船区画では、貨物の固定具を外し、簡易座席を取り付ける作業が始まった。床へ直接座る人が出ないよう、通路を広めに確保する。
「戦艦みたいにはできませんね」
若い整備員が呟いた。
「戦艦にしなくていい。人を運べればいい」
浦上は答えた。
船の医療区画には簡易の隔壁も必要だった。浦上は整備士の意見を聞き、座席の数を少し減らした。人を詰め込むより、治療できる空間を残した。
改装する貨物船は本来、農業用機械を運ぶために設計されたものだった。窓は少なく、音も大きい。春生は船内で温かな飲み物を配れる場所を作りたいと申し出た。浦上は安全通路を塞がない条件で認めた。長い避難のあと、人が最初に欲しがるものは必ずしも薬や寝台だけではない。飲める水が一杯あれば、緊張したままの人も少し話せることがある。春生は厨房の小さな鍋を磨いた。
船の外殻には武装も厚い装甲もない。その代わり、食料と毛布を積む空間がある。浦上は改修図へ署名し、作業に入る人へ交代時間を先に決めさせた。




