古い星図の余白
瑞帆六の海洋観測所で、賀来冬至は冷域九の救援航路に使える古い資料を見つけた。採掘事業が始まる以前、貨物船が通っていた外縁の迂回路だ。現在の星図では閉鎖扱いになっている。
「使える可能性があるなら、送ってみましょう」
研究員が言った。賀来は閉鎖の理由を先に探した。戦争ではなく、古い航路標識の故障だった。その後の修理記録は見つからない。
彼は昔の観測資料から座標を抜き出し、霧生四の浅海朔へ送った。
「通れるとは言えません。調べる価値がある、というだけです」
返信は『受領。無人機で確認します』だった。
若い研究員が、役に立つ道を発見したと喜んだ。賀来は少し笑いながらも、結果が出るまでは静かにしておこうと告げた。閉鎖された理由が一つ分かっただけで、ほかの危険が消えたわけではない。
夕刻、彼は海へ沈む薄い日差しを眺めた。海面の色は場所によって違う。遠い宇宙にある一本の迂回路も、地図の色だけでは測れない。
研究員は古い資料が見つかった棚へ、使用中を示す札を置いた。他の人が同じ箱を探して無駄な時間を使わないようにするためだった。
航路の途中に古い機雷が残っている可能性も調べた。記録では撤去済みだが、確かめ直す余地がある。
古い航路の記録には、かつて小型の観測船が一度だけ迷ったという短い注意書きも残っていた。賀来はその文書を読み、当時の原因調査が完了していないことに気づいた。使えるかもしれない道を見つけても、危険がないことにはならない。彼は観測所の同僚へ、以前の探査機の軌道を調べるよう頼んだ。夜、二人は過去の航路を重ねた図を作り、確かめられない部分を灰色で残した。
賀来は元の記録を保存し、閉鎖時の注意書きを消さないまま送信欄へ添えた。




