認めない喪失
共同防衛評議会の書記官、榊原千景は、外縁の二つの星系を『喪失』へ変更する報告を受けた。提案したのは軍の統計部だ。最後の通信から一定期間が過ぎたという。
「期間だけで決めるのですか」
千景が聞くと、担当者は苦しそうに答えた。喪失扱いにしなければ、予算と護衛の計算が合わないという。
千景は反対するだけでなく、統計表を二段に分ける案を示した。物資を届けられるかどうかと、住民が生存しているかどうかは別だ。前者は『到達不能』、後者は『安否未確認』にする。
会議では手間が増えると異論が出た。けれど到達不能を喪失と同じにすれば、あとから連絡が戻ったとき住民台帳を復元できなくなる。
議長は二重分類を試験採用した。すべての部署がすぐに変わるわけではないが、少なくとも評議会の記録では名前が残ることになった。
千景は灯標七の倉科澪へ修正通知を送った。返信には短く『受領しました』とあった。
議論の終わりに、千景は二重分類がいつまで使えるか再検討の日程も決めた。制度は運用してみなければ分からない。
修正した分類は別の星系でも使われる可能性があった。千景は判断の基準を一枚にまとめ、通信不能の期間だけで生死を決めないことを明記した。予算の集計が遅くなると不満を述べる担当者もいた。彼女は必要な統計値を別欄へまとめる案で応えた。生きている人を数えることと、今日使える物資を数えることは、分けて扱えるはずだった。
大きな星系が一つ、図面の上で取り戻されたわけではない。それでも統計から消えそうだった人々を、まだ人として数えることができた。




