届いた部品の温度
瑞帆六から送られた冷却板が灯標七に着いた。音羽叶芽は箱を開ける前に、貨物室の温度記録を確かめた。長い輸送の途中で冷やしすぎると、接合部に細い亀裂が入る可能性がある。
「箱のまま一日置きますか」
助手が尋ねる。叶芽は温度計を二つ取り出し、緩やかに室温へ戻す手順を作った。待つ間にも艦は修理を必要としているが、急いで傷めては意味がない。
翌日、箱を開くと内側の緩衝材がわずかに破れていた。金属板に目立つ傷はない。それでも叶芽は表面の精密検査を行った。
瑞帆六の賀来冬至へ結果を送る。返事には、製造時の検査値が丁寧に添えられていた。互いの数字を比べると、長い輸送のあいだに目立った変化はない。
「ようやく使えますね」
助手が笑う。
「ようやく取り付け試験ができる」
叶芽は答えた。艦の中で実際に冷えることを確かめる必要が残っている。
艦長の篠宮は試験中の工場へ見学に来たが、作業を急がせる言葉を口にしなかった。叶芽は冷却温度が安定するまで検査を続け、最後に試験担当者全員の署名を集めた。
照明の下で金属板を見ていると、温度計の針がゆっくり戻った。叶芽は確認できた数字だけを修理記録に記した。
試験装置の冷却音が高まると、工場の若い整備士は不安そうに測定値を見た。叶芽は二つの計器が一致していることを確かめ、音の変化は設計どおりだと説明した。実物を知らない者へ『大丈夫』だけで済ませたくなかった。作業手順を一つずつ共有することが、次の故障に備える方法でもある。試験が終わる頃、若い整備士は自分から結果の写しを作り始めていた。
夕暮れのない工場で、彼女たちは新しい冷却板をゆっくり持ち上げた。金属の表面に、遠い海を持つ星の工場印が刻まれていた。




