忘れた合図
灯標七の管制室で、倉科澪は、古い艦艇から届いた入港申請を読めずにいた。発信形式は現行規格と違い、自動照合装置が警告を出している。
「偽装かもしれません」
職員が言った。澪は識別符号を紙に写し、昔の港湾資料を取り出した。二十年前に廃止された形式に似ている。
無線で手動の確認質問を送ると、艦からは古い通信用語で返答があった。艦長は高齢で、最新の更新手順を受ける港へ立ち寄れなかったという。
「入れていいんですか」
職員が尋ねる。澪は保安部と整備班へ連絡し、別の係留口を用意させた。正体が分からないまま主要区画へ近づけるわけにはいかない。しかし古い規格だからと追い返すこともしたくなかった。
無事に接岸すると、艦内から避難してきた人々が降りてきた。船の記録装置には、まだ失われていない集落の位置が残っていた。
入港を終えた古い艦には、新しい識別器を取り付けることになった。澪は更新後も古い記録を参照できるよう、番号の対応表を作った。乗員が迷わないための工夫だった。
荷物を降ろす人々の靴はすり減っていた。澪は通路へ滑り止めの板を敷くよう頼み、長旅を終えた家族を迎えた。
古い艦長は、乗員が何人も途中の港で降りたと話した。澪はその港名を照会し、現在の登録先を探した。新しい情報があれば、同じ艦で旅を続ける人に渡せるかもしれない。到着を確認したあとも、航海の記録は役に立つ。保安部が艦内検査を終えるまで、澪は船員へ温かい飲み物を届けてもらった。長い航路を進んだ人が、まず落ち着いて話せるようにしたかった。
澪は艦長へ礼を言い、通信形式を更新できる技師を紹介した。古い合図を覚えていたことで、今夜は何人もの人を港へ迎えられた。




