第3話:入学前の洗礼 (2)
隣に誰かがいるのがこんなに心強いとは。
しかし状況は変わらず酷い。
隙をみて逃げようにも、地竜の最高速度は馬をも凌駕する。
(助けが来るまで、何とか耐えないと)
標的を一体の飛竜に合わせる。
しかし飛竜は、翼をはためかせて二匹同時に襲いかかってきた。
毒爪を向けられたその刹那、飛竜の背後に人影が現れた。
(あれは、誰?)
太陽が背になってよく見えない。かろうじてその人影は剣を持っていることが分かる。
「【春寒波】!」
冷気を纏った薙ぎ払いが、飛竜の首を両断した。
(2匹同時に!?)
青年がこちらの眼前に着地し、逆光で見えなかったその姿が明らかになった。
着ている服はジェネレシア学園の制服のようだが、ブレザーの代わりに東洋人が着るような羽織り、持っている剣も東洋製の刀。銀色の襟の長い髪に、刃のように鋭い眼つきで、瞳の色は早朝の空を想わせる様な深い蒼をしている。
青年が、無表情でリトに近づく。至近距離まで顔を近づけたかと思うと、青年がニカっと笑った。
「やっぱりその服! オメェらも俺と同じか!!」
「同じ…?」
「オメェらも、俺と同じ学園の新入生だってことさ。いや〜、迎えの馬車が来なかったから、勘を頼りに1人で走ってきたもんでよぉ」
どうやら彼も外部からの入学生の様だ。
こんな広大な草原の半分を踏破するつもりだったことに驚きを隠せない。
「オメェらと同じ方角に向かえば学園の場所が分かる。今日も俺は運が良い!!」
「ガッハッハ!」と青年は豪快に笑った。年は僕達と同じくらいなはずだが、謎の貫禄を感じる。
―ギャォォォォォン!!
地竜がけたたましい咆哮を響かせた。
凄まじい威圧感が空気を塗りつぶす。
「おっと、テメェを忘れるところだった」
青年がニヤリと笑い、刀を構えた。
「まずはテメェを片付けてからだよなぁぁ!!」
青年が地竜目掛けて突進する。あのまま叩き斬る様だろう。しかし地竜の鱗は硬い、きっと弾かれる。
「太腿裏!鱗の白い部分を狙って!!」
戦闘の最中だが、青年はそれを聞き逃さなかった。
「あんがとな!」
青年は地竜へ急接近した後に立ち止まり、滑るように地竜の太腿裏へと回り込む。
地竜の太腿裏の、白い鱗の部分に桜の様な紋様が浮かんだ。
「【桜華突】っ!」
紋様目掛けて突き立てた刀は、驚くほどに鱗を破り、血が噴き出す。
ギャォォォォォォォォォォ!!
地竜は激しい苦痛に悶えている。
白い鱗の部分は比較的に柔らかいが、まさかこんなに傷を与えるとは。
地竜は長い尾で薙ぎ払ったが、青年は高く跳躍してそれを避ける。落下運動を刀に乗せ、背中目掛けて突き刺した。特に硬い部分にも関わらず、刃は深く食い込んだ。
(すごい、とても同じ年とは思えない)
生物の動き、そして急所を全て理解したかのような動きだ。攻撃一つ一つに致命的な威力が籠もっている。
その攻撃を喰らっても地竜はまだ立っている。
すると突然、地竜は頭を上下に振り始めた。
青年は構わず突撃している。
「あの動きは…。ノーチェ、防御魔法を!」
「分かった。…《鋼鉄の護り》!」
青年にも護りが付与した直後、地竜の口から大量の石礫が吐き出される。散弾の如き礫がリト、ノーチェ、青年を襲う。しかし物理攻撃に耐性を与える魔法により、3人は致命傷を免れた。
「きみ、大丈夫!?」
ノーチェに治癒してもらった後、僕は急いで青年へと駆け寄った。
「直撃しちまったが平気だ。オメェあのモンスターに詳しいんだな」
「こっからは僕とノーチェも参戦する」
「これりゃ、心強い」
青年が剣を構え直す。同時にノーチェも強化魔法をかける。
(僕も戦わないと)
深呼吸することで恐怖を取り払う。
そして闘争心を引き出す。
この世界の生物は、闘争心や殺意を《《闘気》》と呼ばれるエネルギーに変えることができる。それを操り、技に転用することで、肉体を強化する技術―《《戦技》》となる。
全身に闘気を流す。鼓動の加速、体温の上昇、筋肉の増強を感じる。
「僕はリト・アベンチュラ。君、名前は?」
「アルバ・ミスタードだ。アルバって呼びな」
アルバは早速地竜目掛けて突撃した。
僕も負けじと、距離を詰めるべく足に闘気を集中させる。脚部に力を溜めて、それを一気に解放し、地面にぶつける。
(【ダッシュ】)
短距離を、まるで瞬間移動したかのような疾走は地竜の足元へと運んだ。
剣と腕に闘気を流し込み、この世界で最も基礎的な戦技を、地竜の足目掛けて放つ。
「【ストライク】ッ!!」
直撃したが、びくともしない。
地竜は煩わしいと言わんばかりに蹴り払う。
「ぐはっ!?」
腹に直撃し、吹き飛ばされた。
強靭な足爪で腹部が貫通しなかったのも、制服とノーチェの防御魔法のおかげだろう。
しかし不味い、衝撃も諸に喰らった。内臓に傷入った様で、痛みが酷い。
苦痛に悶えるリトにノーチェが駆け寄った。
「しっかりしてリト。《治癒》」
痛みが徐々に引いていく。
「ありがとう、やっと動けるよ」
「自己強化したから、アタシも出るよ」
「打撃は効きづらい。地竜を引きつけながら支援魔法をお願い」
「りょーかい!」
ノーチェはすばしっこいから、気を付けながらなら地竜の攻撃をギリギリ回避できるだろう。
仮に攻撃を食らっても自分で回復できる。
極力こっちの被弾を減らしつつ、攻撃を入れる。これなら長く持つだろう。
(物理がだめなら)
「《魔法付与・雷》」
斉竜の刃は電気を纏った。これなら鱗を無視してダメージを与えられるだろう。
もう一度地竜に急接近し、脚部に剣を叩きつける。今度は剣に込められた雷の魔力を解放する。
「【サンダーストライク】!」
直撃と同時に剣は放電し、地竜の肉へと直にダメージが行く。
地竜が大きく怯んだ隙をアルバは見逃さず、刀を首に突き刺す。
ギャォォォォォォォォォォ!!
地竜が再び雄叫びをあげた。咆哮は激しい風圧を生み、前線のリトとアルバは後退せらず負えなかった。どの攻撃もきいてるはず、しかし決定打が足りない。
「こんなに攻撃受けてもまだ…」
「俺はまだ行けるぜぇ!」
膝をつく中、アルバはいきり立つ。
ノーチェにも疲労が現れ始める。
このまま耐えきれないと悟った、その時だった。
馬のいななきと共に、声が背後から聞こえた。
「3人とも、よくぞ耐えた!」
振り返ると、そこには馬に乗った騎士が、僕達目掛けて駆けていた。
騎士は馬から飛び降り、3人を庇うように立つ。
灰色にくすんだ全身鎧。背負うマントにはアスガルスのシンボルが風にはためいていた。
「お願いします、助けて下さい!」
騎士は大剣の先を地竜へと向ける。
「後は任せろ」
地竜が突進するが、騎士は怯まず剣を構える。
大剣に刻まれた文字が僅かに光る。
すると刃は風と炎を纏い、吹き荒れた。
風に舞った草花が炎に焼かれ、騎士の全身鎧は灰を纏う。
地竜が充分まで近づいた瞬間、騎士は剣を振るった。
「【灰風・烈】!」
剣より放たれた豪火は、遠くからでも熱気を感じた。
灰を纏った風炎の剣が、地竜の首を両断した。
●アースドラゴン
土色の鱗に捻れた六本の角を持つ、ティラノサウルスに近い見た目の竜。
アレイフ大草原の頂点捕食者が一角。
発達した後ろ脚と頑丈な肉体から繰り出される突進は凄まじく、鉄製の門すら容易に破壊できる。
石を放射状に吐き出す礫の竜息は、一発一発が弾丸の様な速度を持ち、鉄の大盾ですら使い物にならなくなる。




