第2話:入学前の洗礼 (1)
揺られる馬車から見れる景色は、どこまでも草花が広がっていた。ここ、アレイフ大草原は大陸の中央に位置し、広大な草原と青空が広がる景色は、壮大の一言に尽きる。
今から向かっているのは、中央国家アスガルス。
巨大な湖に浮かぶ、大陸で最も栄えた国として有名である。
馬車の中にいる生徒は僕とノーチェだけであり、他は護衛の冒険者と兵士が二人。
「ねぇねぇリト」
「どうしたのノーチェ」
「リトってなんでジェネレシア学園に行きたいの?」
「あれ、話して無かった? そういうノーチェはどうなの?」
「え? リトがそこに行くから」
さも当然と言わんばかりに即答した。
ノーチェが入学出来たのもゼフの推薦によるもので、高い治癒魔法への適正と高い身体能力からでもある。
「それだけ?」
「だってリトが心配だし、アタシも冒険者に興味あるし。そういうリトはどうなの? 勇者に成りたいなら、別の学園でも良かったのに」
ジェネレシア学園は師匠の話で聞いたのがきっかけであり、そこなら推薦できることも理由だが、本当は別の所にある。
「色々あるけれど一番は、憧れの人がその出身だからかな」
ジェネレシア学園は最初に勇者を輩出した学園であり、その勇者は
「『閃光の勇者』―約100年前に魔王を倒した騎士。最初に聞いた英雄譚がそれでさ、僕が勇者を目指すきっかけになった人でもあるかな」
「彼は故郷を守る為に、勇者として戦った。だから僕も、大切な人を守る為に強くなりたい。強大な災害にも挑む勇気が欲しい。」
魔物が怖い僕が勇者になるなんて、不可能かもしれない。それでも…
「だから僕は彼みたいになりたい。それがジェネレシア学園を選んだ理由かな」
「リトらしい、カッコイイ理由だね。閃光の勇者とかはよく分からないけど」
「ノーチェってそう言うのに興味無いよね」
ふと、ノーチェが手に持ってる聖印に目が入った。円に女神の像が嵌め込まれた、木製の聖印。
「そういえば、ノーチェが手に持ってるそれは?」
「えへへ、いいでしょー。今日お父さんがくれたんだ」
ノーチェは嬉しそうにその聖印を見せる。
ゼフに拾われた11年前、ノーチェは村の神父に引き取られた。治癒魔法の高い適正から、神父が適任だと判断したからだろう。それからノーチェは神父を本当の父として慕っている。
村での日常を思い出し、思い出に浸る。
―ドゴォォンッ!!
突然馬車が激しく揺れた。
何かに横から突進されたかの様に、馬車が横転した。
「痛た…。ノーチェ、大丈夫…?」
「何とか。一体何が…」
奇跡的にお互い、怪我は無いようだ。
もはや天井になったドアが開かれ、外の護衛をしていた冒険者が顔を出す。
「モンスターに襲撃されました! 2人は早く避難を!」
中に居た冒険者と兵士も素早い身のこなしで外へと向かった。外からは兵士の怒号とモンスターの咆哮が聞こえる。
「モンスター!?」
冒険者にサポートされながらも外へと出る。そこでは戦いが繰り広がれていた。
緑鱗とコウモリの様な翼を持つ小型の竜―飛竜が7体、6人の兵士達に襲い掛かっていた。そして一人の冒険者を咥えているのは、土色の鱗に発達した2本の後脚を持つ大型の竜―地竜。強靭な顎で事切れた冒険者を貪り、地面には血溜まりが出来ている。
おそらくあの地竜が馬車へと突進したのだろう。馬車の側面には大きな凹みが出来ている。
咥え飽きたのか、死体を噛み砕き、冒険者だった物の上半身が地に伏せる。
飛竜の脚に掴まれた兵士が空へと持ち上げられ、20mの高さで落とされ、兵士は鈍い音と共に地面に激突し、動かなくなった。
凄惨な光景が、昔の記憶を呼び起こされた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
上手く呼吸が出来ない、足に力が入らない、思考が恐怖に支配される。
(早く…剣を抜け僕!)
必死に身体を動かそうにも、腕が震えるばかり。兵士と冒険者を引き金に、惨殺された両親の断末魔、肺が焼ける感覚、命を狙われる恐怖、それが何度もループした。
視界が歪んだその時、誰かが僕を揺さぶった。
「リトしっかりして! 君はもう昔の君じゃないんだから!!」
ノーチェの訴えに、僅かな感覚が正気を取り戻す。
(そうだ、僕はもう昔より強くなった。僕が戦わないとノーチェが…)
また失うわけにはいかない。
いつも僕を支えてくれた彼女を見殺しにしたくない。
(早く動け僕!)
恐怖を掻き消す様に自分を鼓舞した。
兵士達が殺し尽くされ、魔物共の視線がリトとノーチェに向けられる。一匹の飛竜が飛び掛かる。
反射的に僕は手をつき出し、飛竜に照準を合わせる。
「《炎の玉》!」
火球が飛竜の頭に接触し、炎が弾ける。倒しきれてないが、飛竜は炎を恐れて退く。
「そうだ、僕は大切な人を失わない為に勇者になるんだ。来いモンスター!」
飛竜は冒険者の相打ちにあったのか、2体まで減っているが、地竜は未だ健在。1人じゃ厳しい。
「そう来なくっちゃ。でもサラッとアタシを仲間外れにしないでよね!」
ノーチェが僕の隣に立ち、構える。
「オネーさんが守ってあげる」
「守るのは僕だ」




