第1話:学園から辺境への門出
窓から覗く朝日に照らされ、目が覚めた。
悪夢に酷く魘されたからか、冬の終わりにもかかわらず、麻の寝間着とベットは汗でぐっしょり。
(またこの夢、目覚めも最悪だよ…)
故郷が魔王の軍勢に焼き尽くされて、新しい村―辺境村で過ごしてから11年の月日が経った。にも関わらず当時の惨劇は記憶に残り続けている。
気を取り直して部屋を見渡した。床や壁、キャビネット、クローゼット、どれも木製で年月のせいか色褪せている。
ベッドの横にあるキャビネットの上に見慣れない服が置いてあった。
所々に山吹色の刺繍の入った紺色のズボンとブレザー、真っ白のYシャツは近代的なデザインで、しかも埃一つもない。
(これ、なんの服だろう?)
悪夢をみたせいで疲れているのか、ここ最近の記憶が曖昧だ。必死に思い出そうとする中、服の下に置いてあった2枚の紙が目に入った。
服を手に取ったら一番に目に入る様に置かれた1枚目の紙にはこう書かれている。
『推薦による選考の結果、本校に相応しい人材であると判断し、貴方をジェネレシア学園の1生徒となることを認めます』
文字の横には、本を照らす松明が描かれた朱印が押されている。
ジェネレシア学園―学園という名だが、正式には冒険者育成機関と呼ばれ、未知と危険で満たされたこの世界に足を踏み入れ開拓する冒険者を育てるための国家機関である。ジェネレシア学園は大陸1のエリート校であり、2000年の歴史の中で数多の賢者と大魔道士、そして勇者を輩出した。
(そうだった。たしか2週間前に学園の使者が来て、師匠の推薦を受けて試験に合格…)
「…合格かぁ」
思わず天を仰いだ。嬉しさが溢れだし、この幸せを噛み締めずにいられなかった。
拾ってくれた師匠が教えてくれたジェネレシア学園はずっと目標で、その為に厳しい稽古を積んできた。試験のことは殆ど覚えてないけど、それでも喜ばずに居られない。しかし目覚めが最悪だった影響からか、叫ぶ気力も無い。
早速仕度を始めた。白メッシュの蒼い長髪をポニーテールの様に結び、純白のシャツの袖に腕を通す。ベルトを締め、ブレザーを着る。質感や重量は絹で着心地も良いが、表面は鋼鉄の様に硬く、なんだか力がみなぎる。
ドアの横に置いてある姿見に自分を映してみた。
鏡に映った青年は色白でやや女性的な顔付きだが、目はキリッとしている。オレンジと黄色が混ざった瞳は太陽の様で、白メッシュの入った蒼いポニーテールは青空を彷彿とさせる。
制服のサイズはやや大きく、服に着せられている感がいがめないのは気の所為だろうか。
仕度も終わったので、置いてあった2枚目の紙を読むことにした。手紙で、師匠のゼフが書いたものだとすぐに分かった。不格好な濃い字でこう書かれていた。
『小僧がここまで成長するとはな。師として、育ての親として、俺は誇らしい。
強くなったな、リト。渡すものがあるから早く外に来い』
胸が熱くなりながらも、僕は手紙をポケットにしまい、部屋を後にした。
玄関のドアを開けると、既に人が待っていた。
群青色のふんわりしたパッツンヘアにパッチリした翠の瞳。八重歯と小麦色の肌は性格通りの活発的な印象を与える。
僕のと似た意匠の制服と革の手袋を身に着けている少女の名はノーチェ・スエーニョ。数ヶ月年上の幼馴染だ。
「リト遅いよ! もう少しで起こしに行くところだったんだから」
顔を近づけ、ムスっとした様子で僕に詰めよる。
「ごめんごめん、入学出来たのが嬉しくてボーっとしちゃったんだ」
「も〜しょーがないな。この先リトが1人で学園に行くのは心配だよ、オネーさんであるアタシが付き添ってあげないとね」
ノーチェは時々自分をお姉さんと自称するが、そういう言葉を使う時はいつも本音を隠している。数ヶ月しか年も変わらないから、ただ見栄をはりたいだけだろう。
「本当はノーチェも一緒に行きたいからでしょ?
神父様から聞いたけど、毎日の様にジェネレシアに行きたいって言ってたもんね」
「え!? ちょっと〜」
本音を見透かされた恥ずかしさからか、ノーチェが僕の肩を叩く。地味に痛い。
好奇心旺盛なノーチェのことだし、冒険者に興味を持っていたのだろう。
「ほら、もう迎えの馬車が来てるよ」
ノーチェに手を引っ張られるまま、村の入り口へと向かった。サンドル山岳の半ばに位置する辺境村だが、緑が豊かで空気も澄んでいる。
やがて入り口へとたどり着く。村人全員が集まっており、僕達の門出を祝ってくれているようだ。
その群衆の中には、見知った顔の男がいた。
夢でもまた見た、白い短髪に狼のような鋭い目つきに、無精髭を生やした60代くらいの男。
「師匠!」
「おせぇじゃねぇかネボスケ。お前に早速渡したいものがある」
そう言って手渡されたのは、1本のブロードソードだった。使い込まれているが、持ち主が大切に扱ってたと分かるほどに綺麗に磨かれている。
竜の頭を模した柄頭に、凹凸の目立つ握り、鍔の中央には黄色い宝玉が埋め込まれている。
「若い頃、俺が愛用していた剣『斉竜』だ。光の力が込められている、俺からの餞別だ」
「ありがとう師匠!大事にするよ」
「それと最後に、手ぇだせ」
言われた通りに手を差し出すと、1枚のコインを渡された。金箔の塗られた硬貨の表には大鷲の横顔が、裏には太陽が描かれている。
「俺の元の勤め先であるアスガルスじゃ、1人前の弟子にはこのコインを渡すんだ」
「お前は俺の誇りだ、学園でも頑張れよ」
ゼフが鍛えてくれなきゃ僕は今より弱いままだった。稽古は過酷だったが、それには確かな愛情を感じた。
「師匠…みんな。本当にありがとう!いつか絶対帰ってくるよ!」
涙とここを去る寂しさを堪え、学園の馬車に乗り込む。
「それじゃぁみんな、またいつか!」




