プロローグ:遠い過去は灰に
これは遠く、幼い頃の記憶だった。
今や灰すら空に帰った、暖かい故郷の最後。
今見ているこの光景は、4才の頃過ごしていた故郷。山岳の麓に位置するこの村は小さく、平和だった。
訪れる吟遊詩人が謡う英雄譚の勇者に憧れる幼少期は幸せで、この日々がずっと続くことを疑わなかった。
11年前、魔王に全てを焼き尽くされるまでは。
村は炎に包まれ、遺灰と火の粉が夜を彩る。
怪物の凶爪を、吹き荒れる業火の中を掻い潜り、同じ大きさの手で僕を引っ張ってくれた青髪の少女の背中はまだ脳に焼き付いている。
魔王と共に現れた魔物の軍勢が、飽くなき破壊衝動のままに村を蹂躙した。
英雄譚なら勇者が駆けつけ、魔物の群れから守ってくれただろう。
しかしそんな都合の良いことは起きなかった。
魔物の凶刃が、巨爪が、人々に襲いかかる度に緑草は紅く染まる。地獄としか形容できない光景だった。
足を躓きかけながらも、懸命に走り続けた。
臓物の悪臭と煙で鼻が機能しなくなっても、火の粉を吸い込み喉を火傷しても、僕―リト・アベンチュラと青髪の少女―ノーチェ・スエーニョは走った。
僕たちを庇って生きながら喰われた両親と友人の姿が目に焼きつきながらも、犠牲を無駄にしないように走り続けた。
村人が食い止めてくれたおかげか、魔物に追われることなく近くの森深くに行き着いた。
しかし当時の幼い身体にとって、夜は余りにも寒く、ただでさえ尽きかけてる体力が奪われ続ける。力尽きかけるその境、白髪の壮年な男が僕達を見つけた。必死に助けを求める僕達の幼い手を握ってくれた、男の分厚く大きい手はとても暖かかった。
炎とは違う別の暖かさに、僕は安心して意識を手放した。
魔王―それは果てし無い欲望を持って生まれた形ある災害。50〜100年の周期に現れては世界に終焉を齎すそれは、数多の村を、都市を、国を地図から消してきた。
そして魔王を討つのが、勇者である。それは如何なる困難にも挫けず、不可能を覆した偉人である。




