第26話:永久機関
「……とりあえず、こんな所かしら」
しばらくの静寂が流れる。
聞いて楽しい話ではないのだから当然か。
「エーデル…」
口を開いたのはリトだった。
「何かしら?」
「やっぱり、エーデルは強いね」
「は?」
同情からではない、本気の称賛が込められた言葉だと理解するのに時間がかかった。
「実は憧れだったんだ。僕より一回り小さいのに、魔物に怯えないその勇敢さが」
「そーそ。入学式の日だって、あんな大柄な男子をコテンパンにした時、凄いって思ったもん。口は悪いけど」
リトに続いてノーチェもそう称賛する。最後が余計だが。
「……あっそ」
そこまで言われるのはやはり照れる。
恥ずかしげもなく言える、2人の馬鹿正直さが、やはり眩しい。
「エーデル? 顔赤いけど、大丈夫なの?」
「エーデルちゃん、先生呼びに行こっか?」
「き、気にしないで!」
ひとまず話題を変えなければ、これ以上は顔から火が出そうだ。
「それより、他に何か聞きたいことはありませんの?」
「ガディのことについて詳しく聞きたい、あの力はいったいなんなの? 大きさも入学式の時とは比べものにならないし」
「それを答える前に、まず一般的なゴーレムについてどれくらい知識がありますの?」
「物質的な肉体を持つ精霊の亜種、だったけ」
ゴーレムは魔力を動力にして動く人形であり、その魔力を巡らせて自律するための心核を持つ。
その心核には下位精霊が使われているから、精霊の亜種というのも間違いではない。
「ゴーレムは2種類いますの。貴方の言う精霊の亜種は、自然発生型の方が近いわ」
「自然発生型? エーデルがいつも使っているゴーレムとは違うの?」
「天然の下位精霊を核とするゴーレムのことで、主に魔物に分類されていますわね。再生能力と明確な自我を持ち合わせているのが特徴ですわ」
上位種になれば魔法を扱うことがあり、魔物として対すれば強敵となり得る。しかしその殆どが温厚な気質なため、怒りを買わなければ問題ない。
「私のゴーレム達は皆人工的に造った人工型に分類されますの。核となる精霊も人工的に生み出したものだけれど、自我を持ち合わせていないし、魔法も使えない、おまけに製造費も高いの」
自然発生型は様々な物質を魔力に変換できるため独立して動くが、人工型は術者の魔力に依存する。
そのせいもあって傀儡技師は真っ先に狙われる。だから術者もある程度強くなることが理想的だが、ゴーレムを運用するための魔力量を考えれば、普通そんな余裕は無い。
「ガディはどっちに分類されるの? 遺跡にあったなら人工型っぽいけど、明らかに自我があるし」
「理解が早くて助かりますわ、アベンチュラ」
スエーニョはずっと頷きながら聞いているが、絶対に理解出来ていないだろう。まぁひとまず無視だ。
「貴方が言ったように、ガディは人工型に分類されますわ。でも心核が異質なの」
「異質って?」
「動力となる魔力が、術者依存でもなければ物質から変換もしない、心核が自ら生み出してますの」
「それってまさか……」
やはりアベンチュラは察しが良い。きっと同じことを思っている。
「現代魔法技術でも不可能な、無から有を生み出す永久機関。それがガディの心核ですの」
永久機関、それはアスガルスが掲げる魔法技術の最終到達点であり、現代でもその研究が進められている。もしガディの存在が国に見つかれば、研究の為に解体されるだろう。
「そしてゴーレムのパワーは魔力量に比例する。無限の魔力を生み出すガディは、際限の無い力を持っていますわ」
理論上、パンチ一発で山を粉々にできる。
何故それほどの強さを持つゴーレムを今まで隠していたのかも理由があった。
「でもガディの身体は経年劣化が酷くて、少しでも力を出せば自壊しますの」
「修復はできないの?」
「不可能ね、ガディの外殻は質量を自由に変えられる未知の物質で出来ていますの。他の素材では根本的な修復は出来ませんわ」
出力を少しでも間違えれば腕は粉々になるほど脆い。
だから何重もの封印を施した異次元貯蔵庫の最奥に、ガディを収納している。
しかしそんな封印すら、ガディの限りない出力の前では無意味らしく、私がピンチになれば飛び出してくる。恩人を守りきれない自分の未熟さが、いつも歯がゆい。
「だから、アベンチュラが黙ってくれたことには感謝してますわ。本当に、ガディを守ってくれてありがとう」
「別に大したことはしていないよ、むしろこっちが助けられたんだから
単純なパワーならガディは作中トップ。
単体で国一つは滅ぼせるし、やろうと思えば大陸が4つに割れるだろうけど、それしたら身体が粉々になる。




