↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃光の勇者  作者: バジルソース
第1章:小さき光よ、蒼星を目指せ
27/29

第25話:望まぬ才



 生物は身体を動かす度に、ごく少量の魔力が漏れ出る。その量は本人の魔力量と比例するため、私は起き上がるだけでも身体に障った。


「ゴホッ、ゴホッ!」


 空気中の魔力が口に入り、咳に血が混じる。

 動けない身体で、探求心と好奇心を満たす方法といえば本だけだった。

 

「あれ…、本どこ?」


 父と母が譲ってくれた本が部屋を埋める勢いにあるため、読みたい本を見つけるのにいつも時間がかかる。


「…メアリー?」


 熊のぬいぐるみが頭に本を乗せて、私の隣へと座る。それを受け取って、頭を撫でた。


「いつもありがとう」


 私が生まれ持つ祝福(ギフト)―人形技師は、触れた人形をゴーレムにすることができる。

 それによって生まれたゴーレムも極わずかな魔力で動かくことができ、ぬいぐるみ3体までなら動かし続けても発作が起きない。


「神に愛された子、か」


 生まれつき多くの魔力と傀儡技師(ゴーレムマスター)としての才を持ち合わせた私は、そう言われてきた。なら何故神は、自分に健康な身体を与えてくれなかったのか。

 外を駆け回って、自然を堪能したい。

 本でしか見たことない景色を、この目に焼き付けたい。

 そんな願いすら叶えずに望まぬ才を与えた神は、昔から嫌いだった。


「本当に神って、無力ね。誰も見たことがないのに、なんでみんな信仰しているのかしら」


 そんな答えの無い疑問を浮かべながら、ページをめくる。魔蝕病が判明してから5年、ずっとこの日常を過ごしていた。

 しかしそれが変わったのは、11歳の誕生日。

 誕生日プレゼントの本や母が作ったぬいぐるみの他に、指輪があった。

 指輪の名は『守護の魔輪』、等級は3級であり身につけることで魔力への耐性が向上する。

 これによって魔蝕病の症状を抑えられるが、根本的な解決にならないし、外せば反動で症状が酷くなる。他にも、魔力を使い過ぎると刻印(ルーン)が焼き切れ機能しなくなるなど、色々と欠点がある。それでも外を歩ける様になっただけでも充分だった。

 自分の足で駆け回り、自然に触れた感動は、今でも忘れられない。

 

 

―――――――――――――――――――――――


 

 指輪を貰ってから数ヶ月経った後、父の遺跡調査に同行した。

 最初は父に反対されたが、最終的に父が根負けして了承してくれた。

 護衛の騎士や派遣された考古学者を乗せた馬車数台は、草原を抜け暗森林に入り、山岳の麓まで揺られた。


「す、すごい……」

 

 岩の絶壁にめり込む様に、宮殿が佇んでいる。

 黄土色の山岳とは対照的な灰色の石材は、コケとツルに覆われており、どれだけの年月にさらされたかは想像がつかない。


「なんでも、冒険者が発見した遺跡だそうだ。内部は既に探索済みだし、魔物の心配はないらしい」


 後から父がそう語りかける。


「お父様、これっていつの時代の遺跡かしら?」


「装飾の形から考えるに、2000年以上前の文明だろうね」


「アスガルスが建国する前のものだなんて、とても古い文明のものなのね。どの文明のものなのかしら」


「そればかりは中を調べないと分からないね。魔物は居ないとは聞いたけど、離れてはダメだよ」


 2体の巨人像が支える入り口に、探索隊が入る。

 長く狭い通路を抜けた先は、巨大な空間が広がっていた。4本の柱が天井を支え、壁には荘厳な装飾が施されている。

 当時の栄え具合が伺えるが、今や瓦礫や遺骨が散乱するばかりであった。

 騎士は周囲を警戒しており、学者達は壁や装飾品を観察している。


「この石板、永久機関に関する記述が記されているぞ!」


「無限のエネルギー……? そんな物をゴーレムに持たせる実験をしていたのか?」


「建物の形からして、ここは研究所か工場なのでしょうか」


 みんな話しかけられそうにもないから、適当に歩き回っていた時。

 

「これは……?」


 壁に走る亀裂から、通路が見えた。

 魔法で壁を壊して、中を進む。通路というには岩肌が剥き出しになっており、隠し通路の様に思える。

 魔法の光を頼りに10mほど進むと、先ほどよりも巨大な空間が広がっている。しかし明らか異なる点がある。ゴーレムと思わしき無数の残骸が横たわっていることだった。

 正方形と長方形を組み合わせた、三角頭と巨腕の不思議な形状のゴーレムであり、数にして数百体だろう。しかしどれもが瓦礫の山とかしている。

 その空間はひどく寂しげで、まるで墓地にいるかのようだった。


(なんだか、怖いわ)


 やがて孤独感に苛まれ、戻ろうとしたその時。

 部屋の真ん中に何か佇んでいた。

 瓦礫を避けて進むと、周囲に眠っているものと同じゴーレムだった。近づくとそれは跪いたポーズで固まっており、左手付近には巨戦斧(バルディッシュ)が見える。

 跪いた形でも5mはあり、しかも他のゴーレムよりも状態が良かった。今にも動き出しそうなそれだが、その気配は無い。

 

 「この子、ずっと一人だったのかしら」


 暗く、残骸に溢れた部屋で何かを待つ様に膝まずく姿は、酷く寂しそうだった。

 その姿が、何故かかつての自分と重なる。

 

「何だか、似ていますわね」

 

 そう思い手に触れた瞬間だった。

 

―ギルルル


 唸り声に振り返ると、黒く巨大なトカゲが瓦礫からその姿を覗かせていた。


「ま、魔物っ!?」


 赤い目に睨まれたからか、身体が上手く動かせない。

 

「エーデルっ!!」


 かろうじて動く首で声の方向を向くと、父がいた。魔力の流れを辿ってここまで来たのだろう、必死の形相で走り、左手に魔法陣を作っている。

 しかし距離が遠く、間に合わない。

 魔物は私に飛びかかり、その牙を見せる。

 

(助けてっ!!)


 思わず目を瞑ったその時。


―ゴンッ!!


 風圧と共に、打撃音が響く。

 目を開けると、魔物は壁まで吹き飛ばされていた。魔物はもはや原型をとどめておらず、思い切り壁に投げつけたトマトの様に血を撒き散らしている。

 振り返ると、ゴーレムが拳を突きだしたまま制止していた。

 

「もしかして、貴方が……?」


 その問いに反応して、ゴーレムが目を合わせる。

 三角兜の暗闇から覗かせる、赤と青の光が静かに揺らいでいた。

 

「エーデル!」


 横から父が抱きつく。

 娘の無事を喜ぶように、力強く。


「お、お父様っ!?」


「駄目じゃないか、勝手に離れては。本当に……、生きた心地がしなかった……」


「勝手にごめんなさい。すぐに帰るつもりだっのだけれど、このゴーレムが気になって」


 その言葉に、父はようやくゴーレムに気づき、思わず後に下がった。

 

「……ゴ、御主人様」


 岩が響く様な声で、ゴーレムが話す。

 

「メザメサセテイタダキ、感謝、シテイマス。キョウヨリ貴方様ガ、ワタシノ主(アルジ)」


 忠誠を誓う騎士の様に、ゴーレムは私に跪く。

 これが、ガディとの最初の出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。