第27話:大切だからこそ信頼を
友達との会話に花が咲き、時間はあっという間に過ぎていった。
「あ、もうこんな時間だ」
時計を見たノーチェがそう呟く。
「ごめん2人とも! 教室遠いからもう行かないと」
申し訳なさそうな声で手を合わせてそう言った。
「そうなんだ、それじゃまた」
「うん! リト、エーデルちゃん、またあとでね」
そう言ってノーチェは急ぎ足で保健室を出る。
「エーデル、僕もそろそろ行くよ。身体に気を付けてね」
僕も部屋を後にしようとしたその時。
「ちょっと待ちなさい、アベンチュラ」
エーデルに引き留められ、振り向く。
「どうしたの?」
「渡したいものがありますの、受け取りなさい」
そう言って魔法陣から取り出した物は、大きな銀の毛皮だった。
「これって?」
「上位銀熊の毛皮、昨日ゴーレムに剥ぎ取らせましたの。ざっと3匹分ですわ」
続けて取り出したのは、黄金に輝く5本の爪だった。長剣の様に長い爪は若干焦げているが、鋭利な光沢を放っている。
「もしかして……」
「察しがいいわね、これは森の王―皇帝豪熊の爪ですわ」
どうやら、昨日僕が応急処置を施している間に戦利品も回収してくれた様だ。
「でも、なんで僕に?」
「これは貴方が持つに相応しいわ、あの森の王の横面を引っ叩いたのですから。学園の工房に持っていけば、武器に加工してくれるはずよ」
「でもこんな高価なもの加工してくれるかな。修理ならまだしも、製作依頼はかなりお金がかかるだろうし」
「毛皮を依頼料に充てなさい、傷も少ないのだからかなり高値で引き取っていただけますわ」
そう聞きながら、僕は銀熊の毛皮を撫でる。
確かに傷も殆ど無く、さらに硬い。
「でも貴方はもう武器を持っていますのね」
僕の腰にぶら下がる剣を見て、エーデルがそう呟く。
「一応予備武器が欲しかったからそれをお願いするけど、多分4本余るね」
もし作ってもらうなら短剣だろう。
携帯しやすいし、解体とかにも便利そうだ。
「そういえば、スエーニョは武器を持っていますの?」
「学園に支給された鉄製のグローブがあるよ。あ、でも確かあれ、昨日の戦いで壊れたんだったけ」
今朝ノーチェがそのようなことを言っていた。
手入れも殆どしてなかったから、ガタが来たのだろう。
(今日の放課後に修理してもらうみたいだけど、多分すぐ壊れるだろうな。あれは魔法使い用のグローブだから、格闘家みたいな近接戦を想定して作られていないし)
そのようなことを考えていた時、エーデルが口を開く。
「せっかくですし、スエーニョに新しい武器をプレゼントするのはどうかしら? さっき渡した素材でなら、頑丈なグローブができるはずよ」
確かにあの毛皮と爪で出来たグローブなら、滅多に壊れることは無いだろう。それだけでは無い、更に高い攻撃力も見込めるかもしれない。
(でも強い武器を持たせたら、いつも以上に前へ出るようになるんじゃないかな?)
ノーチェは治癒魔法の適性が高いが、その分身体は闘気を扱うに適していない。いくら格闘が得意でも、闘気での防御ができなければ昨日のように怪我を負ってしまう。
そもそもノーチェが前へ出て欲しくないのに、前線を勧める様に武器を渡すのは気が引ける。
「何を迷っていますの?」
「確かに強い武器はできるかもだけど、ノーチェにはこれ以上怪我してほしくないんだ」
「それは杞憂ですわ。彼女は強いことは、幼馴染の貴方がよく知っているんじゃないかしら?」
確かにノーチェは僕よりも身体能力が高い。
それでも、やはり気が進まない。
エーデルもそれを察してか、口を開く。
「アベンチュラ、仲間というのは信頼して背中を預けるものですのよ。それにスエーニョの意志も尊重すべきではないかしら?」
信頼、確かに僕は少し過保護になっていたのかもしれない。ずっと側に居てくれた人だ、だからこそ信じるべきなのだろう。
「まぁ、その爪をどうするかは貴方次第ですわ」
「ありがとうエーデル、身体大事にね」
最後にそう言って僕はドアノブに手をかける。
迷いない足取りで、僕は部屋を後にした。




