第22話:満身創痍の勝利 (2)
受け取った小指と指輪を手に、エーデルへと駆け寄る。咳が止まっているが、口周りは血だらけで呼吸も掠れてきている。
だが指輪を付けさせた途端、徐々に呼吸も落ち着き始めた。
(病気を鎮める魔道具? とにかく、マシになったみたいで良かった)
しかし意識はまだ朦朧としている様で、何uも反応が無い。
意識が回復する前に、治療へと取り掛かる。
幸い、患部の状態が良く、応急処置だけでもくっつきそうだ。
眠妃草と爪を細かく刻んですり潰したら、紙に包んで瓶の中に浸して煮沸。グツグツと沸騰し始め、水の色が青くなったら、麻酔の完成だ。
それを注射器に移し、切断面に注入する。
(大丈夫、切断面の縫合は授業で何度もやった。緊張しすぎると手元が狂う)
深呼吸し、指の震えを抑えながら、指に糸を通す。友人の肌に針を突き刺す感覚は、一生慣れないだろう。それでも心を無にすることで、無事に縫合を終えた。
(よし…、後は回復薬をかけて包帯を巻けば、ひとまず安心)
しかしこのままでは、くっつくのに数週間はかかるし、何より後遺症が残る。本格的な処置は学園の医師に任せよう。
ノーチェの元と移動しようとしたその時、袖を引っ張られた。
「リ…リト…?」
喉を振り絞る様な声で、エーデルがそう呼んだ。
「エーデル! やっと起きたんだね。大丈夫、皇帝豪熊は追い払ったよ」
「あいつを…貴方が…。ゲホッ゙!、ゲホ、」
激しく咳ごみ始め、血を吐いた。
「まだ喉が傷ついてるんだから、無理して話したら駄目だよ」
「これくらい、慣れてますのよ…。それにガディ、何で貴方まで…」
エーデルはゴーレムに手を伸ばす。
応える様に手を差し伸べた。
『申し訳御座いません、ご主人様。魔法陣を破るのに時間が掛かりました』
「貴方…、腕ヒビ入ってるじゃない。身体が脆いのに、無理しないで…」
嗚咽混じりで、エーデルはそう言った。
口調のきつい彼女だが、ゴーレムへの愛情が本物であることがわかる。
「エーデル、とにかく安静にして。僕は帰還の準備をする」
「待ちなさい…リト。帰還の準備は、私の…ゴーレム達がやりますわ。その間に治療を…」
「分かった」
早速ノーチェの元へと駆け寄る。
「ノーチェ! 大丈夫?」
ノーチェは脇腹を押さえたまま、座り込んでいる。
「リト…。ヘヘ、来てくれたんだ。大丈夫、ちょっと折っただけ」
作り笑いとわかるほどに酷く苦しそうだ。
「大丈夫、魔力回復薬だけくれれば、自分で治癒するから…。それより、キラ君を…」
「強がらないで、ノーチェも重症なんだから」
折れている箇所は肋骨と肩だろう。それに内臓も傷が入ってるかもしれない。患部に包帯を巻き、近くの枝木で固定した。マナポーションを飲ませたが、1本だけでは足りないだろう。
「リト凄いね…。あんな強い魔物を追い払っちゃうんだもん」
「みんなが命を掛けてくれたおかげだよ、僕一人じゃ決して勝ち取れなかった」
満身創痍だが、みんなで掴んだ勝利だ。
僕が勇気を振り絞れたのは、みんなに託されたからだ。誰一人欠けては成し得なかった。
ノーチェに肩を貸し、エーデル達のいる場所へと運ぶが、身体の傷と魔力の枯渇でいつもより身体が重く感じる。
しかし突然、身体を生命力が満たす感覚がした。
傷口が温かい物に包まれ、徐々に塞がり始めている。
「ノーチェ、!?」
「キラ君も…運ぶんでしょ? これしか出来ないけど…頑張っ…」
ノーチェは瞼を閉じ、静かな呼吸を繰り返している。
(ただでさえ少ない魔力と体力を、全部僕に…?)
その頃には傷口の全ては塞がっていた。
魔力も闘気も底を尽きていることは変わりないが、以前よりも身体が軽く感じる。
「本っ当に、ノーチェの治癒魔法はよく効くな」
ノーチェを荷物の側へと寝かせ、すぐにキラの元へと走る。曖昧な記憶を頼りに見つけたキラの姿は、酷いものだった。
肉は所々欠けており、手足の方向もあべこべだ。
目元は髪に隠れよく見えないが、止めどなく血が流れているだけである程度察せる。
「キラ…! キラ!!」
幾ら揺さぶっても、呼びかけても反応は無い。
しかし傷口から覗く細胞はゆっくりと蠢いている。それは彼が生きていることと、彼が人外の吸血鬼であることを雄弁に語っていた。
(吸血鬼だから、回復薬は逆効果なんだっけ。せめて包帯だけでも巻こう)
応急手当を終えて、傷を刺激しないように慎重に運んだ。
みんなの所へと寝かせた後、周囲を見渡す。
荷物の全てはゴーレム達が纏めてくれたようだ。
(後は帰還石を使うだけかな)
ポケットから帰還石を取り出す。
赤い半透明の石だが、魔法的な光を帯びている。
そして、残り少ない魔力を腕に込めて、力を加えた。
石は簡単にヒビが入り、漏れ出た赤い光が周囲を満たす。
目を開くと僕たちは、スタート地点へと戻っていた。さっきの激戦が白昼夢のようだが、手に握られたアンリステルの欠片が現実であることを証明している。
「君たちやっと戻ってきた…。て、その怪我どうしたの!?」
白衣を着た女性が、そう叫ぶ。
「きょ、教授…」
疲労がどっと押し寄せる。
極度の疲労に抵抗できるわけもなく、僕は意識を手放した。




