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閃光の勇者  作者: バジルソース
第1章:小さき光よ、蒼星を目指せ
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第20話:小さき光



 緑に覆い尽くされた自然の絨毯(じゅうたん)が、赤黒く染まる。

 ノーチェは出血の止まらない脇腹を抑え、座り込んでいる。自分を治癒する魔力も体力も殆ど残ってないようだ。

 キラは2匹の上位銀熊(ハイシルバーベア)に挟まれ、玩具の様に叩きのめされ満身創痍(まんしんそうい)。

 アルバとエーデルは出血多量で倒れていることまでしか分からない。早く助けに行きたいが、皇帝豪熊(ロードグリズリー)とその配下に立ち塞がれている。


「ノーチェ、エーデル、アルバ、キラ…」


 全滅(・・)、その言葉で頭が覆い尽くされる。

 鍔と刀身の付け根が小刻みに震え、ガタガタと鳴る。

 

(僕が遅かったせいだ…。まただ、また僕が弱いせいで…)

 

 ―僕が無力だったせいで、故郷が灰に帰した。


 ―もう失わないために、勇者を目指した。

 

 ―しかしその志しは、同じ過ちで終わる。


(…いや。何を諦めているんだ、僕)


 また諦めようとしてしまった。

 自分は弱いからと、それを理由に立ち向かうことを放棄していた。


(その度に、誰かが背中を押してくれた。いつも僕に勇気をくれた)


 しかしその誰かは今、死に直面している。

 何度も僕に勇気を与えてくれたんだ、ここでそれを捨てれば、みんなを、自分を裏切ることになる。


(今は誰も後に居ないんだ。僕が戦わないと駄目なんだっ!)


 その頃には、剣の震える音は止んでいた。


「僕は、勇者になるんだっ!!」


 小さな勇気を胸に、森の王へと剣を向ける。

 それでも奴は、愉悦に顔を歪ませ、無防備に立っている。

 配下の銀熊も同様、見世物に群がる群衆の様に僕をみるだけだ。

 きっと僕は見せしめだ。王に逆らった者がどうなるかを知らしめるために、あえて直接手を下すのだろう。あるいは、ただ興を満たすための道化かもしれない。

 

(完全に見下している。むしろ、攻撃を与えるチャンスだ)


 倒せなくていい、追い払えばいいんだ。

 慢心いている今、出鼻を挫(くじ)いてやれば警戒して退くはず。しかし皇帝豪熊を追い払えるほどの一撃を叩き込むには、出し惜しみは出来ない。 

 全ての魔力、闘気、僕が使える手札の全てをつぎ込まなければ。


(もし次の一撃で追い払えなかったら…。いや、何弱気になってるんだ僕)


 そうならないために、一撃で決めるんだ。

 しかし奴の視界に入っている間だと妨害されかねない。


「《眩い光(フラッシュ)》!」


 突きだした左手の魔方陣から、強い光が放たれる。油断した魔獣はもろに浴び、視界が奪われる。

 発動に時間がかかる技だ、これなら横槍を気にせずにできる。


(まだ一回も成功していない技だけど、ここで決めるしか)


 腰を落とし、技への衝撃へと備える。


「《魔法付与・火炎《エンチャント・フレイム》》、《魔法付与・雷光《エンチャント・サンダー》》」


 竜を模した剣に、炎と雷が纏わりつく。

 炎はより激しく吹き荒れ、雷はよりけたたましく轟いた。最初に試した時とは比べものにならないほど、凄まじい力。それもそのはず、魔法付与と同時に闘気も流し込んだのだ。

 精霊の魔力と人間の闘気を一瞬で混ぜれば、より凄まじい反発を起こす。鋼の剣ですら1秒も保たないだろう。


(師匠、僕に力を…!)

 

 祈りに呼応してか、それともエネルギーの奔流に起こされてか、剣に眠る竜の魂が目を覚ました。

 瞬間、刃に奔る魔力に変化が起こる。

 炎は白く燃え広がり、雷は輝きを増し轟く。

 暴力的ともいえる魔力は聖なる力へと変わり、その姿は聖竜が吐き出した竜息(ブレス)の様だ。

 

(凄い、聖属性に…! でも、重すぎるっ!)


 剣がある程度の反動を吸収してくれているとはいえ、今まで以上に負荷が激しい。まさに竜の手綱を引っ張ってる様だ。

 これでは剣ではなく腕が弾けるかもしれない。

 早く振るわなければ、しかし一歩も動けない。


(闘気で肉体強化して、魔力で制御するんだ。少しでも安定させないと)


 残りの闘気と魔力を総動員させる。

 筋肉、骨、臓器の全てに闘気を覆い、全神経を魔力で刺激して無理矢理にでも身体を動かす。

 

(あと、少し…)


 僅かながら、足が動いた。それだけでも激痛だが、耐えなければ。

 標的を定めるために、前を向く。

 しかしその頃には、皇帝豪熊の右腕が迫っていた。技に集中するあまり、接近されていることに気づけなかった。


(は、早すぎるっ!後少しなのにっ!!)


 もはや目と鼻の先。咄嗟に目を瞑った。

 しかし攻撃が来ない。

 目を開けると、皇帝豪熊の爪は地面を突き刺していた。  

 それからも、何も居ない虚空を、執拗(しつよう)に攻撃している。

 まるで見えない何かに翻弄(ほんろう)されている様な。

 

(まさか、?)


 幻覚にかかっているんだ。

 こんなことを出来るのは、彼しかいない。


(この距離なら!)


 絶対に外さない。渾身の力で、奴の左頬へと叩き込んだ。


「【クラージュラム】っ!!!」


 接触した衝撃が引き金となって、反応が頂点に達した。

 雷、炎、闘気、そのエネルギーが水蒸気爆発の様に弾け、それが鋭い閃光となって森全体を照らす。

 夜の様に暗い森は、一瞬太陽に照らされたかの様に光で満たされた。

 クラージュラム―閃光の勇者が愛用した聖剣の名であり、その言葉には「折れない勇気の刃」という意味がある。

 伝説では、聖剣の光は世界の果てまで照らしたという。そして彼が歩んだ旅路は、100年経った今でも語り継がれ、人々の心を照らした。

 故にこの名は不相応だが、凡人が勇者を目指す時点で、それ以上の身の程知らずだ。大多数の人間が不可能だと言うだろう。

 しかし勇者は、不可能を乗り越えた者。

 その不可能を乗り越えてこその勇者だ

 だから僕は、最初に彼の光を目標にした。

 この技は、いつか世界を照らす光に至ることへの、《《決意》》だ。


(必ず、みんなを守るっ!)


 炎と雷の魔力は絶え間なく周囲を焦がし、凄まじい衝撃波が天井の草葉をきり刻む。

 エネルギーの濁流は、一瞬の閃光を最後に鎮まった。

 立つのが困難なほど、重い疲労感が身体にのしかかった。しかしまだ倒せた確認できていない、剣を杖に、点滅する視界で必死に相手を捉える。

 

(ちゃんと、効いたかな…?)


 視界が戻り、ようやく捉えた奴の姿は、酷い有様だった。

 白銀の毛皮は所々黒く焼け焦げ、自慢の王冠は見る影もない。

 長く鋭い爪は根元から折れ、牙も粉々だ。

 武器のほとんどを失い、もはや皇帝の名に劣る魔獣は、それでも威嚇している。


「グルル」


 しかし覇気は無く、弱々しい。

 皇帝豪熊(ロードグリズリー)はゆっくりと後退っている。


「グォォォォォォォォォッ゙!!」


 負け犬の遠吠えか、咆哮をあげて奴は森の奥への逃げ帰った。

 

「やった…、勝った…」


 魔力も、闘志も全て尽きた。

 満身創痍の勝利だが、それでもみんなを助けられた。

 斉竜は、日の光を浴び、誇らしげに輝いている。

 


◯戦技

⦿クラージュラム

流し込んだ炎と雷の魔力に聖属性を付与し、さらに闘気を流し込むことで爆発的な反発を生み出す技。

少ない魔力量で高い破壊力を得ることができるが、制御と反動で全ての魔力と闘気が吹き飛ぶ。

その名はかつての勇者が愛用した聖剣であり、世界を照らした光に比べたら、天と地では形容出来ないほどの差がある。

それでもリトは、勇者を目指す決意を込めてこの名を冠した。

故に、決して折れない。



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