第19話:森の王に挑むは5人の未熟者 (4)
アンリステルが落ちたであろう方向へと走るが、上位銀熊に行く手を阻まれた。
―ガキンッッ!!
魔獣の爪を斉竜で受ける。数秒の鍔競り合いの後、爪を真横へ受け流す。
その隙を付いて剣を振るうが、空かした。
息つく間もなく、背後から二匹目の魔獣が迫る。
爪が肩に直撃し、また血に染まる。
「《治癒》」
傷が静かに塞がった。
(やっぱりノーチェの治癒魔法はよく効くな。でも治癒魔法では消耗したスタミナまでは戻らない、温存しながら戦わないと)
一瞬ノーチェに目配せする。まだ余裕だよと言わんばかりの目だが、明らかに息切れが激しい。
(ノーチェもそろそろ限界みたい)
治癒魔法は術者の体力を消費することで、対象の再生能力を大幅に強化する。そのため治癒魔法は普通の魔法よりも消耗が激しい。
(これ以上の負傷は避けないと)
また一匹目の魔獣が襲いかかる。
「リトに近づかないで!!」
ノーチェがそう怒鳴り、魔獣の脇腹を蹴り上げた。しかし魔獣は気にも止めていない。
続けてキラが、魔獣目掛けて発砲した。
音ならぬ弾丸は空気を切り進み、魔獣の右腕を血に染めた。だが傷口はあまりにも小さい。
(硬い、物理攻撃が殆ど通じてない)
魔獣の一撃を、再び剣で受ける。しかし受け流してばかりでは埒が明かない。
「《魔法付与・雷》」
純白の刀身を電気が纏う。迸る電撃は爪を通して、魔獣の身体を走った。
焼け焦げる毛皮、それでも猛攻は緩まない。
(ダメだ…、刃が立たない)
明らかに火力が不足している。このままではジリ貧だ。
「ノーチェ、キラ! 僕達じゃ倒せない、魔獣を無視して進もう!」
「でもコイツら、しつこいもん!こんな中で探すのなんか無理だよっ!」
ノーチェはまた魔獣へと拳を叩きつける。
一瞬よろめくだけで、殆ど傷は与えられていない。
(申し訳ないけど、ノーチェとキラじゃ足止めにならない。僕が盾になって、キラに探させてもらうしかない)
「ノーチェ! 僕の後ろで回復に専念して! 僕が銀熊を引き受けるから、キラはその間にアンリステルをお願い!」
「わ、分かった」
キラがそう返事をし、武器をしまい離脱する。赤い色の石だから、すぐに見つかるはずだ。
銀熊がキラへと振り返る。追わせる訳にはいかない。
「―《炎の球》!」
火球が炸裂し、銀の毛皮を焦がす。
銀熊の上位種とはいえ、炎はある程度効くようだ。魔獣は怒りの形相で爪を向ける。
2匹の猛攻を受け、捌く。しかし全てを捌き切れなかった。頬を切られ、腕を切られ、切り口から絶え間なく血が滴る。
「リト! 待って直ぐに回復を…」
ノーチェが慌てて治癒しようとしたその時だった。お互いのことで必死になり過ぎて、周囲の確認が出来なかった。1匹の銀熊がノーチェへと突進し、吹き飛ばされる。
「ノーチェっ!!」
「うっ…」
脇腹を押さえた手が緑光を帯びている。
回復する隙は与えんと、突進した銀熊が爪を振り上げた。
「駄目だ!!」
間に合わない。
ノーチェは傷を負って避けられる状態では無い。
「嘘…、嫌…」
迫りくる死を前に、ノーチェはか細い声でそう呟く。恐怖と、何者かに縋りたい弱さが、その声に籠もっていた。
―ガキンッ
振り被られた爪を受け止めたのは、白曜の短剣。それを手に持っているのは、黒いハーフローブを身に着けた黒髪の吸血鬼―キラだ。
「ごめんリト! アンリステルは見つかったけど拾い損ねた」
キラは押し負け、爪をその身に受けた。
傷口からは赤々とした血が噴き出ている。
「キラっ!」
「大っ丈夫…!! 吸血鬼だから耐久には自信がある。俺は魔力が使えないから、君がアンリステルを使って」
引き裂かれた胸部を抑え、1本の大木へ指を差した。
「あの木の下にあった! 魔獣は全員俺が引き受けるから早くっ!!」
そう言うと、腰の小物入れから鈴を取り出した。
紫色の禍々しい丸鈴だ。
「まさか、『金切り鈴』?」
キラはそれを思いっきり振るう。鈴からは、獣の咆哮にも似た不協和音が響く。
音の範囲にいた上位銀熊2匹が、キラの方へと向かった。
(キラ、ありがとう。直ぐに見つけないと)
キラが差した大木の方へと向かう。
振り向く時間も命取りだ。ただ必死で走り、草木をかき分ける。
(どこだ、アンリステル)
足を覆い尽くすほど生えた草の中、赤い光を放つ物を見つけた。
「あった!」
アンリステルだ。これを持ってみんなを早く集めなければ。
「!? み、みんなっ!!」
背後の光景は絶望そのものだった。
魔道具解説
◯金切り鈴
等級:4級
悪魔を象った紫色の丸い鈴。
振るうことで、獣を挑発する音を発する。




