第16話:森の王に挑むは5人の未熟者(1)
「皇帝豪熊っ!?こんな所に遭遇してしまうだなんて」
エーデルがそう驚きながらも、すぐに詠唱に入った。
「まってエーデル!あんなやつまともに戦って勝てるわけないよ。みんな僕に集まって!」
リトは集合を呼びかけ、ポケットから紅い石を取り出した。
(探索前に教授から配られたアンリステルの子石。これを砕けば、親石のあるスタート地点にすぐ戻れるはず)
リトは魔力を込めて砕こうとした。
しかし腕に力が入らない。
未だに咆哮の圧が身体に刻まれているようで、全身が痺れている。
「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
皇帝豪熊が雄叫びを放つ。すると周囲の風が荒れはじめ、激しい突風が起こった。
「戦技の【旋風】だ!みんな飛ばされないように気を付けて!」
偶然か、それとも皇帝豪熊が意図してか、突風はリトを中心に吹き荒れ、アンリステルが飛ばされてしまった。
(不味い、アンリステルが)
リトは咄嗟に逃亡出来る道を探そうと、周囲を見渡す。しかし全方位を10体の上位銀熊が囲んでいる。
(終わった、こんな数相手に逃げ切れるはずが無い…)
皇帝豪熊はリト一行を見下ろし、牙を覗かせている。獣の笑みは威嚇と言われているが、こいつは愉悦を含ませていることが見て取れる。
リトが伸し掛かる絶望に耐えきれず、崩れ落ちそうになったその時、ノーチェが裾を掴んだ。
「…」
恐怖で声も出せないのだろう。
潤んだ瞳で求められる助けを前に、リトは無意識に踏みとどまっていた。
「ノーチェ、でもどうしたら…」
「リト・アベンチュラ!!」
リトにそう一喝したのはエーデルだった。
「貴方も勇者に憧れる者なら、今こそ一歩踏み出しなさい!少しでも生きる可能性を諦めては駄目よ!」
激励と同時にエーデルは、魔法陣の構築を始めている。皇帝豪熊はそれに気づいてか、咆哮による号令で5体の上位銀熊でリト一行を囲ませた。
(まずい、今のエーデルは無防備だ)
リトは咄嗟に剣を抜き、構えた。
「手出しは無用よ」
駆け出しかけたアルバが立ち止まる。
そのタイミングで上位銀熊が一斉攻撃を始めた。
「《大地の精霊に我が祝詞を》《大地の鋭牙》!!」
詠唱が木霊し、地面から鋭利な岩石が突き出す。
岩の牙が5本、魔獣の腹を突き破り、一瞬で絶命した。
「私が先陣をきりますわ。皇帝豪熊の相手は私に任せなさい。貴方達は残党の処理をお願いしますわ」
「エーデル、君だけでアイツを倒すのは無謀すぎるよ」
「戦う以外の選択肢がありますの?」
エーデルの言葉も最もである。
(逃走手段がないけど、僕達が戦って勝てる相手ではない。どうしたら…)
リトが思考を必死に巡らせるも、打開策が浮かばない。
「心配するな相棒、確かに俺たちだけで倒すのは無理だ。なら逃げればいいじゃねぇか」
アルバがそう言い、リトの肩に手を置いた。
その手は不思議と、心強かった。
「でもアンリステルが無いんだ、どうやって逃げれば…」
「アンリステルなら左に飛ばされたぜ。そこはちょうどアイツらの守りが薄い。リト、オメェが探すんだ」
アルバはリトの背中を軽く叩き、前へと立つ。
「俺がボスの相手をする。エーデルはその取り巻きを頼む」
「ずいぶんな自信ね、血の臭いでまたさっきみたいにならないかしら?」
「…よくわかんねぇが、さっきのは悪かったよ。ゴーレム使いのアンタが取り巻きを相手した方がいいだろ」
「それもそうね、先ほどの言葉は訂正しますわ。スエーニョはアベンチュラのサポートをしなさい」
「わ、分かった」
ノーチェは咄嗟に動く。
「キラ、貴方は動けますの?」
「大丈夫、傷も塞がった。俺だけ何もしないわけにもいかない」
キラは剣を抜き、ラッパ銃を構える。
「ならスエーニョと共にサポートしなさい。私は、上位銀熊をお相手いたしますわ」
エーデルが魔法陣を展開すると、5体の人形が取り出された。刃の手を持つマネキンが、文字通り糸の切れた人形の様に地に伏せている。
「《無垢なる義体に 魂を与えん》」
錬金術の詠唱が終わると、マネキン達が起き上がる。
「ジック、アリス、グレーテル、魔物の相手をしなさい。ヘンゼルとピーターは生徒の亡骸を運びなさい」
ゴーレム達は主の指示に従い、行動した。
「アベンチュラ、私達が押さえますから、早くアンリステルを見つけなさい」
絶望に沈んだリトだが、心強い仲間達の存在に、心に闘志が灯った。
(背中を預けられる仲間がこんなに心強いなんて…)
仲間達の信頼に応えようと、リトは走った。
アンリステルをみつけ、生きて帰るために。
戦技解説
◯旋風
闘気を回転させることで、凄まじい風を生み出す。
魔法解説
◯大地の精霊に我が祝詞を
等級:上級
地属性魔法の火力、効果範囲、貫通力が大幅に上昇する。
追加詠唱に分類される魔法であり、次に唱える魔法の効果を上げる。
◯大地の鋭牙
等級:上級
自身を中心に、真下から鋭い岩石を円形に生やす。
対象の真下に生成されるため、囲まれた際に重宝される。
◯無垢なる義体に 魂を与えん
等級:中級
ゴーレムを即席で起動させる錬金術の詠唱。




