第14話:亀裂(1)
(そうだ、早く止めないと)
咄嗟にリトはアルバに向かう。
血と臓腑の臭いに構わず、アルバへと走り出す。
「オラァどうした!もう終わりじゃねぇよなぁ!?」
アルバは盗賊の亡骸に刀を何度も突き刺し続けている。
リトはアルバを羽交い締めにして、なんとか盗賊から引き離すことに成功した。
「アルバ…もうやめて!もう全員…死んでるから!」
必死な声に、アルバはようやく手を止めた。
「お、相棒。どうしたんだ?」
日常で会う時と変わらない口調だが、服は全身血まみれで、その姿は食事中の猛獣そのものだった。
「それはこっちの…セリフだよ。もう死んでるのに必要以上に攻撃してさ…」
リトは恐怖を押さえつけ、必死に言葉を続ける。
「こいつら盗賊だろ?別に殺してもいいじゃねぇか」
リトは盗賊を殺したこと自体、咎めるつもりはない。盗賊が冒険者の討伐対象になることなんて良くあることだし、相手は何人も殺しているから、生かす理由なんてない。それはノーチェもエーデルも同じ考えだろう。
「ミスタード!!なんで急に突っ込んだりなんてしたのよ」
エーデルがそう怒鳴った。
「あ〜、つい癖でな。盗賊相手にするのも久しぶりだったからよぉ」
「癖?貴方何度もこんな殺し方してるの…?」
「まぁ昔から盗賊を狩るのが趣味みたいなもんでな。全員指名手配だったから、首を協会かなんかに持っていけば報酬も出るし、一応感謝されるんだぜ?」
まだアルバは、盗賊を殺したことを責められていると思っている。エーデルが殺し方について指摘しても、アルバは全く気に留めていない。
これが彼にとっての常識なのだろうか。
「エーデル、今はそれより生徒の方を心配しないと」
そもそも生徒を救出することが最優先だ。
生徒の方に目を向けると、ノーチェが既に治癒を試みている。
しかしノーチェの顔は暗かった。
「ダメ…。3人は、もう…」
出血が激しく、間に合わなかったのだろう。
「アタシが、もっと早く動いて治癒していたら…」
「ノーチェ、みんな動けなかったんだ。あの光景を目の前にしたんだから、仕方ないよ…」
リトは恐怖を押さえつけ、ノーチェをフォローした。ノーチェは先ほどの光景があまりにもショックだったのだろう、嗚咽もまだ止まっていない。それでも彼女は、人を助けるために行動した。
「その様子じゃどの道間に合わねぇな、本当に仕方ねぇ」
「貴方ねぇ!だいたい貴方が勝手に動いたからこうなったんでしょ!」
ぶっきらぼうに話すアルバに、エーデルが激しく怒鳴る。
「確かに、勝手に動いたのは悪かった。反省してる」
口調から、本心からそう思っていることが明白だが、それでもどこか価値観のズレを感じる。
「本っ当に、貴方は人間なの?」
「どっからどう見ても人間だろ?」
「なら人間は殺人を楽しむのかしら?そんなの魔物じゃない?」
「賊なんてそういうやつばっかだぞ?悪意持って人から奪うやつなんて数え切れんほど見てきたからな」
「それでは貴方も同じじゃないかしら?」
「何言ってんだ?」
アルバは不思議そうな顔でこう言った。
「俺は悪意持って殺してねぇし、そもそも俺楽しんでたのか?」
周囲が静寂に包まれる。地面は草花の生えた地面のはずが、アルバと3人の間だけに崖ができたかのような孤立感が空気を淀む。
「な、なぁ何で急に黙り込むんだ?おい相棒、お前からも何か言ってくれ…」
―バシ
助けを求めるようなアルバの手を、リトは反射的に叩いた。
「……相棒、?」




