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閃光の勇者  作者: バジルソース
第1章:小さき光よ、蒼星を目指せ
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第9話:劣等生




 おぼろげな視界に写っているのは、あの時の地竜(アースドラゴン)だった。しかし現実より恐ろしく、巨大な。

 あの時のようにノーチェを守ろうと、剣を振るう。しかし何もできず、僕は地面へ叩きつけられる。地竜は僕に目もくれずノーチェへと迫る。ノーチェは怪我をして動けない。

 早く立ち上がらないと、早く、早く…。


「もう、失いたくないっ」

  

 声を引き絞るが、そんなんで地竜は止まらない。

 地竜はノーチェへと食らいつかんと、覆いかぶる。 

 最後に写ったのは、助けを求める彼女の顔だった。



―――――――――――――――――――――――



「ノーチェっ!!」 


 手を伸ばそうと起き上がる。

 視界に写るのはいつもの寮だった。

 さっきの光景が夢だったことに安堵(あんど)しようとするが、まだ心臓はバクバクと鼓動しているし、脂汗(あぶらあせ)が止まらない。

 安堵しきれないのも、充分あり得た未来だからだろう。あの時、助けが来なければ、悪夢は現実になっていたのだから。


(そもそも僕がもっと強ければ、ノーチェを守りきれたんだ)

 

 十数年前だって、自分に力があれば故郷も滅びなかった。

 

「もう失うのは嫌だ。もっと…強くならないと」

 

 基礎的なトレーニングだけではまだ足りない。

 そう思い立ち、袖に腕を通す。


―――――――――――――――――――――――



 まず始めたのは、同級生との模擬戦だった。自分の力量について正確に知るには、これが手っ取り早いと思ったからである。放課後の体育館は、生徒が各々鍛錬に励んでおり、生徒同士の手合わせも盛んである。

 

―カンッ!! カンカンッ!! カンッ!!

 

 同級生に木剣を何度も振るうが、殆(ほとん)ど防がれる。

 不意を突いた一撃なら何度か当たったが、大した攻撃にもなっていない。6人連続で手合わせした疲労がここで足を引っ張ってきたのか、隙を突かれる。


―ガンッ!

 

 ギリギリで防御に成功したが、受け止めきれない。そして力負けして、一撃が頭上へと被弾した。


「ぐっ……。降参するよ」


 最後に握手を交わした後、相手の人は居なくなった。

 

 (流石に疲れた。少し、休憩しよう)

 

 近くのベンチに座り込み、水を飲み干す。

 手合わせの相手は、出来るだけ自分と同じ力量の人を選んだつもりだった。しかしその6人全員に敗北した。


(いくら闘気で肉体を強化しても、この有様か…)


 はっきり言って、自分と基礎的なスペックは学園内でも下位に近かった。だからこそ、相手の動きを観察することでそれを補おうとした。

 しかし小手先では埋まりきれないほど、ここの生徒とは大きな差があったことを気付かされた。


(コツコツ積み重ねるだけじゃ足りない。もっと、工夫しないと)


 やるせない気持ちで天井を仰いだ。

 その瞬間、外から叫び声が響く。


「リーートーーーっ!!!」


 その声はノーチェだった。声からしてただ事じゃないだろう。体育館から飛び出すと、5mほどの巨大な獣が暴れていた。三つ目の黒い虎で、ゆがんだ角の生えたその姿は悪魔としか言いようのない。

 ノーチェは魔獣の角を掴んで振り回されている。


「ノーチェ!?これどういう状況なの!?」


「友達の使い魔が暴走したみたい!!止めるの手伝ってー!!」


 ノーチェは振り落とされるが、俊敏な身のこなしで着地する。


「ノーチェ、先生達は?」


「別の友達が呼んでいったけど、多分時間掛かるかも」


 周りを見渡すと、黒い魔獣は3体も暴れており、他の生徒達が戦っている。その内の、ノーチェが角を掴んでいた魔獣はリトへを睨む。


(こんな悪魔相手に…)


 また記憶がフラッシュバックする。

 恐怖心のせいで上手く闘気を巡らせられない。

 

「不味いこのままじゃ…。ノーチェも早く逃げっ…!?」


 魔獣は既に僕達を叩き潰そうとしていた。

 ノーチェを連れて早く避けなければ、しかし恐怖が身体をその場に縛り付ける。


(もう…ダメだ…)


 思考が止まりかけたその刹那、ノーチェが勢い良く僕を押し倒す。おかげで2人とも怪我は無かった。


「ノーチェ!?助かった、ありがとう」


「しっかりしてリト!もう君は昔の君じゃないんだよ!すごく強いんだから!」


(そんな事ない…。現に僕は守られてばかりだ)


 だからこそ、次こそは守らなければならない。

 実戦用の白曜の剣(カティスタソード)を抜き、魔獣へと向ける。

 心を奮い立たせ、闘争心を沸き起こそうとするが、魔物への恐怖で戦意を失ってしまったようだ。


(ダメだ、まだ闘気が使えない。なんとか避け続けないと)


 魔獣が噛みつこうと牙を向ける。

 その牙を剣で受け流そうとしたが、受けるどころか弾き飛ばされてしまった。


「ぐっ!」


「リトっ!!」


 追い打ちをかけるように、魔獣はリト目掛けて進むが、ノーチェが魔獣の顎目掛けて蹴り上げた。同じく闘気の籠(こ)もっていない一撃だが、それでも悪魔は僅かによろける。


「リト早く逃げて!アタシが何とかするから」


 立ち上がろうとした瞬間、右足と背中に激痛が走る。骨をやってしまった様だ。ノーチェはリトに意識を向けているせいで、魔獣に気づいていない。

 

「ダメだ…ノーチェ。早く逃げろ!」


 手も声も届かないまま、魔獣は無慈悲に襲いかかった。その光景はあの時の悪夢と同じだった。

 

「ノーチェ!!」


 魔獣の牙はノーチェへと迫るその刹那、


――ガキンッ!!


 青年がノーチェを庇い、武器で牙を受け止める。

 銀のウルフカットに蒼眼、紺色の羽織をはためかせるその青年は、


「「アルバ!?」」


 2人で彼の名を叫んだ。


「おう大丈夫か?後は俺に任せなっ!」


 アルバは魔獣の膂力(りょりょく)をもろともせずに、弾き返す。魔獣が大きく怯むと、その瞬間にアルバは、刀に霜を纏わせていた。


「【霜桜(そうろう)】!」


 霜の纏った刀を振るうと、魔獣の視界は霧で覆われる。更にアルバは魔獣の腹部へと回り込み、前脚目掛けて叩き斬る。


「【春寒波(はるかんぱ)】!!」


 前脚は驚くほど簡単に切断され、魔獣はバランスを崩す。霧が晴れたにも関わらず、魔獣の視界は未だにアルバを捉(とら)えていない。

 アルバは追撃として、首めがけて斬り上げる。刃は分厚い喉仏をきり裂き、魔獣は断末魔を上げることすら許されずに、絶命した。


(凄い、まるで《《狩り》》だ)


 同い年にしてはあまりにも殺しに慣れている動きだと感じた。そしてその過程を踏むことも楽しんでいるとも感じた。何故なら、アルバが魔獣の肉を断つ瞬間だけ、《《笑っている》》様に見えたからである。

 

(いや、きっと錯覚だな)


 トラウマを刺激された影響で錯乱していると、リトはそう自分に言い聞かせた。


「相棒、ノーチェ、怪我はねぇか?」


 アルバは2人に歩み寄り、心配の声をかける。

 

「アタシは特に怪我はないよ。リトが特に怪我がひどい」

 

 そう言いながらノーチェは僕に回復魔法をかけてくれた。


「アルバ、ノーチェのこと助けてくれてありがとう。君が居なかったら…」


「気にすんな、相棒のダチは俺のダチでもあるからな」


「そういえばアルバ、他にもあの魔獣が居たと思うけど大丈夫だった?」


「ああ、殆どは遠くに行ったが、多分教師連中が片付けてるから問題ねぇだろ。隣にもう一体いたが、そいつはエーデルが相手してたぜ。あいつ一人で大丈夫だといいが、」


「私(わたくし)の心配なんて、随分と舐められましたものね」


 エーデルが優雅に歩く。


「おうエーデル、そっちも片付いたみてぇだな。いやぁもう一体の相手してくれて助かったぜ」


「あの程度の獣、大したことありませんでしたわ。それにしても、由緒正しき学園でこんなトラブルがおこるなんてね」


「エーデル、ありがとう。君も居てくれなきゃどうなっていたことか…」


 思えばエーデルに会ったのは入学式の時以来だった。あの時、ノーチェとエーデルがピリピリしていたのが懐かしい。


「よくあの獣相手に無事で済みましたわ。私に感謝しなさい。私が相手にしていなかったら、貴方達も無事では済まなかったのですから」


「ねぇエーデル」


 ノーチェがきまずそうにそう呼ぶ。


「なんの用かしら?」

 

「守ってくれて、ありがと」


 初対面がああだったから、素直にお礼を言われるとは思わなかったのだろう。エーデルは若干面食らっている。

 

「ドミヌワイス家として当然のことをしただけですわ。貴方も、ただの田舎娘にしては中々に勇敢なようね」


 そう言ってエーデルは何処かへと去っていった。

 

「そんじゃ、俺は他に魔獣がいないか一応見てくるぜ。相棒、おめぇは早く医務室に行きな」


 アルバもワクワクした様子で、魔獣がいるだろう方角へと走っていった。

 

「ねぇリト、怪我は大丈夫?」


「もう痛みも無いよ、本当にありがとう。そして、ごめん」


 急に謝られて、ノーチェはキョトンとした表情を見せる。


「結局、僕は守れなかった…。守るって約束したのに、僕が弱いせいで、君を危険に晒した…。本当にごめん」


「なーに言ってんの。アタシは君のオネーサンだよ?守る方なのはアタシなんだから」


 笑っているが、内心怖かったのは知っている。ノーチェが自分をオネーサンと自称している時は、いつも無理している時だからだ。

 

(魔獣に襲われかけた時だって、君の顔は怯えていた)


 それでも心配させないように、自分を鼓舞するように彼女は笑顔を作る。いつもの自分を取り繕う。


「確かにアタシはリトよりは弱いと思うけど、あんまり無茶しちゃ駄目だよ?」


 そんな彼女の方が、ずっと強く見えた。

 

(だからもっと、もっと強くならないと。じゃないと、強い君を守れない)

 

 


ちなみに闘気無しのリトとノーチェが腕相撲したらノーチェが勝ちます。


◉技解説

〇霜桜(そうろう)

刀に霜をまとわせて振るう。

大量の霜が発生するため、攻撃よりも撹乱に向いている。


〇春寒波

刀に氷を纏わせて斬る。切断力が高く、アルバが使用する技の中で一番火力が高い。



◉モンスター紹介

〇三つ目の玄虎(サードタイガー)

種族:悪魔

危険度:4

3つの目と捻れた角を持つ黒い虎。耐久力と魔法耐性が高く、盾として優秀な悪魔。しかし消費魔力が重く、実用出来るのは高位の黒魔術師のみ。





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