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18/20

#18 読めるんだね。賢い子だ





 スコッパーズギルドのガリベルから新たな依頼の話を持ち掛けられたのは、駆け出しスコッパーのユーリに意図せぬ専属小間使いがついた、四日後のことだった。

 ギルドの受付職員とは思えぬ凶悪面ながら、顔が広く面倒身もいいこの男は、ユーリにとっても貴重な伝手の一つだ。毎日のように顔を合わせていく中で、態度も気安くなりつつある。


「遠征任務、ですか?」

「ああ。近場は落ち着いてきたからな。要は単なる間引きだが、最近、列車も不安定になってるだろ? 遠方の間引きを受けるスコッパーが少なくてな。報酬を増額して遠方の間引きをやってるんだよ」


 無理もない、とユーリは思う。

 他の都市や中央からの流れ者で穴埋めされたとはいえ、ダンジョンの連鎖顕現で失った人員の穴はそう簡単に埋まらない。


「中央から来たクランが一件受けたんだがな。こっちのスコッパーも一人雇いたいと言ってる。そこにお前さんが来たんでな」

「なるほど……それで、場所は?」

「お前さんにとっては曰くつきかもしれんがな。元・ダンジョンコード・エコー。今ではオルリンクス小洞窟って名前が付けられたが」


 ダンジョン連鎖顕現で発生したダンジョンの名前を耳にし、ユーリは若干強張る。

 アージェントの管理区域の中でも外郭にあたる、オルリンクス山地。ブナの原生林が広がる山地で、アージェントからは馬車で三日といった距離だ。連鎖顕現した三つのダンジョンの内、初期状態で”石置き”に成功したのが、このダンジョンのみだ。規模も危険性と比較的少ないと聞く。


「連鎖顕現したダンジョンの調査をしたい、って中央の物好きクランだ。周辺警戒の手が足りてねえらしい。お師匠さんがいない中だが、お前さんは最近よくやってる。遠征の経験を積んでもいい頃だと思うがな」


 実際のところ、ガリベルの提案は渡りに船だ。小間使い達からは腫れ物扱いで近場のダンジョンは少し潜りづらい状況ではあった。自分の成長を顧みても、ここらで遠征をするのは都合の良い状況ではある。

 ユーリは後ろに控える影に尋ねた。


「お前は、どうする?」

「……」


 こくり、とフードを被った頭が縦に揺れる。

 もう三回もダンジョン行を共にしているというのに、ユーリはこの子供の声を聴いたことも、素顔をちゃんと見たこともない。親を見つけたアヒルのようにちょこまかとユーリの後ろをついてくるが、顔を覗き込もうとするととんでもない速度で逃げられる。

 なにくれとなく兄姉についていく妹のようだとも思う。昼夜やかましかった妹とはまるで正反対だが、仕事はきっちりやるし、無意味な罵声をぶつけられるよりは楽だ。ユーリ自身も意識しないまま、この子供と共にいることに、いつの間にか馴染んでいた。

 ガリベルは納得した子供たちの様子に頷く。


「なら、決まりだな――ええと、ジュリアスの旦那? 最後の一人がこいつです。口の訊けない小間使い付きですが、こいつでも構いませんね?」

「おお、ずいぶん若い! が、未来ある若人の参加は大歓迎ですよ!」


 離れたテーブルを囲んで静かに座っていた集団から、機嫌のよい眼鏡をかけた痩身の男が立ち上がる。青みがかかった髪を後ろで束ね、まだ冬でもないというのに、地面につくほど長い分厚い外套を着こんでいる。

 この男が隊長なのだろうか。武人とは思えない所作の男に、ユーリは何とも言えない気味の悪さを抱えながら、手を差し出した。


「よろしくお願いします。ユーリです」

「ええ、こちらこそよろしく、ユーリさん。私はこのクランを預かるジュリアスと申します。北部の安全の為、共に力を合わせましょう」


 男は張りつけたような笑みを浮かべたまま、少年の手を取った。







 館に唯一残るまともな大人であるピッケに子犬の世話を頼み、引き籠るエイリカに向けて手紙を残すと、ユーリは人生二度目の遠征に赴いた。


「わふん」

「拗ねるなよ、すぐ帰ってくるから」


 最近、ダンジョンダイブ続きで構ってやれていなかったせいか、白い子犬はつんと顔を逸らしてユーリに近寄ろうとしない。その拗ねたような振る舞いがあまりにも人間臭く、ユーリは笑った。


「そうだ。帰ってきたら名前つけてやるからな」

「わふ?」


 さすがに一か月以上経っても、まだ名前をつけていないのは忍びなさもある。

 わかっているのかわかっていないのか、いつもの間の抜けた顔で首を傾げる子犬の頭を撫でると、ユーリは踵を返した。


 遠征行は予定通り三日がかりとなった。

 が、何から何まで想像通りだったわけではない。ギルド前でジュリアスや小間使い達と合流し、アージェント都市の北門から出たところまでは良かった。

 すると、ジュリアスは待っていた馬車の段列の先頭にさも当然のように乗り込み、気圧されるユーリ達を載せて走り出した。街道を北上していくと、更にどこからか合流してきた馬車が段列に加わり、その数は想定以上のものとなった。一見すれば大規模な都市間の物流を担う荷馬車の集団だ。


「我々はダンジョンの様々な不思議を研究して、人類に有益な情報を持ち帰ることを生業としているクランなのですよ。これは全て、調査に必要な機材なのです」

「ダンジョンの不思議、ですか?」


 フードを被り、寡黙な者が多い一行に飽きたのか、ジュリアスは旅の間、ユーリによく話しかけてきた。口数の多さには若干辟易しつつあるが、立て続けに問題を起こす訳にもいかない。ユーリはぐっと堪え、聞き役に徹していた。

  

「ええ、不思議です。なぜダンジョンはコアを壊しても、そのままにしておくと再生するのか」

「それは――」


 常識として教えられただけの知識で、答えることができない。そういうものだと教えられたから、覚えているだけ。そこに疑問を挟んだことは無かった。


「多くの仮説はあります。が、全ては現場で確かめなければ仮説は一生仮説のままだ。計画し、実験し、記録し、分析する。科学は常にそうやって発展していくものなのですよ」

「科学、ですか」

「ええ。今となってはそれを追いかける者も少なくなりましたが。要は、この世の不思議を人の力で解決するもの、というだけのことです」


 男は情熱的に語りだすと、ユーリに向き合う。

 

「あなたも自分の中にある素朴な疑問を大事にしてくださいね。なぜ? は全ての学問の最初の始まりなのです」

「ジュリアスさんは、なんだか先生みたいですね」

「おや、これは鋭い。私は以前、学校の先生をしていたこともありましてね。短い間ではありましたが」


 昔を思い出すかのような風情で、男は遠方の山々に目を向けた。


「学びは大事です。あなた方のような子供たちにとっては、特にね」


 足の速い馬に揺られ、道程はあっという間に過ぎ去っていく。散発的に襲ってくる魔獣を退けながら、野営を繰り返して進む。

 三日目の昼前、周りの山々が高くなってきた頃、副官と思しき部下の男が、到着を告げた。


「ようやくですか。やれやれ、尻がぺたんこになるところでしたよ」


 腰をとんとんと叩きながら、言葉とは裏腹にジュリアスは飄々と馬車を降りていく。

 目的地であるダンジョンは、見た目には切り立った崖に空いた、ごく普通の洞窟のように見えた。入口周辺には申し訳程度に結界石の塔が置かれ、ダンジョンにはつきもののダンジョン名を記した立札がかけられている。以前のダンジョンコード・ゴルフに比べて小ぶりではあるが、馬車は優に通れそうなほどに広い洞穴だった。

 揃いの外套に身を包んだ男達もめいめいに馬車から降り、準備を始める。男達と何事かの相談をしていたジュリアスは、置いてけぼりを食らっていたユーリ達を思い出したように振り返り、口を開いた。


「我々はこのまま突入します。ユーリさん。あなたは周辺警戒をお願いします」

「オレは、中に入らなくていいんですか?」

「我々の戦力は全て中に投入してしまうので、周辺警戒をするための要員が追加で欲しかったのですよ。何かあったら、この鈴をすぐ鳴らしてください。連絡用の魔道具です」 


 二人分のクマ避けの鈴に似た道具を渡され、ユーリは戸惑いながら受け取った。

 

「それでは、後ほど」


 ぞろぞろとジュリアスに似た外套を着た男達が、列を為してダンジョンに入っていく。一言も私語を発さない、異様な雰囲気である。

 ジュリアスにずっと話しかけられ続けていたので気にする暇もなかったが、この三日間、何事かを小声で会話している以外、まともに会話をしている様子も無い。


(本当にスコッパーのクランなのか……?)


 その疑問を解消する術も、相談する相手もいない。小間使いの子供は、後ろで立ちすくんでいる。自身の分の鈴を腰帯につけ、小間使いの子供の分の鈴を渡す。素直にユーリを真似て腰帯に着けるのを見届け、ユーリは洞窟入口付近の警戒に当たることにした。

 少しして、魔物と戦っていると思しき物音が洞窟の奥から響いてくる。人間の悲鳴は聞こえない。

 またしばらく待っていると、突入組の一人が入口まで戻ってきた。居残っていた馬車の御者達と何事かを話すと、今度は馬車も連れて中に入っていこうとする。

 たまらずユーリは伝言役となった男を呼び止めた。


「あの、中に入るんですか?」

「ええ。我々だけですが。あなたはこのまま、この場で警戒を」


 丁寧な口調でそう言うと、足を止めることもなく男は再び洞窟へと入っていく。

 ぽつん、とユーリと小間使いの子供だけが取り残される。心なしか、小間使いの子供も手持ち無沙汰な現状に困惑しているようにも見えた。


(荷馬車ごと中に入っていくって……何をやってるんだ?)


 考えるほどに奇妙な任務だ。

 どう考えても、この一行にユーリの助けなど必要そうもなかった。荷運びも、食事や野営の準備も、全て事足りるからと自分達で行い、小間使いの手さえ不要なのだ。奇妙という他ない。

 警戒といっても、目の前に広がっているのは曇り空と、点々とした針葉樹の林と、切り立つ山々だけだ。見晴らしも良く、魔獣からの奇襲を心配するような場所でもない。

 煮え切らない思いを抱えながら、入口の前をぐるぐると歩き回るしかない。

 どれだけの時間が経っただろうか。ユーリが初遠征の失敗を心から後悔し始めた頃、異変は唐突に起きた。


「……!」


 突然、何かが崩れるような音がし、ユーリは洞窟の側へ振り返った。

 先ほどまでいたはずの、小間使いの子供の姿が無い。

 よく目を凝らすと、先ほどまで存在しなかったはずの子供くらいの大きさの穴が壁際に空いていた。


「おい、どうした、どこだ!?」


 慌てて壁際に近寄る。

 周囲の壁には、よく見るとまだ手のひらよりも小さい、欠片程度の魔鉱石が湧出し始めている。あの子供は、これを取ろうとして壁に近寄ったのだろうか。


「壁に見せかけた穴……これは、あの時の……!」


 あのダンジョンコード・ゴルフ。

 隊長が近寄り、オークから奇襲を受けた、あの時の壁を思い出す。

 鉄剣で穴の周囲を叩くと、壁は薄く、土くれにも似た石ころががらがらと簡単に崩れ落ちてくる。


「これに落ちたっていうのか……」


 背嚢から魔鉱石のランタンを取り出し、明かりを灯す。穴は深く、どこまで続いているか見えなかった。

 ユーリは深く思案する。鈴を鳴らすべきか、自力で助けにいくべきか。異変が起これば鈴を鳴らせとは言われているが、疑心が頭から離れない。


(ジュリアスさん達を本当に信じていいのか。それに……)


 あの子供は、声を出すことが出来ない。助けを呼ぶこともできないのだ。

 怪しいこのクランの大人たちが、あの子供を救い出すのに力を貸してくれる保証もない。


「いくしか、ないか……っ!」


 付き合いが浅かろうとも、専属の小間使いを何もせず見捨てたとあっては、師にも、主人にも申し訳が立たない。

 装備が外れないよう整えると、意を決して、ユーリは穴の中に飛び込んだ。







 作業は驚くほど順調に進んでいた。

 早期に石置きに成功したおかげか、見た目以上に洞窟は小さかった。吸魔石が置かれたコアチャンバーにも問題なくたどり着き、ジュリアスは喜色を隠し切れない様子で部下たちの様子を見守っていた。


「全区画、掃討完了しました。チェックは二度、抜かりありません」


 副官がジュリアスと名乗る上司に報告する。

 

「ご苦労様。では、さっそく設置に入ろうか」


 男は楽し気に頷く。

 その号令に従って、コアチャンバー到達の報を受けて後からダンジョンに入ってきた馬車の荷が解かれる。木箱から出てきたのは、二体の人形。更に別の木箱からは、ダンジョンの入口に置かれていた結界石の塔よりも何倍も大きい塔だった。それが、幾つもの木箱から出てきては、男達の手で部屋の各所に置かれていく。


「しかし、未だに信じられません。これほどの結界石と、貴重な自動人形を使い捨てにするとは」


 魔物を避ける白銀花が封入された結界石の塔は、決して安いものではない。それも今回用意されたのは、都市を守るために使われる大型の結界石である。

 しげしげと見渡す副官に、男は諭すように口を開いた。


「それだけ”上”のご期待も大きいということだよ」

「しかし、あの子供たち、わざわざ加える必要があったのでしょうか」

「よそ者の我々が、ギルドのスコッパーを一切入れないのは、逆にギルドからの疑念を招くからね。今、あのギルド長に横槍を入れられる訳にはいかない。念には念を、さ。なに、これを見せなければいいだけのことだからね」


 地上に残してきた子供たちを思い出す。

 都合よく、まだスれていない子供が宛がわれたことは本当に運がよかった。しかも片方は口がきけないと来ている。まるで大神の加護によってこの実験の成功が確約されたようだと喜んだものだ。

 多少の疑念はあっても、言い包めることは出来るし、何より――。

 益体もないことを思い出す上司と副官の会話に割って入るように、部下の一人が近寄ってきた。


「一部、問題が」

「なんだね?」

「隣のチャンバーで、偽装壁が確認されました。幸い、小さな空の部屋のみでしたが……」

「やはり、ここも変異型か。残り二つがそうだったからね。まあ、想像できたことではある」


 上機嫌に水を差された、と男は苦々し気に毒づく。


「掃討をやり直しますか?」

「そうだね、頼むよ。機材の防衛は結界石で持たせるとしても、起爆の規模を見誤っては全て実験が台無しだからね。念を入れて、出力も少しばかり上げておこう……ん?」


 どさり、がらがら、と何かが落ちてくる音がして、男たちは振り返った。

 そこには、壁に大きく空いた穴と、その穴からまろび出てきたのだろう、擦り傷と打撲だらけの痛々しい子供の姿があった。 


「……っ」


 小間使いの子供は、痛みに呻きながら、辺りを見回す。

 男たちの姿と、人形と、多くの機材。何事かが起きている様子を目にすると、怯えるように後ずさった。

 ジュリアスは深く溜息をつき、副官に小言を告げた。


「……地上からコアチャンバーに直通する偽装穴かな? ずいぶん危ないものを見落としたね? 詰めが甘いよ、君ぃ」

「……お叱りは後ほど。ジュリアス様」

「まったく。わかっているとも」


 ジュリアスが部下達を手招きすると、二人の部下が駆け寄り、小間使いの子供は地面に押さえつけられ、後ろ手に縄をかけられた。


「……っ! っ!」

「あらあら、そう暴れなくても大丈夫ですよ……おっと」


 声もなくもがく子供を押さえつける中で、外套のフードに部下の手がかかり、フードが落ちる。すると、ばさり、と痛んだ細い銀糸の短い髪、琥珀色の瞳と、まだ幼いが端正な少女の顔が現れた。


「おや、頑なに顔を見せないので、そうではないかと思っていましたが。やはり女の子だったのですね。これはこれは、ご無礼を。男に扮したかったのかな? 貧民街だと何かと大変でしょうからねえ」


 まるで別世界の他人事のように語る男に反抗するように、小間使いの少女が暴れだす。だが、大の大人二人がかりで押さえつけられては、何をすることも出来ない。

 

「――――所長」


 副官は、上司の名を呼ばなかった。

 剣呑な光を宿し、上司に目配せする。

 この三日間、頑なに呼ばなかった名前を口にした。それが意味するところを察し、ジュリアスと呼ばれていた男は溜息をつきながら首を横に振った。


「やめなさい――――あなた、口がきけないんでしたね?」

「……っ!」

「答えなさい」

「……っ」


 髪を掴まれる痛みに顔を顰めながら、こくり、と少女は頷く。

 そうか、そうか、と男は何度か頷き、ポケットから取り出したメモ帖に何事かを書く。


「これ、なんて書いてあるか、わかるかい?」


 メモに書かれた文字列を目にし、瞳孔が大きくなる。

 必死に抑えこもとうしながらも、耐えきれず表情に漏れ出たその感情は、恐怖だった。


「そうか。()()()()()()――――賢い子だ」


 少女の反応に、男の瞳孔がすっと細まる。

 男が分厚い外套の懐に手を入れた、その時、がらがらと音を立てて、再び穴から人がまろび出てきた。子供を追ってきたユーリの姿だった。


「いってぇ……! おい、大丈夫……えっと、これは、いったい……?」」

 

 体中に擦り傷を作り、石ころと共に落ちてきた少年の視界に入ってきたのは、部屋の中のただならぬ様相だった。

 子供はフードを脱がされたまま拘束され、あどけない女子の顔を晒している。

 人形が立ち並び、木箱は開けられ、吸魔石の周囲を囲むように何かの機材が組み立てられつつある。そして、そこから離れた場所に、ひと際厳重に梱包された木箱がある。

 あまりにも見慣れぬ物が多く、処理が追い付かない。ユーリは体の節々の痛みも忘れ、目を白黒させたまま、硬直した。

  

「まったく。なんと運が悪い子供たちだ。本当に」


 小間使いの少女の前に座り込んでいたジュリアスが、ゆっくりと立ち上がる。天を仰ぐように天井に向けられた顔を手で覆い、男は嘆いた。

 副官ともう一人の男が落ちてきたユーリにのしかかり、動きを封じた。その余りの力の強さに驚く。先日ぶちのめしたゴロツキなどとは比べ物にならない。明らかに訓練され、練磨された兵士の力だった。

 肩と足を押さえつけられ、瞬く間に両手が縛り上げられる。

 

「やめてください! ジュリアスさん! これはいったい……」

「我々には機密保持義務がある。だが、無関係な者の”処分”に対しては強い抵抗感を持っているまともな人間だ。”第三”の連中とは違う」

 

 ユーリの質問に直接答えることはせず、ユーリを見ることもなく、歌い上げるように男は何事かを語る。


「偽装穴にそこの子供が落ちなければ。あなたがこの子供を見捨てられない善人でなければ。あなた達が字を読むことさえ出来ない無学な子供なら」

「何を言ってるんですか……?」

 

 ユーリと少女の前をうろうろと往復しながら悲嘆に暮れる男の姿は、まるで演劇役者のような大仰さだ。


「これから我々が行う実験は、人類の歴史を進める偉大な一歩だ。だが、進歩的な試みは常に凡人達には理解されない」

「実験?」


 歌うように語られる言葉。

 だが、ユーリには何一つ理解できない。

 この男たちは、このダンジョンの最深部で、この人形と機材を使って一体何を行おうとしているのか。

 うん、うん、と何かに納得するかのようにジュリアスと名乗っていた男は頷くと、困惑するユーリに振り返った。


「うん、やはり、学びは大事だ。いい機会です、君に特別な授業をしましょう」


 煌々と光る吸魔石の明かりに照らされながら、黒光りする筒状の何かが、ユーリの額に押し付けられた。

 ジュリアスはいつもの胡散臭ささえ感じる笑顔のまま、目だけが酷薄に輝く。


「おとなしく生きたければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()。先生からの大事な教えです。よくノートに取っておくように――――来世の為にね」


 ジュリアスと名乗る男は、手に持った”何か”で、二人の子供の頭蓋を正確に撃ち抜いた。


 それが、『銃』という名の遺物であることさえ知らぬまま。


 少年は、短い生を終えた。




ストックを消化しきってしまった為、少し更新頻度は落ちますが、まだまだ続きます。



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