11:ヴァリアル大神殿
この大神殿に名前はついていない。大神殿はただ大神殿と呼ばれるか、帝都ヴァリアルにあるからヴァリアル大神殿と呼ばれるかのどちらかだ。
何で名前がないのかはよくわからないらしい。不便がなかったからじゃないか、って神官長さんは笑ってたけど。実際の所はどうなんだろうね?
大神殿の入り口は北と西と南の三か所。東には湖があるからね。
大神殿の正門は西にある。湖を背にしているのは、お祈りをするときに湖の方を向いてできるようにしてるから。だから神像も全部西を向いている。
ちなみにお城の正面は南を向いてるんだよ。だから帝都の正門は南の大門で、北の大門は大裏門とも呼ばれてるんだ。
大神殿は主神殿と副神殿に分かれている。湖の近く、正面にドドン!と大きく聳えているのが主神殿。創造神様と六属性を司る火の神様、水の神様、風の神様、地の神様、光の神様、闇の神様をお祀りしている。主神殿にある神像はどれも見上げるほど高くて迫力があるんだよね。
副神殿は主神殿の少し手前、左右に一つずつあって、創造神様と六属性の神様以外の神様たちをお祀りしている。副神殿は安置する神像の数が沢山だから、一体一体の大きさはあんまり大きくない。それでもどの神像も二メートルくらいはあるし、力のある神様、信仰する人の多い神像はもう少し大きめに作ってあるかな。
神像の数を数えて事はないけれど、結構いっぱいあるんだよね。
北門から入って左の副神殿の脇を通って主神殿へ。今日は副神殿には寄らない。昨日、午前中いっぱいかけて全部の神像を周ってお参りを済ませてるからね。流石に出発当日にやるには時間が…。
でもせめて創造神様と六属性の神様たちだけでも今日お参りしたかったから。今日は僕の新しい人生の第一歩だもん。
主神殿の中は至ってシンプル。入ってすぐに祭壇、その向こうに七体の神像がある。
神像は創造神様を中心に、左右に三体ずつ置いてある。創造神様の左側には火の神様、地の神様、光の神様が。右側には水の神様、風の神様、闇の神様が。
神像の前の祭壇にはお供え物を置くスペースがある。祭壇は手前と奥の二段に分かれていて、奥には神殿が用意したお供え物。食べ物とか細工物とか、一日中置いておくものが飾ってある。手前にはお参りに来た人が供える蝋燭を置いておくためのスペース。
「神教」のお参りの仕方は至ってシンプル。蝋燭を一本祭壇にお供えして、その前で祈る。これだけ。お祈りは気持ちが一番大事で、形は二の次三の次、ってことらしい。
だから立ったまま手を合わせるようにして祈ってる人もいれば、跪いて組んだ手を額に当てるようにして祈ってる人もいるし、土下座みたいな形で祈ってる人もいる。個人差がすごく出るんだよね。
僕の場合は色々迷った挙句、立ったまま手を合わせて頭を下げるポーズにしている。やっぱり日本人だし、お参りってこうかなって。慣れてるし。
神官さんにお布施(蝋燭代)を払って蝋燭をもらって、火の神様から順にお参りしていく。
火は祭壇の供えてある蝋燭からもらうんじゃなくて、祭壇横の火付け用の蝋燭からもらう。お供え用からもらうのはマナー違反なんだって。神様に捧げた火を横からかすめ取ってくのはよくない、って考えみたい。
左側の火の神様、地の神様、光の神様へのお参りを済ませたら、今度は右側の水の神様、風の神様、闇の神様へ順々にお参りしていく。そして最後に、中央の創造神様へ。
お祈りの中で伝えるのは、まず感謝だ。今の僕があるのは、創造神様たちのおかげだから。
魔王と戦うのは辛かった。痛いし、怖いし、死にかけるし。殺し殺されて、本当に、何で僕が、もう嫌だって思ったことは数えきれないけれど。それでも支えてくれる人たちがいて、無事に魔王を倒せて、こうして平和な世界で生きていられる。
僕はこの世界にきてよかったと思ってる。たくさんの人と出会って、友達になって。この世界を救えてよかったって、そう思える。…あのまま、地球にいたら。きっと今の僕はいない。生きていた良かったなんて、思ってない。家族を失って、一人で、死んだように生きてたと思う。だから、大変だったけど、よかったって。思ってるから。だから創造神様たちにも感謝を伝えたいと思うんだ。
ありがとう、神様。僕、幸せです。って。
………改めていうとなんかちょっと照れるね。
さて気を取り直して!次に伝えるのはもちろん旅の報告だ。今日から帝都ヴァリアルを飛びだし、国中を周るのだ。そのご報告と、ついでに旅の安全祈願を。
いやまぁ、勇者であった僕をどうこうできる人なんてそうそういないのはわかってるんだけどね?ほら、トラブルに巻き込まれたらいやでしょ?だから平和に、平穏に、無事旅を終えてまたヴァリアルに帰ってこれますように、ってお祈りしておくの!
顔を上げて、創造神様の神像を見上げて。しばしのお別れのご挨拶。
「…創造神様、行ってきます」
どうか見守っていてくださいね。




