10:帝都ヴァリアル
お城から出た僕は、まずは大神殿を目指して歩き出した。
帝都ヴァリアルは古くて大きな都市だ。都市の形は四角じゃなくて円形。その中心から右側にちょっとズレたところにお城がある。
中心からズレてるのは、そこに湖と小さな島があるから。
この湖にある島は特別な場所。創造神様がはじめてこの世界、この星を作り上げた時に降り立った最初の場所とされていて、「はじまりの島」と呼ばれている。「はじまりの島」は世界で一番大切な場所と言っても過言じゃないんだ、って神官長さんが言ってたっけ。
天使族の皆曰く天界への入り口もこの島にあるらしいし、世界で一番大切な場所っていうのは間違いじゃないんだって。
で、特別な場所だから、島と湖を守るために城壁で囲ってるんだよね。その城壁と繋がるようにお城を立てたから、お城の位置が右にズレてるんだ。
ちなみにお城の反対側、城壁と繋がる左側には神聖帝国リリヴァル・ターレが誇る大神殿がある。世界で一番古くて大きな神殿だ。
この世界の宗教は実質的に一つだけなんだ。「神教」って言って、この世界にある神殿は全部「神教」のものなんだって。
「神教」はこの世界にいる神様たちをお祀りしてるんだけど、一つの神殿で全部の神様をお祀りしてるわけじゃなかったりする。スペースの問題もあるし、信仰してる人たちにも特にこの神様を信仰してます、っていうのがあるからね。
だから大体の神殿は「○神教」の神殿だ、って名乗るんだ。「創神教」とか「火神教」とか「戦神教」とか。「創神教」なら創造神様をメインにお祀りしてるし、「火神教」なら火の神様、「戦神教」なら戦の神様だ。
それで、ヴァリアルの大神殿は世界でも珍しい「神教」の神殿、だったりする。全部の神様をお祀りしてるんだよ!全部の神様の神像があるんだって。すごいよね。
ちなみに僕がこの世界ではじめて降り立ったのはヴァリアルの大神殿なんだけど。正確にはちょっと違っていたりする。
僕が降り立った場所は湖と島を守る城壁の内側。大神殿にほど近い湖の畔だ。大神殿で行う儀式の中で特に重要なものは、湖の畔に作った特別な儀式場でやるんだって。十年に一度の儀式とか、そういうの。
僕の「勇者降臨の儀」もそこに含まれるので、僕もまた湖の儀式場に呼ばれたというわけ。
話をもどして。
帝都ヴァリアルのマップなんだけどね。
中心が湖で、その左右にお城と大神殿があって、この三つの敷地はそれぞれ円形をしている。お城と大神殿を繋ぐように弧を描きながら外周路が繋がっていて、都市の外壁も円形に囲ってる。そんなわけで、上から見るとお皿に乗ったお団子みたいに見えるんだよ。ちょっと面白いよね。
今僕が歩いているのもこの外周路になる。外周路の内側、城壁までのスペースは全部公園になっていて、綺麗な噴水とかベンチとかもあるし、芝生と木々が青々としていてとても綺麗なんだ。お城を眺められる観光スポットでもあるね。
外周路繋がりで帝都ヴァリアルの道事情を話そうか。
ヴァリアルの道は湖を中心に米の字の描くように大通りが走っている。そして大通りと大通りを繋ぐように小通りが弧を描くように走って、小通りと小通りを繋ぐようにまた大道が、って感じにどんどん道が繋がっている。上から見ると円を描く線と放射線状に伸びる線で規則的に区切られているのがよくわかるよ。
大通りは馬車が六台が横並びで通れる道、小通りは馬車四台、大道と馬車二台、小道が馬車一台とどんどん細くなっていく。一番細い道は糸道と言って、歩行者専用。馬車の通れない道は全部糸道だね。
十字の大通りの先に大門が、×字の大通りの先に小門がある。それぞれ北の大門とか、南西の小門とか呼ばれている。
普段小門は全部しまってて、出入りは全部大門からするんだ。だけどお祭りとかがあって人がいっぱい来るときとかには一時的に開放して混雑対策とかするんだって。
まぁ、そういう使い方をしたのは三年前の魔王討伐を祝うお祭りの時が久しぶりだったんだけど。三〇〇年ぶりの平和だからね。今まではそんな余裕なかったっていうのが大きい。
大きな戦場で勝ったり、大陸を取り戻した時なんかもお祭りというかお祝いはしてたみたいなんだけど。でも他の大陸はまだ戦場だったから、大きなお祭りは自粛してたみたい。
帝都ヴァリアルは大きいだけあって暮らしてる人も多い。貴族も商人も職人も平民もたくさん。身分の違う人を一緒の所に置いておくとトラブルになるから、自然と街は住み分けが出来ていたりする。
×字の大通りと大通りの間でだいたい一区画。
東は所謂貴族街。お城に近いほど爵位の高い貴族のお屋敷が並んでて、一個一個が大きいんだよね。あとね、実は貴族街って言っても貴族のお屋敷があるのは区画の三分の二くらいで、残り、外壁に近い三分の一は軍部の施設なんだよ。だから東の大門は貴族と軍部だけが使える事になってたりする。
西は市民街。普通の一般市民たちの家が立ち並ぶ、普通の住宅街だよ。ここの一角にスラム街があるけど、都市の規模にしてはかなり小さいし、子供は殆どいない。神殿が経営してる孤児院が沢山受け入れているというのもあるし、子供も貴重な労働力だから。仕事はいっぱいあったんだよ、戦時中だったから。
だからスラム街にいるのって、小悪党どもか必要悪な裏の組織だけなんだよね。だから基本は放置で、オイタが過ぎたら捕まえる方針らしいよ。
北と南は商業街。商人たちのお店と職人さんの工房とかお店が立ち並んでる。商業街が二つあるのは、北と南で扱う品がわかれてるからなんだよね。
北の商業街は食料品とか布製品とか生活に必要なものを、南の商業街は武器とか防具とか戦うために必要なものを多く扱っている。もちろん北にも武具屋は置いてあるし、南にも食料品店はあるんだけれど、より質のいいもの探すならそちらに行った方がいい、って言われてる。
ちなみにそれぞれの大通りに面したお店はだいたい大きかったり高級店だったりする。大店ってやつだね。あとやっぱり、商人さんたちのお家は貴族街に近ければ近いほどいいみたい。ステータスってやつかな?
外周路は結構長くて、一周するのに半刻くらいかかる。
そういえば時間の単位とかもおさらいした方がいいかな。
この世界の一日は一応二四時間だけど、時間単位は地球程しっかりしてない。基本的に太陽頼みというか、朝から昼、昼から夜、夜から朝って感じで大雑把に三分割して、それを更に分割したの鐘でお知らせしている。
日の出になると大鐘が一回鳴って、太陽が真上に来ると大鐘を二回、そして太陽が沈み切ると大鐘を一回。
この大鐘と大鐘の間を小鐘を鳴らして、その回数で時間を見てるんだよね。
小鐘は全部で三回鳴らすんだけど、鳴らす毎に一度に撞く回数を増やしていく。例えば朝の一回目の小鐘ならカーン!って音がするし、昼の三回目の小鐘ならカンカンカーン!って感じかな。
だから小鐘一回分の約二時間を一刻って呼んで、約一時間を半刻、約三〇分を四半刻と呼んでいる。
でも夜だけはちょっと違ってて、鳴るのは大鐘と大鐘の間に一回だけなんだよね。それも大門と小門に備えてあるのだけが鳴る。夜は皆寝てるからね。門の鐘だけでも街中に聞こえるし、三回も鳴らす必要はないから減らしたんだって。一つ残したのは夜に仕事してる人たちのためだよ。警備してる人たちとか夜のお店の人たちとか。夜の小鐘に合わせて交代したり閉店したりしてるんだって。
ちなみに時間を告げる時は「朝の二回鐘」って言えば朝の二回目の鐘が鳴った時って意味だし、「昼鐘三つ」なら昼の三回目の鐘が鳴った時、になる。大体皆「○の○回鐘」って言うかな。「○鐘○つ」って言うのは軍人とか戦う人が多いかな。あと夜の小鐘はそのまま「夜小鐘」とか「夜鐘」と呼ばれてて、数字は省略されるみたいだ。
あと大鐘の場合はそのまま「○の大鐘」って呼ぶのが多いかな。「○大鐘」とかも多いけど。珍しいのは「大○鐘」かな?僕も聞いたのは一度だけだけどね。
そんなこんなで色々とおさらいしていたら目的地に着いたみたい。
お城から出て外周路を歩くこと約四半刻。大神殿北門に到着です。
門の前に立っている神官さんに挨拶をしてから、僕は大神殿の敷地内へと足を踏み入れた。




