103 〈現夢〉に迫る災厄の風
ロゼ達の懐妊から、約1年が過ぎた。皆無事に出産を終え、日々の生活に育児にと忙しく過ごしている。
俺も皆を手伝いつつ、外界での探索を控え、〈遙楽園〉の運営に力を注いでいる。
新たにゲートをアル=アシの街とル=グルゥの街にも繋ぎ、帝都を含む三都市と交流を持つようになったサロスの街は、更に規模を大きくしている。
太守であるシシーシャも役割に慣れたのか、最近では女太守として風格すら感じるようになった。一方で、ヤリ手の皇族としての評判が祟り、嫁の貰い手がないと皇帝が嘆いているのを聴き、思わず苦笑してしまった。
当のシシーシャは全く気にしておらず、今では立派な官僚? になった子飼いの家臣と共に、サロスの領主として過ごしている。最近ではアル=アシの街で闘士の後援を始めたらしく、イーマンら古参の後援者に対抗して、〈異邦人〉の闘士を次々と送り込んでは活躍させているらしい。
イーマンから、何とかして欲しいと乞われ、連勝してブイブイ言わせていた、シシーシャ子飼いの異邦人探索者を秒殺してしまい、シシーシャから涙目で抗議されたこともあった。
いや、自業自得だから。現地人の闘場に、異邦人の探索者を次々送り込んじゃダメでしょ。少しは自重しなさい。探索者本人が望んでクエストに行くのならば兎も角。
シシーシャとはその辺りを話し合い、他の後援者とも話し合ってバランスを取ることで決まった。まったく、余計な仕事を増やさないで欲しいものだ。
ロゼやキルシュが探索に出られなくなったため、ゼファー達も活動の中心を〈遙楽園〉にしている。俺や神々が創ったダンジョンを探索し、そうでない時間は趣味や街での仕事に充てている。
ロゼは家事の傍らサロスの街でカフェを経営している。現地人のスタッフを雇い、自らも料理の腕を振るっている。育児もあるので毎日というわけではないが、それなりに楽しんでいるらしい。
料理は家庭的なものが中心の、優しい感じの店だ。素朴な家庭料理に、郷里を思い出すのか異邦人のお客も目立つ。
一方で、テフヌトがオーナーを務めるレストランも繁盛しており、何件かの支店がサロスの街だけでなく、三都市でも営業が始まっていた。テフヌトはオーナーとして手に入る金だけで暮らしていけるようになると、自分はすっかり楽隠居を決め込んで、〈遙楽園〉の管理もそこそこに、優雅な生活を営んでいる。
そして、子供たちも健やかに成長している。長女(と言って良いのか分からないが、最年長だ)のイオンはもうすぐ2歳になる。最近では片言ながら言葉を覚え、何かを言うたびに、俺は嬉しくて抱き締めてしまう。ヴィオーラに似た美人さんなので、将来が楽しみだ。
シェアトの息子、シュウとマフデトの息子、ミンカブは同じ日に生まれた双子のような男の子だ。ヒューマンと女神の混血である二人は、成長も早いようで、幼稚園で言えば年長さんくらいまで成長している。二人とも母親似のイケメンだが、年相応のやんちゃを発揮して、日々俺達を困らせている。
シブの娘、ヘアーはそれに輪を掛けて異彩を放つ。生後一月ほどで10歳前後まで成長し、今の外見は12、3歳といった感じだ。内面も外見相応に成長しており、会話も読み書きも流暢に熟す。
後半年もすれば、成人しそうな感じだが、知識や経験の部分はまだまだ足りず、日々様々なことを学んでいる最中だ。今では子供たちの姉的スタンスで、皆の世話を率先して行う、できた娘だ。
インファンタの娘、ナンナとロゼの息子エリオはまだまだ赤ん坊で、アマルセアやヴァーンニク、他の精霊達の助けも受けつつ、元気に育っている。
最初は多くの子供を持つことに不安があったが、生まれてみれば愛しさしかなかった。周囲の皆の助けもあり、子育てに対して不安はない。俺に出来ることは、父親として恥ずかしくない生き方をすることを心掛けるくらいだ。俺はつくづく環境に恵まれている。
勿論、このベビーラッシュをあの方が放っておくはずがない。毎日のように顔を出す皇帝陛下に、最早ツッコミを入れる者はおらず、最近では皇城に帰ることなく、俺の城に留まると、政務の傍ら子供たちをあやしたりして過ごしている。
皇城に居なくて大丈夫なのか? と心配するが、〈遙楽園〉で外界で政務を行うよりも、多く解決できるとあって、周囲の人からは感謝の言葉が上がっている。
外界に比べて遥かに時が早く流れる〈遙楽園〉で過ごすことで、本来なら寿命を心配するところだが、不老不死を得ている皇帝陛下に関しては、全く問題がない。
というわけで、皇帝陛下は堂々と愛しの『孫』達と戯れているのだ。
そうそう、ゼファーとキルシュの子供達、アーデルハイトとアーサーについても話そう。
なんと、キルシュは正真正銘の双子を産んだのだ。男女の双子なので二卵性だとは思うのだが、今のところ二人はそっくりで、外見からは見分けがつかない( 両親であるゼファーとキルシュでも間違えるそうだ。確実に見分けるには『付いている』かどうかを見るしかない )。
小柄なキルシュが双子を産んだということで心配したのだが、探索者として鍛えた身体は丈夫で、産後の肥立ちも良く、元気に育児をこなしている。ゼファーの目尻も下がりっぱなしで、すっかり親馬鹿になっているのが微笑ましかった。
そして、俺は新たに『恋人』を増やしている。その相手は、エメロードとマグダレナである。エメロードは『約束』していたこととして、俺と番になることを望み、マグダレナもそれだったら、と望まれたからだ。
元々、年齢的にも異性に興味があったようだが、エメロードに関しては出会う竜が悉く俺に敵対しているし、それを( 皆の協力があったとはいえ )打ち倒して来た俺を見ていると、他の『雄』には惹かれなかったらしい。
人化している時に触れ合うと、ドキドキするのは何なのか分からなかったらしいが、ヴィオーラが子供を産んで、幸せそうにしているのを見て、自分の気持ちに気付いたそうだ。
竜と只人という、種が異なることで、受け入れて貰えるのか不安だったらしく、言い出せなかったようだが、自らが呪いに倒れ、この先どうなるか分からなくなった時、決心したそうだ。受け入れられなくても良い、告白しようと。
お願いの形で言ってゴメンなさい。初めての夜に、俺の腕の中でそう言って謝るエメロードを、俺は優しく抱き寄せると、笑顔を浮かべて額にキスをした。エメロードも微笑み、俺の胸に頬を寄せた。
一方でマグダレナはあっさりとしたものだった。番となる相手は自分よりも強い存在と決めていたらしく、俺に敗れた時から、俺を番にと決めていたそうだ。
強い雄であれば、多くの雌と番となり、強い子を産むのが当然らしく、ヴィオーラ達が次々と子を産むことには特に思うところはなかったそうだが、ほぼ同様の立場にあるエメロードが、俺の恋人となったことで、それならば、と決めたらしい。
ある晩にふと気配を感じて目を覚ますと、全裸で俺に馬乗りになったマグダレナに、その勢いのまま襲われた。不意を打たれたために上手く抗うこともできず、そのまま全てを終え、満足した様子で俺の首に頬を擦りつけるマグダレナに、俺は苦笑するしかなかった。
こうして、俺の周囲は変化をしつつ過ごしていたのだが、新たな事件は静かに目前へと迫っていたのだ。
「南大陸からの連絡が途絶えた?」
俺は執務室で皇帝と話をしている。最近ではすっかりこちらの住人と化している皇帝は、執務の合間を縫って、今日も俺の子供たちに会いに来ていたのだが、気になることがあると言って訪ねて来たのだ。
「ええ。帝国も最近はル=グルゥを含め、『南部の友好国家』と本格的な交易が始まりましたからね。南大陸と盛んに交易を行っていた南部から伝わった情報ですわ」
皇帝の言葉に、俺は執務の手を止めて考える。この世界に来た当初、はじまりの街から転移された俺は南大陸にいたわけだが、その後の大半を北大陸で過ごしている。当時の記憶と言えば、奴隷にされたことが強く印象に残るくらいなのだが、南大陸で何かが起きているのだろうか?
「普段であれば定期的に訪れる交易船が、どの港でも到着していないというのです。一つや二つなら遭難も考えられますが、全てとなると、明らかにおかしいですわ。何か、問題が起きたのでは、と」
そう言って眉を寄せる皇帝。
と、言われてもな…。
俺にも分かるわけじゃないし、直接的に被害がない以上、積極的に関わる理由もない。皇帝が何を思って俺に話しているのかは分からないが、聞いたところで「そうですか」と返すのが精一杯だ。
「聞けば貴方は南大陸の出身だと。少し調べて来て貰えませんか?」
皇帝はそう言って微笑みながら首を傾げた。そんな、ちょっとお使いに行って来てみたいな感じに言われても困るんですけど。
「何故俺が? これでも忙しいんですが」
「あら、貴方は【転移】の魔法が使えるでしょう? 生憎と【転移】が使える高格の者で、南大陸を訪れたことのある者はいないのですよ。それに、貴方なら信頼も置けますし」
俺の答えに、皇帝はそう言って微笑んでいる。うーむ、どうしたものか。
皇帝が俺に頼んでくるということは、他に適任者がいないということは本当だろう。ここで嘘をついてまで俺に頼むような真似はしないと、ここまでの付き合いの中で理解している。だが、今〈遙楽園〉での活動が、非常に充実しているのも事実なのだ。子供達も生まれ、父親として傍を離れたくない、ということもある。
けれど、と俺はそこで考える。これはフラグだろうと。今までこうやって立ったフラグを無視したことはない。関われば、必ずクエストやイベントだった。恐らく今回も、クエストであろうとは思う。
それも、今まで以上に困難なものになる可能性が高い。俺のレベルが上がるにつれ、それに合わせるかのように、クエストの難易度は上がって来た。実力に沿った試練が与えられるのは、この世界がゲームに似た法則で動いていることからも、想像に難くなかった。
…無視すると、とんでもないことになるかもな。
俺は小さく息を吐くと、頷く。
「分かりました。調べてきますよ」
「良かった。〈遙楽園〉のことは任せなさい。孫達のこともしっかりと面倒を看ますから。皇帝として、最大級の援助を約束します」
俺が承諾の意を伝えると、皇帝は安心したように、微笑みを深くし、頭を下げた。国の頂点である皇帝が頭を下げるということは、国が従うということと同義だ。人前では決して下げることのない頭を下げる。この意味が分からない俺ではない。こりゃ、気合を入れて取り組まないとな。
「いくら身内とはいえ、頭を下げるのは不味くないですか?」
「それだけのことを頼んでいるのです。必要なことですわ」
「…それだけ、深刻な状況だと?」
「直観ですが」
皇帝の言葉に、俺の背中を冷たいものが伝う。これは本気でヤバいかもしれない。数百年を生き、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろう皇帝の直観だ。大きなヤマになると感じ、安易に引き受けたことを後悔する。
だが、それだけ大きなクエストならば、嫌が応にも巻き込まれる可能性は高い。であれば、自分から積極的に関わった方が、解決の可能性も上がるし、何より、俺の気が楽になる。
自らが何もできないところで、災厄に巻き込まれるほど無力感を味わうことはない。この世界で生きて来た中で、力を持つと共に感じたことは、現実世界以上に出来ることが広がること、同時に出来なかった時に感じる無力感だ。
現実世界であれば、蚊帳の外と傍観していた様々なことに、関わり解決すべく行動してきた。成功したことも、失敗したこともあるが、自らの手で関わって来た達成感があった。
今の俺にできることならば、出来る限り関わって行こう。オーラムハロムではそう心に決めて行動してきたが、今回もそう決めた。『直観』に従ったのだ。
決めた以上は、全力を尽くす。俺は皇帝に頷きを返すと、準備をするために席を立つ。さあ、今回も忙しくなりそうだ。
皆を集めて、皇帝からの依頼を伝える。今回は【転移】の魔法で移動するため、連れて行ける者は限られる。スマラは当然として、合一装備として移動できるエメロードとマグダレナ以外は、留守番ということになる。
「最近は、すっかり穏やかな生活に慣れていたけど。探索と聞くと心が疼くわ」
ヴィオーラはそう言って微笑んだ。腕に抱かれたイオンも大きくなり、最近では『長女』として健やかに育っている。体格だけならば遥かに大きい女神たちの子供に対しても、『姉』として振舞う女王様ぶりだ。ある意味将来が楽しみである。
「今回の移動は【転移】だからな。皆には留守を頼む」
「調査だけなら、大して問題はないんじゃない?」
そう言って肩を竦めるジュネに対し、
「今まで、ヴァイが関わって『大した問題』でなかったことがあった?」
とツッコミを入れるのはブリスだ。その言葉に頷くのはロゼ。エリオを抱いた彼女も留守番組なのだが、その瞳は穏やかにエリオを見つめている。
「言っても仕方がありませんが、無茶はしないでくださいね」
「努力はしているんだけどなぁ」
どうにも、無茶を要求する状況が、向こうからやって来るというか。ロゼの言葉に、頭を掻きつつ俺は答えた。その言葉に、ロゼは俺を見つめるとクスリと微笑んだ。
『頑張って。返って来たら、お願い』
リィアはそう言って俺の腰に手を回すと、胸に顔を埋めてくる。俺は頷いてそっと抱き締めた。
この一年を通し、結局リィアの身体は大きな変化を見せなかった。そこで、改めてリィアと関係を持つ、と言っていた矢先に依頼が飛び込んできたため、そのことについては帰って来てから、ということになったのだ。
一回り近く離れている俺と、関係を持つことに抵抗はないのだろうか、と思うところもあるが、リィアと出会って数年、彼女は成長しているのに対し、異邦人である俺は身体的には老化することなく過ごしている。
いつかは俺の『現在』を追い越し、年経ていくのだろうが、それが〈現地人〉として、いやヒトとして在るべき姿なのだろう。
やはり、俺は〈異邦人〉なのだ。本来、この世界には存在しえない存在。
けれど、俺がここで『生きた証』を残したい、と思うことは傲慢なのだろうか。証を残すこと(それ)が許されているのであれば、残したいと思う。
リィアとの関係も、俺がここで生きた証として、リィアの中で残ってくれれば、と思う。ヴィオーラ達とは既に残しているわけだが、後悔はしていない。
歴史に名を残した英雄たちも、そんな気持ちだったのだろうか。俺とは比べるべくもない偉業を達した先人たちに、自分を重ねるのはおこがましいと思うが、その想いは重なっていると信じたい。
「それじゃあ、行って来るよ」
「おう、気をつけてな。門が開けるようになったら、いつでも呼んでくれ。手を貸すぜ」
「主殿、我らも何時でも馳せ参じられるよう、備えておきますぞ」
ゼファーとガデュスの言葉に頷き、静かに微笑むアマルセアと、ナンナを抱くインファンタをそっと抱き締め、シェアト達女神達と子供達も同様に抱き締めると、俺は門を潜り抜けた。
門を抜け、帝都に出た俺は、人目につかないよう物陰に入ると、【転移】の魔法を唱える。行き先は南大陸、はじまりの街より転送され、最初に訪れた宿場町だ。
「それにしても、何時ぶりかしら。アル=ウルトの街にも行きたいわね」
スマラが肩の上から声を掛けて来た。そういえば、アル=ウルトの街に友人がいるんだったか。
「そうだな。確認ついでに行ってみるか」
「良いわね。街に着いたら案内するわよ」
スマラはそう言うと影に飛び込む。
『わたしは行った事ないから、楽しみ』
『私も久し振りね』
エメロードとマグダレナも楽しみにしているようだ。未だ状況が分からないから、どうなるかは予想もつかないが、マグダレナの故郷の森にも行ってみたいところだな。
不謹慎とは思いながら、俺は待ち受ける事件を思い、口元に笑みを浮かべると、魔法を発動した。
数年前に一度訪れただけの宿場町に、ちゃんと転移できるか不安があったが、無事に転移は完了した。街道から僅かに脇に逸れた草原に転移した俺は、街道の先にある宿場町を目指して歩き出した。
そういえば、此処に来る前に、初めての戦闘をしたんだっけ。あの時はまだオーラムハロムはゲームだと思っていたから、そのリアリティに驚いたものだったが。あの時に手に入れた、二頭の馬は元気にしているだろうか。
街に近づくにつれ、徐々に懐かしさが込み上げてきた。当時の記憶も思い出される。しかし、はっきりと町の様子が見えてくると、その様相は記憶にあるものとは異なっていた。
最初に気付いたのは、町を囲むように土塁と柵が設けられていることだ。街道を塞ぐように設けられた門も、以前とは比べ物にならないくらい堅牢に造られている。
そして、門の前に立つのは、門衛ではなく完全武装の兵士だ。そして、門の上の見張り台にいた兵士が、俺に気付くと警戒を促すためであろう、警笛を吹き鳴らした。
『なにか、嫌な予感がしない?』
『そうだな、いきなり厄介事かもしれないな』
スマラの念話に答え、俺は武器を抜かず、だが何時でも抜き放泣てるよう、準備をしたまま歩調を変えずに町へと近づいていく。
「止まれ! 何者だ!」
兵士から飛ぶ誰何の声に、俺は歩みを止め、その場で答える。
「探索者だ! 探索の途中で町に立ち寄るところだ」
「探索者だと…? 町は現在領主の管理下にある! 許可なく入ることはできん。通行証は持っているのか?」
兵士の問いかけに、俺は内心舌打ちをする。宿場町を封鎖するとは余程の事態だな。だが、ここで事を荒立てても仕方がない。
「通行証は持っていない! 探索証だけだ!」
「通行証の無い者を通すわけにはいかん! 引き返せ!」
俺の答えに、兵士からは通行を拒否される。さて、どうしたものか。別にエメロードやマグダレナに人化を解いて貰えば、移動には問題なかったが、ここで何が起きているのか、当事者の声を聞いた方が早い。明らかに何かが起きている現状で、無視して他の場所に行くのは、効率が悪いしな。
「せめて、何が起きているのか聞きたいのだが!」
「今の状況を知らない? お前一体何処から来たんだ!?」
俺の問いかけに、警戒を強める兵士たち。不味い、下手を打ったか?
緊張感の増した状況の中、それを打ち破るように見張り台から声が上がった。
「敵襲、敵襲! 南の丘陵、数は…視認で五十!」
「ちぃ、こんな時に!」
兵士たちは慌てて門を開き、中へと移動すると、すぐさま門を閉じる。うむ、完全に見捨てられたな。
「聞いたな! 死にたくなければ引き返せ!」
緊迫した兵士の声に、俺は敵が来たという丘陵に視線を向けた。
成程、敵ね。
俺は街に向かってゆっくりと近づいて来る異形の集団を見、頷く。丘陵の緑の中に蠢く白と黒の群れは、古びた鎧を身に纏い、同様に古びた槍や盾を構えた、スケルトンの集団だった。
柵の内側には、弓を構えた兵士たちが陣取り、号令と共に矢が放たれる。だが、骨であるスケルトンには効果が薄く、スケルトンは気にも留めずに近づいて来た。
アンデッドなのか魔法生物なのかは分からないが、整然と歩く姿からは、スケルトンが自然発生した魔物ではなく、何者かの意志に従って行動していることが分かる。
兵士が出張っているところを見ると、国同士の戦争なのか? だとすれば、迂闊に手を貸すのは不味いが。
「おい、早く逃げろ!」
街道に立ち止まり、動こうとしない俺を見て、先程の兵士が再び叫んだ。それに感化されたのか、はたまた生者の気配に惹かれたのか、スケルトンが向きを変え、こちらに向かって来た。うーむ、気づかれたか。
逃げるのは簡単だけど、それだと町で話を聞けないしな。スケルトン側がどんな陣営なのかは分からないけど、ここは兵士に義理立てて、恩を売って話を聞きますか。
俺は自らスケルトンの方へと歩いて行く。兵士からは声が掛かるが無視して距離を詰めていく。
『どうするの?』
『スケルトンだしな。さっさと処理しよう』
『私も?』
『合一してないんだから、手伝ってくれ』
『はいはい』
スマラは影から飛び出し、魔法を詠唱する。俺も合わせて魔法を唱える。
スケルトンは留まることなく向かって来る。その中心に向かって、俺とスマラが唱えた【火球】の魔法が炸裂した。
燃え盛る深紅の球はスケルトンの集団へと着弾、着弾地点を中心に、爆炎が吹き荒れた。その威力に、スケルトンは次々と吹き飛ばされる。
二発の【火球】によってスケルトンは壊滅した。一瞬で全滅したスケルトンに、兵士たちは呆然としている。
俺は打ち漏らしがないか確認のため、未だ熱気を放つスケルトンへと近づく。そして、調べていくうちに、目を引くものを見つけた。
それはスケルトンの一体が持っていた盾だ。盾の表面には、消えかけた模様の上から、新たに書き込まれた紋章がある。その紋章を見て、俺は頷いた。
取り敢えず、こいつらは俺の『敵』だな。
見覚えのある紋章に、こいつらが国軍とかでなくて良かったと、小さく息を吐く。背後からは、漸く事態を把握した兵士たちが、歓声を上げていた。これで、話くらいは聞かせて貰えると良いのだが。
俺は確認を終え、紋章の描かれた盾を拾うと、町へと歩いて行った。




