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―閑話― 〈現夢〉で乱攻の宴を催す

「おい、何か様子がおかしくないか?」

 儀式を見つめる俺、ゼファーは眼下で行われている様子が変わったことをいち早く感じていた。昔から、環境の変化には敏感で、自然と巻き込まれないように立ち回るのは上手かった。

 それで助かったことも多かったが、チャンスを逃したことも多い。株や投資をすれば儲けられると思った時もあったが、先立つものがなかったので諦めた。因みにデイトレードは二日で飽きた。性に合わなかったのだ。

 せめて趣味のゲームでは役立てようと、新規のゲームには積極的に参加し、特に環境から受け取る情報の膨大な、VRゲームでは周囲の人間に先んじて適応し、楽しんでいた。

 そんな矢先に新規タイトルとして期待していた《オーラムハロム》を手に入れ、喜び勇んで参加したのだが、紆余曲折を経て今に至るわけだ。

 今はクエストの真っ最中、それも恐らくクライマックス直前( だと思う )だ。いよいよクエストボスとの戦闘か、と心の準備をしていたところだったが、どうにも様子がおかしい。

 俺は皆に教えるように祭壇を指し示した。祭壇の周囲では魔物達が咆哮を上げ、触手が狂ったようにのたうち回っている。一方でベリトは恍惚とした表情を浮かべたまま、祭壇を見つめていた。

「不味いぞ、モンスターのやつら、興奮しているのか、周囲が見えていない」

 俺の言葉通り、祭壇の周囲では、魔物達による同士討ちが始まっていた。じゃれ合いのような、生易しいものじゃない。手加減のない一撃に、互いの身体を血に染めても、動きを止めることなく暴れている。

 このままじゃあ、ヴァイナスもベリトもただでは済まない。俺はカタナを引き抜くと、祭壇に向かって駆け下りていく。

「ゼファー殿、如何いたす?」

 ガデュスが声を掛けてくるが、俺は振り返ることなく、

「道理の通じないやつは全て斬る!」

 と叫んだ。ガデュスは呵呵と笑い、

「御意! これは我には分かり易くて良いですな!」

 と言うと、俺の隣に並んで一気に駆け下り、手近に迫った魔物へと斬り掛かった。

 炎を纏う大剣は、ガデュスの膂力と相まって、魔物を一息に両断する。だが、儀式の影響なのか瞬時に再生が始まり、痛みに悶えているのか、鉤爪の生えた手足を無茶苦茶に振るう。

 俺はその腕を狙って剣を振るう。さして抵抗を感じることなく、あっさりと腕を断ち斬る。即座に再生が始まるが、懐に飛び込んだ俺は、魔物の首を一閃、地に落とす。

 流石に首を落とせば再生しないようで、ジタバタともがいていたが、やがて動きが緩慢となり、別の魔物に踏み潰され、動きを止める。

「お見事!」「やったね!」

 ガデュスやキルシュの称讃が聞こえるが、俺は答えることなく、踏み潰した魔物に向かっていた。

 まずは祭壇に辿り着き、ヴァイナスを護らなければ。見ればヴィオーラはペガサスに跨り、空中から祭壇に迫る魔物を相手に激戦を繰り広げている。背後からはロゼやブリス達が魔法で支援を開始していた。

 俺に足を踏み下ろそうとしていた魔物の動きが止まる。その右目には深々と太矢(クォレル)が埋め込まれていた。流石ジュヌヴィエーヴだ。あの射撃の腕には惚れ惚れしてしまう。

 心の中で感謝を送り、俺はカタナを振るう。狙うは無防備に曝け出された首。気合の声と共に一閃するが、先程の魔物に比べ、遥かに大きな体躯を持つためか、一息に首を落とすことはできなかった。

 返す刀でもう一度首を狙うが、暴れる魔物の動きが激しすぎる。俺は諦めて目標を変え、逆袈裟に胸元を薙いだ。強靭な胸板を斬り裂く感触と共に、盛大な血飛沫が噴き出した。

 痛みと出血で魔物の動きが鈍る。そこに飛び込んできたのは、ワルワラだった。ヴァイナスがトーヤから貰った剣を振るい、俺が斬った首の傷を、上から斬り裂いた。それが止めとなり、魔物は頽れ、動きを止めた。

 何故ワルワラが? 彼女は後衛の護衛に就いていた筈。俺は目線だけで後ろを確認する。そして、すぐさま理解した。

 さっきまでローズマリー達がいた場所は、触手で埋め尽くされていた。ビルビルと蠢く触手が、まるで津波の様に雪崩を打ってこちらに向かって来る。ブリスが障壁系の魔法で食い止めているが、触手はものともせずに此方へと近づいて来ている。

「やれやれ、あれはちょいと厄介だな…!」

「ゼファー殿、あちらだけではないですぞ。他からも」

 ガデュスの言葉に周囲を見渡せば、触手が他の方向からも迫っている。進路場にいる、未だに同士討ちを続けていた魔物達をなぎ倒し、締め上げ、引き千切りながら迫る触手を見て、これはとんだボス戦になったとため息をつく。

「楽しそうですな」

「おいおい、今の状況、割と洒落になっていないぜ?」

「それでは、口元の笑みは如何したので?」

 ガデュスがそう言って笑みを浮かべた。俺と同じく、この状況で浮かべる戦馬鹿(バトルフリーク)の笑みを。

「それじゃあ、本気を出すとしようかね!」

 俺はそう言って、内に溜めた魂力を一気に解放した。俺の身体を闘気のオーラが包み、俺を中心としてつむじ風が巻き起こる。

 〈超入神〉を発動した俺は、先頭を切って触手へと飛び込んだ。キルシュから矢継ぎ早に施される強化魔法(バフ)を受け、俺は雄叫びを上げて触手の大津波を迎え撃つ。ヴァイナス、早いところ決着(ケリ)を着けてくれよ! それまで、俺がこの『乱攻の(ボスバトル)』を盛り上げてやるからさ!

 俺に続いて、ガデュスは〈入神〉を、ヴィオーラも〈超入神〉を発動させ、触手へと向かっていく。祭壇を中心に円陣を組んだ俺達は、押し寄せる触手を相手取り、いつ終わるとも知れぬ闘い(フェスティバル)に身を投じていった。


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