俺たちってやめろ
「よし、早速だが問題だ。俺たちにとってインドカレーとはなにか?はい、八神!」
満面の笑みで平良が八神を指名する。八神は心底うんざりした顔で返した。
「俺たちってやめろ。つーか、そっからかよ。インドカレーはインドのカレーでしかないだろ」
八神の投げやりな回答に平良は得意げに指をかざす。
「チッチッチ…甘いな。それは素人の回答。まだインドカレーの深淵を知らぬ者の回答だな」
「こいつうぜ〜…」
「まったく…最初からそんなガツガツいっても引いちゃうでしょ。まずは、習うより慣れろ。座学よりも実践から入った方がいいんじゃない?」
見兼ねたゆりねが、平良を嗜めるように割って入る。長い黒髪がサラリと揺れた。
「む、確かにそうだな。よし!まずは実践から始めるとするか!そうと決まれば早速買い出しだ!みんな、行くぞ!」
「だから、そっからかよ!!!」
声を荒げる八神と、そんなのはどこ吹く風で走り出す平良。
(な、なんか…)
透子は目紛しく変わる状況に呆気に取られながら思う。
(八神さんと平良部長って真逆すぎるなぁ……)
あの自由すぎる八神がこんなに振り回されるなんて。
まるで野良猫と大型犬が戯れているみたいだな…などと思いながら2人を眺める透子の肩を、ゆりねが軽く叩く。
「まったくしょうがないわね。さ、透子ちゃんも一緒にいきましょ」
「は、はい!」
(あぁ、ゆりねさんだけが癒しだなぁ…)
花が綻ぶようなゆりねの笑顔にほっとしながら、透子は慌てて後を追いかけた。
◇
「よし、ついたな!基本いつもカレーの具材はここで買うんだ。スパイスも豊富に揃ってるしな!」
大学から徒歩10分ほどの距離にある大型スーパー。一般的なラインナップに加え、一風変わった食材も扱っていることで有名なところだ。
「なんでもいい、さっさとしてくれ。つーかカレー食べるだけでいいんじゃなかったのかよ、なんで作るとこから…」
「八神はカゴを持ってきてくれ!」
「ほんっと話聞かねぇなこいつ!」
変わらず噛み合わない会話を繰り広げる2人を横目に、透子は気になっていたことをゆりねに尋ねる。
「あの…ゆりねさんって、部長ほどカレー熱高くなさそうにみえるんですが…なんでこのサークルに?」
ゆりねは一瞬黙った後、涼しい顔で答えた。
「平良がいるから仕方なく、ね。幼馴染なのよ。あいつ、放っとくとすぐバカやるから」
「な、なるほど。幼馴染なんですね!」
(言われてみれば、たしかに)
透子は心の中で納得する。2人の妙に慣れたやり取りは幼馴染ゆえだったのか。
「まぁ、腐れ縁みたいなものよ。平良と私は…あ、ちょっと平良。余計なものは買わないでちょうだい。これ、戻して」
ゆりねはカゴの中にある食玩付きのお菓子を手に取ると平良の前に突き出した。
「なに?!いやしかし、これはなかなかのレア物でだな、」
「戻して」
「……はい」
平良は飼い主に叱られた犬のようにしゅんと項垂れながらお菓子を戻しに行く。
男子大学生が食玩付きお菓子って…と苦笑しながら透子はずっと不機嫌そうに突っ立っている八神に耳打ちする。
「ゆりねさんって平良部長には厳しいんだね」
「まぁ幼馴染特有の距離感ってやつなんだろ」
お菓子売り場からとぼとぼと戻ってきた平良を引き連れ、一同はレジへと向かった。
◇
「よし、これで材料は揃ったな!!」
「もう帰っていいか?」
「何を言う、こっからだろうが!!」
部室に戻る帰り道、如何にも怠そうな足取りでノロノロと歩く八神に向かって平良が大声で喝を入れる。
「あ〜だりぃ…こんなことなら天井のシミでも数えてた方がまだマシってもんだ。……入部、ミスったか?」
八神は数時間前の自分を呪いながら、わざとらしく長いため息を吐いた。




