人生が決まるからだ
「……うそ」
「ほんと。まぁ信じなくてもべつに、」
「え、え、え、じゃあなに!?あんた作家ってこと?!!」
「うるさ!だからそう言ってんだろ」
顔を顰める八神をよそに、透子は手元のスマホに素早く文字を打ち込む。
『引きオタニートの成り上がり 作者』
すると、『黒龍院紫狼』という名前がサジェストに現れた。クリックしてみる。表示された様々な記事の中に高峯のインタビュー記事が混ざっていた。あ、これ前に読んだな…開いてみたが、顔写真などはなさそうだ。
「黒龍院紫狼...これがあんたってこと?え、本名...?じゃないよね?」
「当たり前だろ、そんな厨二ネームが本名であってたまるか。あー、本名は八神。八神恭介だ。ちなみにペンネームは編集が勝手に決めたやつだからな。俺のセンスじゃない」
透子は高峯のコメントを思い出す。
『原作の先生もとても気さくで、温かい方でした』
……確かそんなことを言っていた。
高峯くんがそう言うならきっと素敵な人なんだろう—— そう思っていた。
………それなのに。
目の前にいるのは、猫背で陰気で失礼な男。
………詐欺では?
「ぜ、全然なんかイメージと違うんだけど...や、待って、高峯くん純粋だから騙されたんじゃ…?確かに引きオタニートの成り上がりってめっちゃ主人公陰キャだったしなんか納得かも...」
「おーい聞こえてんぞ。まぁ反論できないが。ともかく高峯くんは俺の原作の主演やってくれたから繋がりあるだけ。それより話戻すけど俺と恋愛、」
「え、ってことは高峯くんの連絡先も知ってるってこと!?え、ワンチャン今も会ってたりするわけ…?!!」
「おい!!高峯くんのことは一旦忘れろ!!!じゃなくて、とにかく一回俺と恋愛をだな、」
透子の熱量に負けじと声を張り上げる八神にハッとする。そういえばそうだった。なぜか透子は今、この引きオタニートの成り上がりの作者から恋愛の打診を受けているのだった。
「それさっきからどういうこと?わたし、あんた…や、八神さんと今初めて会ったのに...も、もしかしてその...ひ、一目惚れ?とか...?」
「ない」
「なぁっ?!」
「理由その①、俺のタイプは黒髪ポニテ幼馴染だが、お前は一つも該当しない。理由その②、俺はドルオタが嫌いだ。テンションがキモイからな」
「こ、こいつ…!じゃあなんで恋愛しようなんて言ったのよ!意味わかんない!!」
ちょっとでもドキドキした自分を殴りたい…そんな思いを隠すように透子は大声で詰め寄った。
「だから言ったろ、詳細は省くって」
「一番大事なところを省くな!!」
「まぁまぁよく考えてみろよ。俺がもし高峯くんだったらどうする?高峯くんに『俺と恋愛しない?』って言われてみ?どうする?」
「そりゃもう是非!!!金払ってでも!!!!」
即答。そんなのするに決まってる。
「だろ?そういうことだよ」
「ん?どゆこと?」
「だから...いいんじゃないの別にっていう」
「たし...かに?いやいやまって!全然よくない!!そもそもあんた高峯くんじゃないし!!なんでそれで通せると思ったわけ?!?!!」
一瞬流されそうになった自分に喝を入れる。八神恭介…なんなんだこの男は。さっきから調子が狂って仕方ない。
「チッ、アホそうだから雰囲気でいけるかと思ったがさすがに無理か。しょうがない、一回しか話さないからよく聞けよ」
「なんでそんな偉そうなの?」
「まぁつまりだ。ここは作家らしく端的にいこう」
八神は芝居がかった口調で人差し指を立てた。
「ここで恋愛できるか、できないか。それで俺の…作家、八神恭介の人生が決まるからだ」
「…………は?」
端的に言われても、意味がわからない。
初対面のどうみても怪しい男。そいつにいきなり恋愛を迫られた挙句、『人生が決まる』?
………大学、間違えたかもしれない。
——そうして八神は、透子に恋愛を迫った理由を話し始めた。




