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キャラは多いに越したことはない

『……ってかんじでね、部長が今週末、皐月祭について話すからきてほしいって。これそう?』


八神は栄養ドリンク片手に締切の迫る原稿を睨みながら、低い声で返す。


「………まず確認だが、なんでお前が俺の電話番号知ってんだ」


『ご、ごめんなさい。部長に聞いて…』


透子がスマホの向こうで申し訳なさそうに謝る。八神は下描きにペンを入れながら、ため息交じりに答えた。


「はぁ…個人情報もなにもあったもんじゃないな。つーか何でお前から電話くんだよ」


『部長に、俺の電話番号は着否されてるから代わりにかけてほしいって言われて…もう、ちゃんと出てあげなよ』


透子の返しに、八神は残りのページ数を確認しながら諦めのにじむ声で返す。


「はぁ………もういい。で、何の用だって?急を要さないなら切るが」


『あ、まって!だから週末の集まり来れそう?って話!皐月祭の話したいんだって』


早々に通話を切ろうとする八神を、透子が慌てて引き止める。


「だりぃな…べつに俺いらねーだろ」


『まぁ忙しいなら全然…でも、八神さんくると部長も嬉しそうだし』


透子はそういうと『あ、そういえば』と思い出したように続ける。


『棗さんっていう二年の先輩と会ったよ。同じサークルの人みたい。海外留学から帰ってきたんだって。週末くれば会えるかも』


「……ほう。海外留学ねぇ」


透子の声に、八神のペンを入れる手が止まる。寝不足で充血した目がわずかに細まり、何か考えるようにしばらく黙った。


『八神さん?聞いてる?』


「…まぁいい、わかった。週末ね。要件はそれだけか?」


『え?う、うん』


手のひらを返すようにあっさりと承諾され、戸惑う透子をよそに八神は淡々と返す。


「ん。じゃあ切るぞ」


『あ、まって!』


「………なんだ」


再び走り出したペンを一瞬止め、気怠げに返すと、スマホの画面から透子の声が届いた。


『あ、えっと…か、身体、気をつけてね、八神さん!』


「あ?なんだよ急に」


『あ、その…さっき会った時、クマ酷かったから。あんまり寝れてないのかなーって』


透子の声に八神は一瞬黙り込むと、自身の目元を少し擦りながら、小さくため息をついた。


「…別に平気だ。いらん心配するな」


『そう?ならいいけど…あんまり無理しないでね。あ、タバコも程々にね!』


「…はいはいわかったよ。もういいか?」


『うん、じゃあね!』


八神のため息交じりの相槌に透子の明るい声が響く。通話が切れたことを確認しながら、八神ははぁと軽く息を吐いた。


「…ったく、母親みてーなやつらばっかだな」


八神は再び原稿に視線を戻しつつ、透子との会話を振り返る。


(留学帰りの二年生ね…新キャラか。まぁキャラは多いに越したことはない。皐月祭ってのも文化祭みてーなもんだろ…)


八神は頭の後ろで腕を組みながら、現役時代をぼんやりと思い出す。出席日数を補うために無理やり文化祭に参加させられたのは、もう10年以上前の話になるだろうか。


(出席簿に名前だけ書いて、すぐ帰ったんだっけか。あんま覚えてねぇな)


「ま、文化祭なんざ恋愛においては王道中の王道イベント。なんか収穫があればいいがな…」


八神はぶつぶつと呟きながら電子タバコを手に取ると、流れるように軽く口元にあてがった。


「………チッ」


開きかけた唇が止まる。八神は小さくため息をつくと、タバコを咥えることなくそのまま机に戻した。

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