普通に正攻法だな
「よし!全員集まったな!」
週末。部室に集まったメンバーを見渡しながら平良が大声で叫ぶ。
「朝からでかい声出すな。頭に響く」
平良の声にこめかみを押さえながら、八神が不機嫌そうに呻く。いつも通り部屋着のような格好で髪をかきあげながら、眠気の残る重たげな目蓋をシパシパと瞬かせている。
「八神は今日はちゃんと定刻に来たな、偉いぞ!」
「褒めんでいいから声量下げろ」
変わらない声量で話し続ける平良に八神は呆れた顔でため息をつく。
(八神さん、今日は前より顔色良いな…少し休めたのかな?相変わらず寝起きってかんじだけど)
悪態をつく八神の横顔を盗み見ながら、透子がホッと胸を撫で下ろしていると、横からカラリとした声が飛んでくる。
「はじめまして、八神さん」
「あ?」
振り返ると、棗が立っていた。人の良さそうな笑みを浮かべながら、座っている八神の目線に合わせるように少し屈んでいる。
「春川棗です。僕も皐月祭お手伝いすることになったんで、よろしくっす」
「……あぁ、お前が。ん、よろしく」
八神は透子との電話を思い出す。そして、しばらく棗の顔を見つめた後、落ち着いた声でそう返すと、視線を戻した。
「うむ、仲間が増えるのは良いことだ!では早速だが、本題に入る!」
平良はそう叫ぶと、真っ白なホワイトボードにデカデカと『皐月祭』と書き殴った。
「俺たち八大生にとってのビッグイベント、皐月祭!それがもうすぐそこまで迫っている!あらゆる猛者が集うこの祭り、今年も熾烈な争いになるだろう。が、しかし!最高で一位、最低でも一位!それくらいの気概で挑んでもらいたい!」
「平良、ホワイトボードは叩かないの」
ホワイトボードをバンバンと叩きながら熱く語る平良に、ゆりねが横から口を挟む。
「あ、すまん」
平良が一瞬声のトーンを下げて詫びる。
「で、まず重要なのが場所取りだ!人がたくさん集まるイベントステージの近く!ここが最もアツいスポットだ!我々もここを抑え…」
「ふっ、遅いな。あまりに遅すぎる。亀でももっと早く動くぞ」
熱弁する平良の声を遮るように、ドアの方から凛とした声が飛んでくる。
「そ、その声は…!」
声の主は、ドアにもたれかかるような姿勢で腕を組んでいる。平良はその人影を認めると、弾けるように叫んだ。
「ビリヤニ研究会、通称ビリケン!!」
「び、びりけん?!」
透子が思わず声を上げる。
(ま、また変なのが…!そしてなんでまたインド系……)
呆気に取られる透子をよそに、男は眼鏡を押し上げながら得意げにほくそ笑む。
「な、なんでお前がここに!」
「ふん、貴様に用などないわ。あるのは…」
「真木くん、久しぶりね」
平良の後ろからゆりねが男に声をかける。その声に、真木と呼ばれた男は蛇のように鋭い視線を瞬時に緩ませると、ゆりねの前に傅いた。
「あぁ、ゆりねさん。今日も大変お美しい。この三流サークルにおける唯一の宝石と言っても過言ではない輝きだ」
「そういうのやめてちょうだいって言ってるでしょ」
「三流サークルだと?!」
呆れた顔で真木を嗜めるゆりねの横から平良が叫ぶ。その声に真木の視線が再び鋭くなった。
「今からノロノロ場所取りだなんだ言ってるサークルが三流でなくてなんなんだ?場所取り合戦はもう始まっているんだよ」
「な……!」
「皐月祭の運営団体、通称ゴーハチ。ここが各サークルの場所の決定権を握っている。であれば、この団体を抑えるのが最も手っ取り早い」
「な……まさかお前、」
真木は口の端でフッと笑うと演説をするように腕を広げる。
「俺たちは3月頃から手土産とともに運営に何度も足を運び、欠かさずロビー活動を行ってきた」
「なんだと?!貴様、賄賂か!!」
「ふん、なんとでも言え。我々のこれまでの活動実績、去年の売上などの資料を渡したまでよ」
「普通に正攻法だな」
八神が横からボソリと呟く。
「くっ……!そんな手があったとは…!」
この世の終わりのような顔で頭を抱える平良に真木が勝ち誇った表情で言い放つ。
「ふん、これで我々の場所取りはほぼ完了している。先んずれば制す。戦の常識よ」
(戦……?)
およそ学祭の話をしているとは思えない会話に透子が苦笑いを浮かべる。
「ぐっ………みんな、すまない………俺の初動が遅かったばかりに……いや、しかし今からでも…………」
「くはは!!今更遅いわ!!もう勝負は決まってるんだよ!!」
真木の高笑いが部屋に響く。その哄笑を冷やすように八神がため息交じりにつぶやいた。
「別に場所なんてどこでもいーだろ」
「え?」
八神の声に、机にうずくまっていた平良が顔を上げる。
「場所が多少悪くてもモノがよければ客は買う。つーかイベントステージの前なんて激混みだし、むしろ外れた方がいい」
淡々と言葉を続ける八神に、棗も微笑みながら頷く。
「たしかに。導線さえ確保できれば溢れたお客さんも拾えますしね」
「な、なるほど…たしかに一理あるな!」
パッと顔が明るくなる平良に、真木はスッと眼鏡を押し上げながら静かに吐き捨てる。
「…ふん。まぁせいぜい足掻けばいいさ。どこであろうとお前たちに勝ち目はない。今年の皐月祭は我々が制す!」
「それはこっちのセリフだ!!」
真木は平良の反応をスルーするとゆりねに向き直って恭しくお辞儀をする。
「ゆりねさん、お会いできて嬉しかった。また来ますよ。それでは」
「おい待て!」
そう言って微笑むと、真木は平良の声に構わず颯爽と部室を後にした。




