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やっぱただのアホだろ

「さて、レストラン街についたわけだが…どうだ、佐倉!何か食べたいものあるか?」


たくさんの店を前に、透子はまたも興奮気味に辺りを見渡す。


「えっどうしよう…!どれもおいしそうで迷うなぁ…!」


「やっぱカレーだよな?!」


「ま、まだ何も言ってないですよ?!ていうかまた?!!」


「またとはなんだ!今日はまだ1回もカレーを食べてないぞ!」


「1日1回カレーは必須なんですか?!」


「当たり前だ!ほら、ここの店なんて結構界隈でも評判良くてな。どうだ、うまそうだろ?!」


平良が手前にあるインドカレー屋を指差した。スパイシーな香りが店の外まで漂っている。


「た、たしかにおいしそうですけど」


「な、2人もそう思うよな?!」


「知るか。血液がカレーでできてるようなやつは黙ってろ」


「八神は文句ばっかりだな!じゃあどこがいいんだ!」


不満げに詰め寄る平良に八神が面倒そうに手を振る。


「どこがいいっつか、もう帰りたいんだが…あーもうなんだっていいよ、勝手にしろ」


「よし、決まりだな!」


満面の笑みで店に向かっていく平良に、八神が呆れたように呟く。


「はぁ…あいつ人の話聞かなすぎだろ。昔からああなのか?」


ゆりねが肩をすくめながら答える。


「まぁそうね。でもあれでいいとこもあるのよ」


「はぁ、そうかね」


「この前も知らない人に道案内してたし」


「はぁ」


「しかも挙句一緒に迷子になって」


「はぁ?」


「でも最後まで付き合ってちゃんと目的地まで連れてったり」


「バカのエピソードか?」


「あとこの前もおばあさんの荷物持ってあげたり」


「はぁ………」


「あと近所の子供の自転車の練習付き合ってあげたり……」


「………………」


「あと商店街のおじさんの………」


「……随分出てくるな」


「え?」


「平良いいやつエピソード」


「……べつにそんなんじゃないわよ」


ゆりねはふいと目を逸らした。そして店に入っていく透子たちの後を小走りで追いかけた。


「…………………」


八神はその後ろ姿を目で追いながら、口元を少しなぞる。そして喫煙所の場所だけ確認すると、気怠げな足取りで3人の後をついていった。


◇


「いやぁ、食べたな!どうだ、おいしかっただろ?!」


自信たっぷりに言う平良に透子が大きく頷く。


「はい!特にナン!パリパリもちもちですごくおいしかったです!」


「おぉ、わかるか!そうなんだ、あの店は特にナンにこだわっていてな!小麦粉のブレンドがまさに黄金比で、」


「ちょっと平良、あんまり長々話すと透子ちゃんが引いちゃうわよ」


マシンガントークを繰り広げようとする平良をゆりねが宥める。


「あ、あはは…でもおいしかったのはほんとです!ね、八神さん…あれ?」


気づけば八神の姿がない。透子はキョロキョロと辺りを見回した。


「喫煙所じゃないかしら。さっきタバコ片手にフラッとどっか消えてったから」


「えぇ?!もう、体によくないのに…あ!戻ってきた!八神さん、タバコそんなに吸っちゃダメだよ!」


「まったくだ!佐倉の言う通りだぞ、八神!」


2人からの説教に、八神はポケットに手を突っ込みながら怠そうに答える。


「うるせぇな、お前にとってのカレーみたいなもんだと思え。」


「なるほど、それなら仕方ないな!」


「仕方なくないですよ?!」


「……って、八神くんそちらは?」


「あ?」


ゆりねの視線の先には小さな女の子がいた。小学校低学年くらいだろうか、ちょうど八神の膝から腰くらいの背丈で、きょとんとした顔で八神を見上げている。


「……あ?」


「や、八神……子供いたのか?!」


「いない」


「い、妹さんとか?」


「いないな」


「迷子かしら。ご両親とはぐれちゃったのかも」


「なに?迷子?それは大変だ。よし、きみ!こんにちは!」


平良はしゃがみ込むと、少女の目を見ながら柔らかい声で話しかけた。


「………!」


少女の小さな肩がビクッと動く。


「はは、緊張しなくていいぞ。今日はお母さんときたのかな?」


「…………うん」


少女がこくりと頷く。


「そうか、じゃあお母さんもきっと探してるな。ゆりね、迷子センターの場所わかるか?」


「えぇ、同じフロアにあるわ」


すでに調べていたのか、ゆりねが素早く答える。


「じゃあ一旦連れていくか。きみ、お名前は?」


「………なつみ」


少女は俯き加減で小さく答える。


「なつみちゃんか、いい名前だな!よし、そしたらお母さんに会うために、ちょっとだけ歩けるかな?」


「う、うん」


「えらいぞ!よし、じゃあ出発だ!佐倉、手を繋いでやれるか?」


「あ、はい!じゃあ行こうか、なつみちゃん!」


透子が笑顔で手を差し出す。なつみは控えめに頷きながら、透子の手を恐る恐る握った。平良はその様子を確認すると、後ろで突っ立ったままの八神を振り返る。


「八神は顔が怖いから離れて歩くように。代わりに佐倉の荷物を持ってやれ」


「チッ………おい、貸せ」


平良の言葉に舌打ちしつつ、八神が透子に手を差し出す。


「あ、ありがとう」


「こっちよ。ここを曲がったらつくわ」


ゆりねが指差す方へ向かうと、迷子センターがあった。事情を説明すると、受付の職員は慣れた様子で迷子案内のアナウンスをかけた。


「まぁここまで来りゃあとはなんとかなるだろ」


「うむ、そうだな。とはいえ、すぐに母親が来るとは限らないからな。来るまで様子を見よう。なつみちゃん、隣いいか?」


「う、うん」


待機用のソファにちょこんと座るなつみの横に平良が座る。そしてなつみが持っているバッグに視線を移すと、笑いながら話しかけた。


「そのバッグかわいいな!なつみちゃんはピンクが好きなのか?」


「う、うん…ママが買ってくれたの」


「それはいいな!よく似合ってる!」


「あ、そのうさぎさんもかわいいね!」


透子がバッグについたうさぎのぬいぐるみを指差しながら、なつみに微笑みかける。


「うん、みんなもってるの。友達とおそろい」


「へぇ、そうなのか!」


なつみに笑いかける平良を見つめるゆりねに、八神が言う。


「……こういうとこか?」


「え?」


「あんたが言ってた平良のいいとこってのは」


「……そう、そうね」


ゆりねは少し目を伏せた。


「…なつみ!」


母親らしき女性が慌てて駆け込んでくる。なつみはその声に気づくと弾かれたように顔を上げた。そして一目散に駆け出すと、その足元に縋り付いた。静かに泣きじゃくるなつみをあやしながら、母親は何度もお礼を言った。


「やっぱり我慢してたんだね、あんなに泣いて…ほんとよかった、すぐ見つかって」


「子供だからな。気を張ってたのが母親を見てほどけたんだろう」


安心したように頷く平良を透子が見上げる。


「にしても平良部長、子供の相手上手ですね!対応もスムーズだったし…!」


「まぁ初めてじゃないからなぁ。佐倉も上手だったぞ、ありがとな!」


「いえ、全然…!」


「ほんと、昔っから人の世話ばっかりよね」


ため息混じりに言うゆりねに、平良が困ったように笑う。


「はは、ついな…ゆりねもありがとな!」


「べつに私は何もしてないわよ」


「迷子センターの場所すぐ探してくれただろ?」


「…そんなの誰でもできるわよ。たいしたことじゃないわ」


ゆりねは一拍置くと、いつもの涼しげな表情で返す。


「そうか?でも、ありがとな!」


「…………………」


「どうした八神?」


黙って2人を見つめる八神に平良が不思議そうに尋ねる。


「や、べつに」


「あ、自分だけお礼を言われなかったのが気になるのか?大丈夫、わかってるぞ!八神も最後まで付き合ってくれてありがとな!」


「こいつやっぱただのアホだろ」


平良の満面の笑みを見ながら、八神はため息をついた。

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