たまには、ねぇ
「わぁ、人がいっぱい…!あ、あのお店テレビでみたことある!あ、あそこも!」
たくさんの人で賑わうショッピングモールを前に目を輝かせる透子の横から、八神が口を挟む。
「はしゃぎすぎだろ、まだ入り口だぞ。まぁいいや、俺はその辺ブラブラしてっからお前ら楽しんでこい」
そう言って速やかに立ち去ろうとする八神の背中をゆりねが捉える。
「待ちなさい。どうせタバコでも吸いに行くつもりでしょ。そうはさせないわよ」
「えっまた?八神さん、タバコ吸いすぎじゃない?身体に良くないよ」
「八神、タバコはやめた方がいいぞ!タバコの煙は味覚や嗅覚に悪影響を与えるからな、飯が不味くなる!」
「あ〜〜〜一気にうるせぇな!!保護者かお前ら!じゃあ聞くが、何すんだここで。タバコ以外にやることあるなら言ってみろ!」
3人からの集中砲火に、八神が取り出しかけたタバコをポケットにしまい込む。
「逆になんでタバコしかないのよ、こんなにお店があるのに。ねぇ、透子ちゃん?」
「そうですよ!あのお店もすっごくかわいいし、あっちのお店だってインスタで大人気で…!むしろ回りきれないくらい!」
あちこち店を指差しながら興奮気味に話す透子に平良が笑う。
「ははは、佐倉は反応が新鮮でいいな!よし、今日は佐倉が気になるところから回ろう!」
「え!いいんですか?!」
「もちろんだ!今日は親睦を深めるのが目的だからな。佐倉が楽しいと思えればそれでいい!」
「おい、俺は?俺の要望はガン無視か?なぁ」
「そ、そしたらあの服屋さん、ちょっと見てみたいです…!インスタで見て気になってて」
透子が指差した先にはギンガムチェックのかわいらしい外装のアパレルショップがあった。
「あらいいわね。行ってみましょうか」
「おい、これもう俺いなくても、」
「行くぞ、八神!」
「だから、なんでだよ?!」
◇
「わぁ〜〜かわいい!インスタで見た服がたくさん!」
「本当ね、透子ちゃんに似合いそう」
子供のようにはしゃぐ透子に、ゆりねが優しく連れ添う。そんな2人を店の外から眺めながら平良は満足げに笑った。
「はは、こうしてみるとまるで姉妹みたいだな!どうだ八神、微笑ましいと思わないか?」
「思わんな。マジでこれ俺いなくていいだろ」
「そんなことはない!たとえ興味がなくとも、同じ時間を共有することが大事なんだ!」
「お前も興味ないんじゃねーか」
「ちょっと2人とも。そんなとこいないで、こっち来なさい」
ゆりねが店の中から手招きする。ゆりねの横には控えめなフリルをあしらったワンピースを着た透子が立っていた。
「うん、素敵。すごく似合ってるわ、透子ちゃん」
「えへへ…そうですかね?インスタで見かけてかわいかったから、一度着てみたくて…」
照れ笑いを浮かべながら、ワンピースの裾を確認する透子に平良が笑顔で褒める。
「うむ、いいじゃないか!俺は女性の服には詳しくないが、似合ってることはわかるぞ!八神もそう思うよな!?」
「俺に感想を求めるな。ファッションはわからん」
少し離れた場所からだるそうに答える八神に、ゆりねが凄みのある声で詰め寄る。
「もう一度聞くわ。どう?八神くん。似合ってる、わよね?」
「…はいはい、似合ってるよ。ったく、どうせ答え決まってんなら聞くなよな…」
「な、なんか言わせたみたいでごめんなさい…」
透子は気まずそうに俯きつつ、気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば、ゆりねさんってこういう系はあんまりですか?普段キレイ系が多いイメージですけど…」
「そうね、あまり似合わないのよ」
「え!そんなことないです!絶対ないです!!」
透子が反射的に叫ぶ。こんな美人なゆりねに似合わない服なんて、透子には想像もできない。
「ゆりねさんに似合わない服とか絶対ないです…!ほらこれとか!絶対かわいいですよ!!」
「そ、そうかしら」
「これもいいかも!ほら、今の靴にも合いそう!よかったらこれとかどうですか?!」
透子はふんわりとした花柄のワンピースをゆりねに差し出した。白色のシアーな生地に薄ピンクの小花が散っている。
(フェミニンなゆりねさん、絶対かわいい…!)
透子は確信を持って頷く。
「わ、わかったわ。試着だけよ?」
「わぁ!ありがとうございます!」
透子の勢いに気圧され、ゆりねが服を受け取る。
(透子ちゃんって意外と押しが強いのね…)
ゆりねは困ったように微笑みながら、試着室へと入った。
◇
「どうかしら?普段こういう服はあまり着ないのだけど」
「わぁー!思った通り!すっごくかわいい!!です!!」
試着室から出てきたゆりねの姿に透子が感嘆の声を上げる。透け感のあるワンピースがゆりねの白い肌によく馴染み、いつもとは違った柔らかい印象を与えている。
「ほんと?ありがとう、嬉しいわ」
「ほんとに!ね、八神さんもそう思うよね!」
「だから俺に聞くな。いいんじゃね?なんでも」
「もう!ちゃんとみてよ!」
「ふふ、ありがと」
表情ひとつ変えずに言い放つ八神に透子が詰め寄る。八神らしい反応にゆりねは小さく笑った。
「おぉ、普段見ないかんじだな!うん、よく似合ってる。かわいいぞ、ゆりね!」
2人の後ろから平良が顔を出す。いつもと違った雰囲気のゆりねに驚きつつ、満足げに頷いている。
「…!」
ゆりねが一瞬、平良を見る。が、次の瞬間すぐに目を伏せると、呆れたように呟いた。
「…はいはい、ありがと」
そうして小さくため息をつくと、着ているワンピースをじっと見つめた。
「…………………?」
八神が目を細める。
ゆりねは、鏡の前で何度か自分の姿を確認すると、もう一度ワンピースへ視線を落とした。
◇
「あ〜楽しかった!ちょっと高かったけど、着るの楽しみだなぁ。付き合ってくれてありがとうございました!」
買い物袋を大事そうに抱えながら透子がお礼を言う。
「いいのよ、私も楽しかったわ」
そう返すゆりねの手にも同じ店の袋があった。
「あれ?ゆりねさんも買ったんですね!さっきの服!」
「まぁ、たまにはいいかなって」
「…………………」
笑顔のまま軽やかに返すゆりねを、八神が薄く見つめる。
(たまには、ねぇ)
最初は試着だけって言ってた気がするけどな。そんなことを思いつつ首を傾げる八神の横で、平良がいつも通り大声を飛ばす。
「よし、まだみて回りたいところだが、ちょっと腹が減ってきたな。一旦お昼にするか!」




