気が向いたらな
「ふ〜〜〜おいしかった!ごちそうさま!」
米粒一つないキレイな皿の前で、透子が手を合わせる。
「透子ちゃん、おかわりまでしてたものね。気に入ってくれてよかったわ」
「えへへ、おいしかったものでつい…家でも作れそうだし、また作ってみよっかな」
「そりゃあいい、ぜひ作ってくれ!八神もどうだ、自分の手で作ったカレーは!格別にうまかっただろ?」
「変わんねぇな。なんなら労力の分差し引いたらマイナスだわ」
帰ろうと立ち上がる八神を平良が大声で制す。
「まて!食べたらきちんと片付けるまでが料理だ。片付けの分担もしっかり振ってあるからな!」
「チッ、こいつアホそうなのに、意外と抜け目ねぇな…」
八神は軽く舌打ちすると渋々皿をシンクに運んだ。
◇
「よし、片付いたな!キレイに片付くと心までキレイになるってものだ!」
「今日は来てくれてありがと。楽しかったわ。戸締りしておくから先帰っていいわよ」
満足げに部屋を見渡す平良をよそに、ゆりねは透子と八神に向かって微笑みかける。
「あ、ありがとうございます!こちらこそ楽しかったです…!」
「ふふ、よかった。これから履修登録とかもあるだろうし、わからないことあったらいつでも聞いてちょうだい。あ、私の連絡先教えとくわね」
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします…!」
(わぁ…ゆりねさんと連絡先交換しちゃった…!)
追加されたゆりねの連絡先に感動する透子の後ろから、八神が痺れを切らしたように声を投げる。
「おいドルオタ、いいからさっさと帰るぞ」
「ドルオタってやめてくんない?!」
「八神くんもよかったら連絡先教えてくれない?何かと便利でしょ」
「あ?だるいな」
「いいじゃない」
「……チッ、まぁいいか」
渋々八神はスマホを取り出す。
「ふふ、ありがと。また活動日に声かけるわね。気が向いたら八神くんも顔出してちょうだい」
「二度とくるか。…と言いたいところだが」
八神は一瞬、ゆりねに視線を向ける。
「…まぁ気が向いたらな」
八神はひらひらと手だけ振るとそのまま部室を後にした。
◇
「最初はどうなることかと思ったけど、結構楽しかったね!平良部長、声は大きいけどいい人そうだし」
駅までの帰り道、気怠そうな八神に透子が話しかける。
「声の大きさでマイナスだろ。つか、あいつ自分の声で耳やられてんじゃねーか?マジで話通じねぇ」
「意外と気が合ってそうにみえたけど…あと、ゆりねさんも優しいし。しかもすっごく美人!」
「そうか?」
「そうだよ!あんな美人、初めて見たもん。さすが都会の大学だなーってかんじ」
「顔までちゃんとみてねぇな」
「え!見てたじゃん、さっき!」
透子は思わず八神を見上げる。少なくとも透子には、八神が何度かゆりねに視線を向けていたように見えたのだが。
「あ?顔なんか見てねぇよ。あの女は見てたが」
「?同じじゃん」
「違う。顔じゃねぇ」
言っている意味がよくわからない。透子は素直に聞き返す。
「じゃあ何見てたの?」
「や、妙にバンダナ野郎に構うな、と。」
「バンダナ野郎って…平良部長?」
「それ」
「幼馴染だからじゃないの?八神さんも言ってたじゃん」
「まぁ、それはそうなんだが…」
八神はそこで言葉を切ると、口元を撫でた。
「?」
相変わらずよくわからない 。
(にしても、今日のカレーおいしかったなぁ。今度、実家でも作ってみよう)
そんなことを考えながら、透子は軽い足取りで駅に向かった。




