第七話 三人で歩く庭
ミリシャとキリアン、そしてオレアは応接室のテラスから庭へ出た。
外は、晴れてからりとしていた。
春から夏にかけて、ミリシャは何度かポートル家の庭でお茶をしたことがあった。
しかし秋以降、庭に出たのははじめてだった。
小鳥が近くの木にでも止まっているのか、チチチという鳴き声の他にパタパタという羽ばたきの音も聞こえてくる。
ミリシャはその音の出所を探るように、目線を上にあげた。
暗緑色の生け垣の合間にある、黄色や赤に染まった落葉樹の葉が、この季節特有のメランコリックな華やぎを演出している。
庭師によって掃き集められた落ち葉の山に日が当たり、どこかお香のような香ばしいにおいを醸し出していた。
石畳に散った数枚の落ち葉さえ、どこか芸術的な配置に見えた。
「寒くないですか?」
キリアンがミリシャの顔を見る。
「大丈夫で――」
「少し寒いわ」
ミリシャの声にかぶせるように、オレアが答えた。
オレアは、二人の後ろからついて来ていた。
ポートル前侯爵からの指示だった。
ついて行くのなら、二人の後ろから。
決して割り込んだりしないこと。
ついて行くなとは言ってくれなかった。
キリアンも、小さくため息はついたものの、“約束”とやらを違えたオレアに、それ以上は言わなかった。
だからオレアは二人の後ろにいる。
楽しそうに。
「寒いのなら、部屋に戻るといいよ」
一本調子の言い方が、キリアンの気持ちを表していた。
だけどオレアは気づかない。
あるいは、気にしない。
「今日は、お兄様ちょっと意地悪だわ」
頬を膨らませ、口を尖らせた表情で、拗ねたことをアピールする。
「いつもは腕を組んでくださるのに」
キリアンの口元がかすかに引きつったように見えた。
ミリシャが手を置いているキリアンの腕にも、力みが感じられる。
「今。私は。婚約者を。エスコートしている。だから。君に貸す腕はないよ」
ひと言ひと言区切るように言うキリアンの言葉を聞いて、オレアは大きく目を見開いた。
その目に、うっすらと涙が浮かんだ。
こらえるつもりなのか、流すつもりなのか、ぱちぱちと瞬きを繰り返している。
ミリシャは、そっとキリアンを見た。
眉間には、しっかりとしわが寄っている。
もう一度オレアを見た。
涙はまだ、瞼の中におさまっている。
だけど、今にもこぼれそう。
ミリシャは、じわじわと、居た堪れなさがこみあげてきた。
だから。
小さくため息をついた後
「オレア、こちらにいらっしゃいよ」
キリアンから少し離れ、オレアの場所を作った。
オレアはそれを見てパッと笑顔になり、二人の間に割り込んできた。
そして二人の腕に自分の腕を絡める。
「これなら寒くないわ」
先ほどの涙は消え、にこにこと笑顔に戻るオレア。
「ミリシャ、申し訳ありません」
キリアンは唇を引き結んだままだった。
ミリシャはなんだか悲しくなった。
キリアンは、オレアを諫めようとしてくれている。
だけど、諫めきれていない。
ふいに風が吹いた。
足元の落ち葉が、かさかさと音を立てながら遠くへ吹き流れて行く。
ミリシャはそれを、視線だけで追う。
なんだか急に、空しさが押し寄せてきて。
再びため息がこぼれないよう、ミリシャはきゅっと口元に力を入れた。
結局、三人で並んで歩いた。
オレアがしゃべり、ミリシャが返事をする。
キリアンは黙ったまま。
オレアの楽しそうな声を聴きながら、ミリシャはそっとキリアンをうかがい見る。
その視線に気づいたのか、キリアンもミリシャを見て。
笑顔をくれた。
見ようによっては、どこか泣きそうな笑顔を。
ミリシャも笑顔を返した。
たぶん
似たような笑顔を。
二人に挟まれたオレアの笑顔だけが、本物の笑顔だった。




