第四話 私でなければいけない理由
分からないことは、確認するしかない。
父が、ポートル家に問い合わせをしてくれて。
間違いないという返事をもらっていた。
キリアン本人からの申し出で、政略というより、ミリシャの社交性を見込んでとのことらしい。
社交性。
膨らみかけていたものがしぼんでいく感覚があった。
貴族に生まれた以上、社交性は必須だ。
上手に挨拶する。
常に笑顔。
心の内を表情に出さない。
相手の微細な表情やしぐさから、考えや感情を読む。
場の雰囲気に合った会話をする、などなど。
幼い頃から、そういうことをしつけられる。
ミリシャは、子供のころから気が強く、はっきりとものを言う性格だった。
嫌なものは嫌。
それは間違っている。
あなたのしていることはよくないことだ。
そういうことを、すぐに言ってしまっていた。
たとえ、それが正しいことだとしても、相手を不快にさせたり、恥をかかせたりするような言葉は控えるようにと、何度も注意を受けてきた。
幸い、場の雰囲気の変化や、相手の感情の動きには気づくことができたので、年齢を重ねるに従い、言っていいこととダメなこと、断る時、注意する時の言葉の選び方、また、あえて言葉にしないことの大切さを身につけてきた。
今も時々、気の強さは顔を出してしまうこともあるけれど、以前に比べるとだいぶマシになった。
つまり、ミリシャの社交性は努力によって培われたものだ。
もちろん、それを評価してもらえたのは嬉しいけれど、婚約の決め手にするほどのものだろうか。
たしかに、ポートル家は貴族だけを見ても、王家を中心とした中央貴族、北と東の辺境領とその周辺に領地を持つ貴族、場合によっては辺境領と隣接する国からの使者など、その人間関係はかなり広範囲だ。
キリアンは次男とはいえ、今後も貴族としてポートル家を支えていく。
つまり、彼もその妻も、かなりの社交を行わなければならないのだろう。
だから、キリアンの結婚相手に社交性を求めるというのは、理解はできる。
理解はできるのだけれど……。
もっと、ミリシャでなければいけない理由が欲しかったとも思ってしまう。
ミリシャは、キリアンがそばにいるとドキドキする。
胸の内側が、ほわりと温かくなる。
笑ってくれると嬉しいし、疲れているようだと心配になる。
こんな気持ちになるのは、キリアンだけだった。
だから、キリアンの中にもミリシャだから動く“何か”を持っていてほしい。
そう思うのは欲張りだろうか。
婚約者に、と選んでもらったことは嬉しい。
嬉しいけれど、ポートル家にとって必要な条件を満たしていたから選ばれただけなのではと考える自分がいる。
しかも社交性など、貴族ならだれでも持ち合わせているものではないか。
たまたま、オレアの友人だったから選ばれたに過ぎないのではなかろうか。
その考えが、素直にミリシャを喜ばせない。
家の格を鑑みても、ミリシャのキリアンに対する想いからしても、この申し出を断る理由はない。
もし、正式な書状の前に、キリアンからこの話を聞いていたら。
書状には書けないキリアンの気持ちを聞かせてもらえていたら。
きっと今頃、無意識に鼻歌を歌い、軽やかなステップを踏んでいたかもしれない。
それなのに――。
どこか沈んだ気持ちを抱えながら
「なんてぜいたくな悩みなんだろう」
ミリシャは自嘲気味にそう呟いた。
嬉しいという気持ちは本心なのに、素直に喜べない自分が少し嫌だった。




