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あの日の続きを  作者: くぎのりクロボ


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第二十二話 書かれていないこと

結局、冬休みの間にポートル家を訪れる機会はなかった。


新学期を迎えても、花嫁修業の日取りは決まらない。


そのことが、ミリシャの胸に小さな不安を積もらせていた。


ポートル家へ通えなくても、自宅で調べられることはある。


ふとそう思い立ち、貴族名鑑を開いた。


ポートル家のページを開き、始祖から順に系譜をたどっていく。


やがて、見覚えのある名前が並ぶ頁にたどり着いた。


オレアについての記載もあった。


しかし、家系図の中ではない。


備考欄だった。


【オレア・ルテル ルテル男爵家一女。ポートル家預かりとする】


つまり、オレアはポートル家の実子でも養子でもない。


それを見た瞬間、ミリシャは「あぁ」と思った。


オレアのキリアンへの想い。


あれは兄への思慕ではなく、一人の男性への恋心だったのだ。


けれど、そうなると分からないことがある。


キリアンの結婚相手として、


「ミリシャなら」


と言ったのは、オレア自身だ。


血のつながりもなく、養子でもないのなら、オレア自身がキリアンと結婚できるはずなのに。


そう考えた途端、胸がずきりと痛んだ。


夢を壊され、怒りを覚えた今でも、恋心は完全には消えていないらしい。


毎日届く南方の花々が、少しずつミリシャの怒りを和らげていた。


いつか、お礼をしたい。


そう思ったところで、慌てて思考を引き戻す。


今は、そのことを考える時ではない。


オレアはポートル家の実子ではない。


けれど、キリアンとは結婚できない。


それなのに、前侯爵夫人は二人を応援しているように見える。


応援するくらいなら、認めてあげればいい。


もちろん、前侯爵夫人一人で決められることではないだろう。


ポートル家として認められない事情でもあるのだろうか。


貴族名鑑だけでは、そこまでは分からない。


オレアがポートル家預かりとなったのは五歳の時。


その頃に何があったのか調べれば、何か分かるのだろうか。


それとも、実家であるルテル家について調べれば――。


そこまで考えたところで、ふと手が止まる。


たとえ事情を知ったとして。


ポートル家の、ミリシャへの対応に納得できるのだろうか。


誠実であるなら、婚約を申し込む時点で話しておくべきことではなかったのか。


それとも、オレアがすでに話していて、ミリシャは知っているものと思われていたのだろうか。


でも、それならオレアに確認すれば済む話だ。


では、オレアが嘘をついた?


そんなことをする理由が分からない。


考え込んでいると、かちゃりと扉が開いた。


廊下から差し込む灯りが、入口に立つ人の顔を陰にした。


いつの間にか、図書室は薄暗くなっていた。


入ってきたのは父だった。


「お前が図書室へ入ったきり出てこないと聞いて、様子を見に来た」


そう言いながら、父はミリシャの手元へ目を向ける。


「ポートル家のことか」


「はい」


一緒に来ていた執事が図書室の灯りをともした。


その明るさで、父も何を読んでいたのか理解したのだろう。


他家の事情を詮索しすぎるのは礼を欠く。


だが、社交を行う上で必要な情報を知っておくこともまた、貴族の務めだった。


その境界が、ミリシャにはまだ分からない。


だから、とりあえず名鑑に書かれている事実だけを口にした。


「オレアは、ポートル家の実子でも養子でもないと書かれています」


「そのことは、オレア嬢本人から聞いていなかったのか」


父の問いに、ミリシャは苦笑した。


「はい」


聞いていなかった。


出自は、誰にでも話せることではない。


だから責めるつもりはない。


けれど。


貴族名鑑には記載されている事実でもある。


家を行き来するほど親しくなったのに、そのことを教えてもらえなかった。


その事実が、少し寂しかった。


仲が良いと思っていたのは、自分だけだったのだろうか。


胸に広がった苦みが、嫌な想像を連れてくる。


ミリシャをキリアンの婚約者にしておけば、たとえオレアがポートル家を離れることになっても、「ミリシャに会う」という理由でキリアンに会える。


そんなことまで考えていたのではないか――。


いや。


さすがに、それは悪意を盛りすぎだ。


自分でそう打ち消す。


それでも。


オレアが何を考えていたのかは、やはり分からない。


聞けば答えてくれるのだろうか。


婚約の日。


第一夜会の日。


オレアの振る舞いを思い返す。


確かに分かるのは、一つだけ。


オレアがキリアンを愛していること。


ミリシャは、


【オレア・ルテル ルテル男爵家一女。ポートル家預かりとする】


その文字を、そっと指先でなぞった。

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