第二十話 違和感
翌日、ポートル家当主より正式な謝罪文が届いた。
昨日は、キリアンが直接謝罪に訪れた。
今日は、正式な謝罪文。
これで、あちらは誠意を示したことになる。
受け取らなければ、今度はこちらが狭量と思われるだろう。
しかし。
謝罪文だから仕方がないのかもしれないが。
年明けから始まるはずだったポートル家での作法やしきたりの習得については、何も書かれていなかった。
いつから始まるのか。
その予定さえ決まっていない。
こちらから問い合わせるべきなのだろうか。
それとも、まだミリシャの気持ちを考え、あえて話題にしなかったのだろうか。
年末まではまだ日がある。
もう少し様子を見よう。
そう思った。
数日が過ぎた。
キリアンからは、毎日花束が届く。
謝罪の翌日に届いた花束には、一通の手紙が添えられていた。
『今は謝罪の言葉さえ、あなたを傷つける。
そのことは肝に銘じているし、私の顔を見たくないと思うのも当然だ。
それでも、花を贈ることだけは許してほしい。』
花束は、ウェザレル領のあるルトワー王国南部に咲く花々で彩られていた。
この季節、王都ではほとんど手に入らない。
手に入ったとしても、高価だ。
言葉にはしていない。
それでも、
少しでもミリシャの心が和らぐように。
そんな願いが込められていることは伝わってきた。
キリアンは、まだ二人の関係を諦めてはいないのだろうか。
怒りはまだ消えていない。
それでも、関係を修復しようと努力してくれている彼の姿勢に、心が揺れた。
けれど。
まだ自室へ飾る気にはなれない。
だから花は、食堂や玄関、サロンなど、一日に何度か目に入る場所へ飾ってもらった。
だが。
ようやく浮かびかけた気持ちは、すぐに沈められることになる。
第一夜会は、文字どおり社交シーズンの幕開けを告げる夜会だ。
そのため、有事でもない限り、辺境伯たちも出席する。
そして夜会の後には、重要領地を預かる家々が彼らを招き、社交を重ねる。
もちろん、ポートル家もその一つだった。
しかし。
ミリシャへ招待状は届かなかった。
まだ学生だからだろうか。
デビューを終えていても、学生が出席できる夜会は限られている。
王宮主催の夜会。
自家や近しい親族の催し。
そして、婚約者がいる場合は、その家から正式な招待を受けた時だけ。
もっとも、学生だからという理由で夜会へ招かないとしても、昼間に開かれる茶会などの社交はある。
他家の催しに出席できないことは理解できる。
けれど。
ポートル家の催しにさえ招かれない。
それを、どう受け止めればいいのだろう。
それだけではない。
年末が近づいても、年明けからの予定について何の連絡もなかった。
さすがに不安になり、ミリシャから問い合わせる。
返ってきたのは、
「多忙につき、現時点では予定を決められない。都合がつき次第連絡するので、それまで待つように」
という返事だった。
文章は丁寧だった。
けれど。
待たせることへの申し訳なさは伝わってこない。
ミリシャを気遣っているようにも思えなかった。
もしかして。
ミリシャがキリアンへ怒りをぶつけたこと。
そのため、ポートル家がウェザレル家へ謝罪文を送ることになったこと。
それに対する、不快感なのだろうか。
それでも。
キリアンから花束は届き続ける。
そのほとんどには、南部の花が添えられていた。
今では、それが彼なりの誠意なのだと素直に思える。
だからこそ。
ポートル家全体のよそよそしさが、なおさら気になった。
時間がたてば消える違和感なのだろうか。
それとも。
見過ごしてはいけないものなのだろうか。
つかみ取って、その正体を確かめられたなら。
そんな思いで胸へ手を当てる。
その奥では。
ざわざわと、名もない違和感だけが、静かにうごめいていた。




