表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の続きを  作者: くぎのりクロボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/40

第十四話 境界線

「コサージュを外しなさい」


キリアンの声は静かだった。


静かだからこそ、有無を言わせない迫力があった。


隣で聞いているミリシャの身まで縮こまるほどに。


けれど、オレアは怯まなかった。


むしろ、目つきが鋭くなる。


「だったら、お兄様もそのピンを外して」


「なぜ」


「さっきも言ったでしょう。それ、似合っていないもの」


眉間にしわを寄せ、憎々しさを隠そうともせず言い返す。


「これはミリシャがくれたものだ。私は気に入っている。それに──」


「ミリシャ。なんでこんなものをお兄様にあげたの? 全然似合っていないじゃない」


最後まで言わせず、オレアはミリシャへ向き直った。


その視線にも、言葉にも棘がある。


オレアは、それに気づいていないのだろうか。


それとも、気づいたうえで言っているのだろうか。


ミリシャは、ちらりとキリアンの胸元を見た。


深い緑色。


キリアンが普段あまり身につけない色。


――ミリシャの色。


本当なら、もっと淡い色だ。


けれど、キリアンにはこの深い色の方が似合うと思った。


それに、自分の瞳そのままの色を贈るのは、まだ少し気恥ずかしかった。


だから、この色を選んだ。


ミリシャなりに、キリアンに一番似合うと思うものを。


それなのに。


どうして、ここまで言われなければならないのだろう。


胸の奥で、本来の気の強さが頭をもたげる。


コサージュから手を離し、首元へ添えた。


余計なことは言わない。


場を乱さない。


挑発には乗らない。


幼い頃から、何度も言い聞かされてきた言葉を思い出す。


左右の鎖骨が交わるくぼみへ、人差し指をそっと押し当てた。


喉に伝わる圧迫感が、理性を呼び戻してくれる。


ゆっくり息を吸う。


怒りは消えない。


それでも。


「これは私の瞳の色よ。本当はもっと淡いけれど、キリアン様には、この色の方が似合うと思ったから選んだの。婚約者として」


静かな声だった。


オレアは目を丸くした。


何に驚いているのか、ミリシャには分からない。


似合わないと認めると思ったのか。


謝ると思ったのか。


それとも、自分が婚約者なのだと、ミリシャがはっきり口にするとは思っていなかったのか。


分からなかった。


オレアのことが。


婚約者でもないのに、コサージュをつけてきたことも。


それが、ミリシャとまったく同じものだったことも。


ミリシャが贈ったクラバットピンを、似合わないと言い切ったことも。


それが、どれほど失礼なことなのか気づいていないことも。


友人だと思っていた。


数年後には、義理とはいえ姉妹になる。


だから、仲良くしていこうと思っていた。


人との関係を円滑に保つことは、貴族として当然の務めだ。


だけど。


ミリシャの中に、一本の線が引かれた。


オレアとの間に。


もう、越えることのない線が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ