表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の続きを  作者: くぎのりクロボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/39

第十三話 お揃い

「どういうことだ」


キリアンはもう一度問う。


先ほどよりもさらに低く、鋭い声だった。


けれど、オレアは気づいていないようだった。


「素敵よね、これ」


左手でコサージュに触れ、嬉しそうに目を細める。


繊細なつくりだった。


透けるほど薄い生地を幾重にも重ねた花びらは、中心ほど深い濃紺で、外へ向かうにつれて淡く軽やかになっていく。


なのに今は。


オレアの胸元では、黒い穴のように見えた。


あの穴を覗き込んだら、何が見えるのだろう。


オレアからも、ミリシャの胸元には穴が開いて見えているのだろうか。


もしそうなら。


その奥には何が潜んでいるのだろう。


決して顔を出してはいけない何か。


そんな気がした。


気づけば、左手がコサージュを覆い隠していた。


白いロンググローブは、薄暗い室内でもよく目立つ。


その動きにつられたように、キリアンの視線がミリシャへ向いた。


哀切。


そんな表情だった。


胸が締めつけられるような。


けれど、その表情は瞬きを一つしただけで消え、視線はすぐにオレアへ戻る。


「オレア」


「なあに、お兄さま?」


オレアはにこにこと笑っている。


その笑顔には、悪意など欠片もないように見えた。


「質問に答えなさい」


「質問って?」


「なぜ、そのコサージュをつけている?」


「だって、今日は特別な日よ。だから──」


「誰に買ってもらった?」


最後まで言わせず、キリアンが問いを重ねる。


オレアは黙った。


「答えなさい」


「……おばあさまに」


しぶしぶという様子で答える。


「オルレア・ポートル前侯爵夫人か」


キリアンの声に、苦々しさが混じった。


「なぜ、そんな堅苦しい呼び方をするの?」


「祖母と呼びたくないからだ」


「なぜ?」


「本当に分からないのか。それとも、はぐらかそうとしているのか」


キリアンは苛立ちを隠そうともしない。


「ひどいわ。はぐらかしてなんかいないじゃない」


オレアは唇を尖らせる。


「ならば、もう一度聞く。


なぜ、この場にそれをつけてきた?」


「だから、今日は特別な日だからっ」


オレアの声にも苛立ちが混じる。


「デビュタントドレスにコサージュをつけるのは、婚約者がいる女性だけだ。


お前には婚約者がいるのか?」


「……いないわ。だけど──」


「しかも、それは私がミリシャへ贈ったものと、まったく同じだ。


そんなものをお前が身につけていたら、周囲がどう思うか考えなかったのか」


「だって!


ミリシャとお揃いがよかったんだもの。


ねぇ、ミリシャ。


ミリシャだって、私とお揃いの方が嬉しいでしょ?」


何を言っているのだろう。


ミリシャには、何一つ理解できなかった。


今日この場は、婚約者のいる者にとって正式な婚約披露の場でもある。


その証が、コサージュとクラバットピン。


色に決まりはない。


それでも、いつしか相手の髪や瞳の色を取り入れたものを贈ることが、愛情を示す一つの形になっていた。


決まりではない。


決まりではないからこそ。


そこには相手の気持ちが表れる。


だから、あのコサージュが嬉しかった。


答えられずにいると、オレアは今度はキリアンを見た。


「お兄さまこそ、なんでそんな似合わない色のクラバットピンをつけているの?


私が差し上げたサファイアの方がお似合いよ?」


キリアンが問い詰めること。


ミリシャが答えないこと。


そのどちらへの不満も、オレアは別の話へすり替えた。


「これは──」


「あのクラバットピン、いつもつけておくって約束だったじゃない」


ミリシャは、はっとした。


そういえば。


キリアンは、会うたびにサファイアのクラバットピンを身につけていた。


あれは、オレアから贈られたものだったのか。


妹から兄へ。


約束。


婚約した日にも聞いた言葉だ。


約束。


一体、この二人の間には、いくつ約束があるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ