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あの日の続きを  作者: くぎのりクロボ


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第十二話 濃紺のしみ

オレアの胸元に飾られたコサージュ。


ミリシャと、まったく同じもの。


キリアンの色。


ミリシャは、白いドレスに映える濃紺の花を見つめた。


目は、正確にその情報を脳へ送り続ける。


だけど脳は、その情報をどう受け止めればいいのか分からないでいた。


瞬きができなかった。


瞬きをしたら、この光景が脳裏に焼きついてしまう。


焼きついてしまったら。


あの夜。


キリアンから直接受け取った時の安心も、安堵も、幸せも。


そのすべてに、濃紺のしみが広がってしまう気がした。


だけど、もしかしたら。


瞬きをしたら、オレアの胸元は違うコサージュに変わっているかもしれない。


そんな馬鹿げた期待が、頭をよぎる。


でも。


消えるわけがない。


分かっている。


だからこそ、目を逸らすことも、瞬きをすることもできなかった。


そして、もう一つ。


見れば見るほど、受け入れがたいことがあった。


オレアの髪は濃紺。


瞳は淡いブルーグレー。


だから。


そのコサージュが、驚くほど似合っていた。


兄妹だから。


兄妹なのに。


二つの言葉だけが、頭の中をぐるぐると巡り続ける。


コサージュは、婚約した男性が相手の女性へ贈るもの。


しかもキリアンは、自分の色を取り入れたコサージュを贈ってくれた。


だから、特別なのだと思った。


だから、あんなに嬉しかった。


なのに。


どうして。


それをオレアにも贈るのだろう。


オレアには、まだ婚約者はいない。


自分と婚約したから。


友達であるオレアにも贈らなければ不公平だと思ったのだろうか。


もしそうなら。


キリアンにとってコサージュは、婚約者だけの特別な贈り物ではなかったのかもしれない。


だったら、あの日。


旅支度も解かず、夜遅くに届けに来てくれたのは。


あれも。


コサージュを心配するミリシャを安心させるため。


婚約者として礼を欠いていないと示すため。


ただ、それだけだったのかもしれない。


そこに。


自分が期待したような特別な意味など、最初からなかったのかもしれない。


キリアンの色。


そう思っていた。


だけど今は。


オレアの色にしか見えなかった。


自分が勘違いしていたのかもしれない。


本当はオレアのためのもので。


自分の分は、そのついでだったのかもしれない。


あの日以来。


ミリシャの心は、ふわりと温かなもので満たされていた。


だけど今、その温もりは急速にしぼみ、代わりに冷たいものが流れ込んでくる。


耐えきれなくなって。


ミリシャは、とうとう瞬きをした。


脳裏に、濃紺のしみが焼きつく。


こんな状態で、人前へ出られるだろうか。


キリアンにエスコートされ。


王族へあいさつをして。


大勢の貴族の前で踊る。


とても、できる気がしない。


どうしよう。


体調が悪いと言って帰ろうか。


そんなことまで考え始めた、その時だった。


「どういうことだ」


地を這うような声が響いた。


キリアンだった。


王宮とはいえ、この場所はまだ薄暗い。


それでも、彼の顔色がさっと失われたのが分かった。


眉間には深いしわ。


その表情には、はっきりと怒りが浮かんでいる。


なぜ。


キリアンが怒るのだろう。


ここでは着けない約束だったのだろうか。


でも。


ここで着けなければ、意味がないではないか。


見えているものを、どう受け止めればいいのか分からない。


ミリシャは立ち尽くすことしかできなかった。


どこからか風が吹き込み、ランプの灯が揺れる。


その揺らめきは。


濃紺のしみを焼きつけたままの、ミリシャの心まで揺らしていた。

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