後ろ語り ― リラ=ファブラ
後の世では、この話は、美しい姫と、嫉妬深い王妃の物語として語られるでしょう。
鏡は、毎夜のように問いかけられます。
この世でいちばん美しいのは誰か、と。
そして人々は、その問いを、顔立ちのことだと思うのです。
雪のように白い肌。
血のように赤い唇。
黒檀のように黒い髪。
それらを持つ姫は美しく、だから王妃は憎んだのだと。
狩人は姫を森へ逃がし、七人の小人は小さな家へ匿り、老婆は毒の林檎を差し出す。
やがて姫は眠り、硝子の棺に寝かされ、王子の口づけによって目覚める。
ああ、なんと綺麗な悲劇でしょう。
なんと語りやすい夢でしょう。
けれど、本当は。
鏡が映していたのは、美貌ではありませんでした。
それは、消されずに残った者の輪郭。
歪められず、削られず、誰かの都合で書き換えられなかった存在の記録。
毒林檎が奪おうとしたのも、命だけではありません。
息をしていること。
名を持っていたこと。
誰かに呼ばれ、誰かを呼び返し、この国の中で確かに生きていたこと。
そのすべてを、眠りの底へ沈めようとしたのです。
硝子の棺が守っていたのは、死体ではありませんでした。
死んだと記される前の、まだ消えていない生の証でした。
小人たちは、姫を埋めなかった。
若き記録継承者は、姫を死者として呼ばなかった。
そしてニヴェア=アルバは、眠りの奥から、自分の名へ帰ってきた。
雪は、すべてを覆い隠すように見えます。
けれど、雪の下にも足跡は残ります。
枝に触れた血の色も。
眠る唇の赤も。
硝子の内側に曇った白い息も。
白い肌。
赤い唇。
黒い髪。
それは、美貌のしるしではありません。
消されてもなお残った、記録の色だったのです。




