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21.

 カーテンから差し込む光と、さわやかな鳥のさえずりに、微睡みから浮上した。


 「興奮でよく眠れませんでした」とか言ってみたいものですね。

 いつの間にかグッスリでした。てへっ。


 結婚前提だとはいえ嫁入り前の娘が、男と同衾とかさ……

 お父さんが聞いたら、絶対卒倒するよね! 

 それにですね。なんか寝づらいと思ったんだよな。

 気が付いたら、腕を取られて抱きしめられているんですけど。


 抱きしめ……いや、違うなこれ。

 う、動けん。

 腕が……関節?


 これは……片手、ナチュラルに技をかけられてる状況ではないのだろうか。


 ギブ! ギブギブギブ!!

 片腕をガッチリ固められてる。動かそうとすると変に痛みが走る。


 一晩手出しもせずに爆睡しやがったうえに、無意識に彼女の腕をひねり上げるとか、どういうこと!?

 ホールドされた状態のまま、そんなことをグルグル考えている間にも、隣のお部屋とか廊下で物音がしている。


 とりあえず、関節技かなんかキメられてるみたいだけど……動かさなきゃ痛くないようだ。


 イェスタは、まだ正体もなく寝たままだ。

 昨晩の「間諜が」って小さな物音でピリピリしていた人とは思えません。


 ……余程疲れていたんだろうなぁ。

 ホッとしたような、残念なような……


 じゃねえ!


 好いた女に手出しもせずに、隣でグースカ寝るというのが、世間一般常識的に有り得るのかどうかというのは置いといてですね。無意識の腕固めとか、どうなんでしょうか。

 教えてエライひと!


 でも、イェスタだからなぁ。格闘オタクは寝てても格闘オタクってことだろうか。

 なんだかもう「しょうがないなぁ」という気分。


 短めにカットされた濃い藍色の髪が、乱れている。サイドが金属光沢のある銀へグラデーションになってる。

 それよりも少し濃い色に睫毛や眉毛も藍色だ。この世界ではこういう暗っぽい毛色はなかなか居ないらしい。

 日本じゃ普通だけどなぁ。逆にブリーチしたりカラーを明るくしたりする方がオシャレだもんな。

 こっちではわざわざ染料で黒く染める人も居るらしい。

 まぁ、眉毛とか睫毛までは染められないだろうから、地毛じゃなかったらバレバレなんだろうけど。


 声をかけるべきか逡巡しつつ、じっと観察……という名のガン見をしていると、唐突に、ぱちりと目が開いた。

 ──驚くと、人は本当に目が点になるんだねぇ。……目を見開くと、瞳孔が小さくなって。

 一瞬状況が理解できなかったらしくて、イェスタは暫く固まっていた。


 たっぷり10秒の沈黙のあと。


 「え、ええと……おはよ? 」


 誤魔化すように私が声をかけると、ようやくじわじわと現状認識したらしい。

 バツが悪そうにソロリソロリと私の身体の下にまで回していた腕を抜いていく。

 わぁ……耳まで赤いぞ。逆に、こっちも恥ずかしくなるよ。


 「わ……わるい」


 ボソボソと小声で謝罪らしい言葉を口にする。

 やー。まぁ、いいんだけどさ。

 すごい。恥じらう美形の破壊力……これは……鼻血が出そうです。ご馳走様でした。


 起き上がって2人して照れていたら、誠にタイミングのいいことに、控えめにノックの音がした。

 何も無かったとはいえ背徳感に私は 慌てて逃げだそうとした。何処にも逃げようがないのに。

 3回のノックの後、聞き覚えのある声。


 「グァルデでございます。お目覚めでいらっしゃいますか、殿下」

 

 うひゃ、どどど、どうしよう!

 てか、イェスタがここに居るのバレてるし! ひぃ!


 はじめて男の人と夜を過ごしたんだぞ。

 まって……まって、まってまって? 心の準備も何もあったもんじゃないでしょう。

 グァルデさんとこのまま朝っぱらから顔を合わせるとか、ないよ!

 執事さんかも知れないけどそれは別でしょ、羞恥心で死ねる! 


 慌てふためいて私はベッドから這い出そうとした。

 だけど途端に、コロリと引っ繰り返されてイェスタの腕の中に逆戻りさせられてしまう。

 

 ぎゃあああああ! さっきより、密着! してます!


 この上なく赤面して、私は心の中で悲鳴を上げ続ける。


 「入れ」


 ……うぁああ! 入ってこないでぇえええ! バカバカバカ! イェスタ何言ってやがるの!?

 私の頭の中が大騒ぎしているその最中、軽い金属音を立ててドアが開いた。

 グァルデさんと、……ひっ、と喉の奥で息を呑む。

 いやぁああ! タンシェさんもいるし!

 朝からキッチリ金髪を結い上げてるタンシェさんは顔色ひとつ変えずに礼をとる。


 「おはようございます、殿下、ハルカ様」


 イェスタは尊大に溜め息をついて2人に文句を言い放った。


 「なんだ。朝から騒々しい。愛しい女との朝寝を邪魔するとは無粋だぞ」


 あああ! デカイ声で「朝寝」とか言うなぁああ!

 耐えきれずに上掛けを掴んで引っ張り上げる。

 ……とてもじゃないけど、グァルデさんもタンシェさんも直視できません。


 「申し訳ありません。殿下」


 グァルデさんは、更に深々と礼をとる。

 あまり申し訳なさそうには見えないけれども、絶対気まずいよねこの状況って……。


 「……それで? 俺の邪魔をする、大層な用件は何だ 」


 胡座をかいて片膝に肘を乗せあごを支える態勢で、つまらなそうに先を促す。……ちょっと、イェスタ態度が高飛車すぎない?


 「はい……早朝、早馬にて王都よりこの書状が届きました」


 筒状のものをタンシェさんは捧げ持つようにする。直径5cm長さは30cmぐらい。卒業証書入れみたいな感じ。私の中学校の時の卒業証書はファイルに挟むタイプだったけど、昔見せて貰った父の卒業証書はこんな感じの筒状の容れ物に入っていたっけ。あれは紙筒だったけど……これは、なんだろう。木製かな、それとも金属? 見た目だけでは判別できない。


 イェスタが目線だけで合図すると、グァルデさんは心得たようにタンシェさんから筒を受け取って寝台に近寄り、それを渡す。


 近くで見ると、金糸銀糸で草花や文様が描かれた、やたらと凝った容れ物だった。

 それを、幾度か回したり引く方向にイェスタが力を加えると、カチリと音がして4分の1あたりから折れるように口が開く。どうやって開いたのか。仕掛けがよく分からなかった。

 興味深げに見ていたのに気が付いたのだろう。イェスタは中の手紙だけを抜き取って、筒を私に寄越した。


 思ったよりも筒はズシリと重い。

 微かに出っ張った掛けがねがあり、筒状に戻すように動かすと、小さな音を立てて継ぎ目も分からないほどピタリとはまった。

 イェスタがやったように、ひねってみたり引っ張ってみたけれど、閉まってしまった筒はもう開かない。

 ……パズル? 

 なんだろう。これ、どうなってるんだ。


 チラリとイェスタを見やると、書面にザッと目を通して渋い顔をしていた。


 「まぁ、予想は付いていたが、そう来たか」

 「すぐにお支度を」

 「ああ」

 「始末は」

 「既に抜かりなくご用意しております」


 えっ……なんだ?

 イェスタとグァルデさんの、2人の会話がどういうことかさっぱり分からない。


 「ハルカ。王都へ緊急の呼び出しだ。オヤジが『すぐに来い』だとさ」

 「え……ええと? オヤ……ジ、って」

 「国王陛下だな」

 「……はぁ!? 」


 動揺する私を愉快そうに笑顔で見つめながら、イェスタは頭を撫でてくる。


 「心配するな。俺は先に出立するが、お前はあとから馬車だ。護衛も付ける」

 「え、いや、そうじゃなくて」

 「そういえば、昨夜は話が途中だったな」

 「あ、うん」


 それもあるけどさ、なんで……王様に呼ばれるんだ?

 いや、まぁ、イェスタは仮にも第3王子だから……か? でもなんだかすごく急だよね。


 「続きの話は王都でしよう……城に乗り込むぞ」


 うわーイェスタ、メッチャいい笑顔なんスけど!

 ……何か企んでる? 

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