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20.

 イェスタさん勘弁して下さい。

 ここに来て1年。私は17歳です。

 1年が400日ほどですので、1ヶ月と少しぐらい違う感じなんだろうけども、それは置いておいて。


 自分で言うのもなんですけど、顔立ちもフツーです。

 あなたは、よく「ブス」とか「馬鹿」に相当する罵倒の言葉をお使いになられますので時折不安になりますが、多分普通。


 私からみると、大抵の男性は優良物件にあたると思うんですけども、イェスタさんはその中でも群を抜いた優良物件ではないかと思うわけです。つまり、私にとっちゃ、テライケメンってやつです。

 口が悪いのが玉に瑕ですけどね?


 で。ココが重要なんですけれども。


 私は、年齢イコール彼氏居ない歴です。


 ……だからさぁ、男に免疫無いんだよぉうううう! 


 そりゃあね、イェスタと手を繋いだりとか、だいぶ自然にできるようになったよ?

 初めて繋いだのは忘れもしない、初めての市場での買い物体験学習でした!

 人混みがすごくて、ヒョイと繋がれちゃったんだ。


 私には2歳離れた弟がいる。やんちゃだけど私と違ってちょっと出来がいい弟。

 小さい頃は弟ができたのが嬉しくて、抱きしめたり、「お姉ちゃん」として、お祭りの時やお使いとか、手を繋いで歩いたことを思い出す。小学校の……何歳ぐらいだったろう。恥ずかしくなって繋がなくなっちゃったのは。


 女友達とは、球技大会で勝ったときとかハグしたり、そういうのはあったけど……あんまり仲のいい男子も居なかったし、ましてや手を繋ぐなんてことは無かった。

 私が大きくなってからは両親とも手を繋いだ記憶が無いし、高校の文化祭のフォークダンスは自由参加だったから参加してないし……


 思い出してみると「誰かと手を繋ぐ」ってこと自体が、もの凄く久しぶりで、あのときも滅茶苦茶動揺したんだよな。


 その後もイェスタは事ある毎に手を繋いだり、頭を撫でたり、抱き寄せたり、スキンシップしてきた。

 「日本と文化が違うから」って、慣れようと思って。触れられる度に心臓が跳ねるのをひた隠しにしてた。

 触られても、嫌じゃ無かったってのもあるけど。異世界に1人放り出されて不安だったもんな。正直、構ってもらえるだけでも有り難かったんだよね。


 でも、あの時とは、更に状況が違う。

 なにせ「婚約」するって言ってるわけだし。


 ……ねえ、ちなみに私、異性に関しての知識って保健で習った程度しか無いんだけど!

 萌えシチュとか、友達と話すことはあったけどさ、リアルな行為に関しての知識って……ヤバイぐらい無いよ!


 それにね。おかしい。

 順番がおかしい。

 そう。

 告白→交際→プロポース→結婚 ですよね?

 現在強引に「結婚」前提で、済し崩しに一つ屋根の下に暮らすことになってしまってるわけで。


 ……で。


 私は今、天蓋付きのキングサイズのベッドの上で後ずさっている。

 うわーナンデスカ……このベッド、フカフカですよ。


 イェスタは無造作に履いていた靴を脱ぎ捨てて、そんな私に迫る。


 「逃げるな」

 「そそそんな、無理! だって! 」


 逃げるなって言われても怖いものは怖い。

 払おうとした手は掴まれて、どう動かされたのかわかんないけど両手ともまとめて頭の上に拘束された。

 しまった。イェスタは体術に関して鬼レベルなんだった。敵うわけがない。


 「いっ……」


 掴まれた箇所が痛んで、小さなうめき声が出た。


 「……っ、悪い」


 慌てたように拘束が解かれる。


 ……ううう、ひどいよ……イェスタ怖いし……もう、何が何だか……。

 あかん。フワフワとした夢を描いていたぶん、裏切られたような気がして涙がにじんでしまった。


 「くそ、どうしてお前は……! 」

 

 燭台が一つ点っただけの厚いカーテンで暗い部屋だけど、イェスタの頬は夜目にも赤らんで、そっぽを向いた。


 「……今、説明する。……だから、泣くな」

 「……うん」


 掴まれて痛かった腕をさすりつつ、素直に頷いておく。

 溜息を1つ吐いて、イェスタは内緒話をするみたいに小声で話し始めた。

 ベッドに仰向けで押し倒されて……床ドンの態勢だ。

 ……う。……ち、近い。近い近い!


 「いいか?……さっきの部屋には、壁面が二重になっている箇所がある。元々は密かに警護をつけるための空間で、隠し扉で部屋側に通じていた空間だ。壁を改修した今では開かなくなっていていたんだが、代わりに別な出入り口から潜り込んで壁の中に潜むことができるようになっていたんだ。……そこに間諜がいる気配があった。……だから、壁の中を移動してこの部屋に……」


 ひそやかに、話をしている最中に、カタリ、と小さな物音がした。明らかに壁の……中だ。

 背筋の毛がぞわりとした。


 「……ほら、ネズミが引っかかったぞ」


 嬉しげな声。意地悪そうな笑みの形に唇が弧を描いた。


 「移動経路にトラップを仕込んでおいたんだ……聞こえたか? 慌てて逃げたぞ」


 私にはその1回の物音の他に怪しげな気配は感じなかったけど、イェスタには知覚できるのだろう。緊張を解いてゴロリと仰向けになった。髪をかき上げる仕草がセクシーでドキドキする。


 「ど、どうして……間諜って、盗み聞きする人のことだよね? なんで私のところなんか来るの」

 「飲み込みが悪いな、お前が重要人物だからに決まっているだろう」

 「へっ? 」


 あーもう、とイェスタは額をおさえた。


 「あのなぁ、お前をここに呼び寄せたのも、お前を誘拐や暗殺の手から守るためだからな。……既にその手の者が屋敷に潜り込んでたのは……まぁ、獅子身中の虫ってヤツだ。偽りの腹心よりもタチはいい。……とにかく、なんとかするからしばらく目立つ行動は控えろ」

 「あ、暗殺!? 」

 「そうだ」

 「……え。なんで? 」

 「お前、本当に馬鹿だな」


 あきれ顔でイェスタはどう説明したらいいか悩んでいる様子だった。

 ええ、ええ、馬鹿ですよーだ!


 「……つまりだな、俺が自由に動くのを良しとしない勢力があるってことだ。だから、お前はしばらく大人しくしていろ」

 「大人しくする、って……ええと具体的に? 」


 このお城からだったら、商工会議所までなら徒歩で1時間以上かかりそうだけど、下請けで給仕のお手伝いをしてた王立騎士団なら30分もしないで通えそうだった。

 せっかく働き始めて、職場の同僚ともチョッピリお話しできるようになってきたところだから、できれば辞めたくないんだけど。


 「基本的に部屋から出るな。手駒は少ないが、身内にはお前との婚約が進んでいることは公表したから、奴らも性急に動くことはないだろう。タイミング良く事件が起こると揉み消すのが大変だしな」

 「えええ」


 ……マジデスカ。


 完全に頭が浮かれてた。イェスタ、全然そんな素振りを見せなかったから、そういう王家のドロドロした暗部を初めて聞かされて、頭をぶん殴られたような心地です。

 や、やっぱり……け、結婚、やめようかな! ホラ、国全体にはまだ婚約を公表したりとかしてないし、今ならまだ間に合うかも!

 

 「……ハルカ? お前、また変なこと考えてるだろ」

 「や、やだなぁ。考えてませんよ婚約破棄とか! 」

 「バーカ。今更、遅いに決まってるだろ。俺がどれだけ……っ」


 何か言いかけて口を噤む。


 「へ? 」

 「いや、なんでもない。……それに、お前の目とその髪の色。……王祖がお前と同じ黒髪黒目だったって話は……したよな? 」

 「う、うん」


 カラフルな外見の多いこの世界では、黒髪・黒目って凄く珍しいらしい。

 後ろ指さされるのが、この外見のせいだってのは気付いてたけど、ギスムントは百人に1人は異界渡りって言われるぐらい、変わった外見の人が多い地域だ。異形だからといって、さほど酷い迫害はされない。


 「……異界渡りで、そのナリだ。……そろそろ王都にも知れ渡ってるからな」


 喋りながらイェスタは隣のスペースをポンポンと叩いて、もそっとこっちに来いとのお誘いだ。

 つい無防備に顔を寄せれば、つむじに鼻先を寄せてイェスタは深呼吸した。


 「ヤバイ……も……限界」


 ひぇっ!

 そのひと言に、私は一気に身体が熱くなる。

 それって……それって! 


 「え、ちょっと、説明がまだっ……! 」

 「……あした、……また、続き」


 指先で毛先が弄ばれる。

 低い掠れ声にドキドキが止まらない。


 「おまえ、馬鹿だもんな……いいから、……俺だけ、信じて……」

 「ええ、ちょ……!」

 

 しん、とした部屋に穏やかな寝息が微かに規則正しく聞こえはじめた。


 「え? 」


 絶句した。

 ……『限界』ってのは、睡魔のことかーい!!


 「……もう、全然わかんないよ! 」

 

 混乱したまま私は頬を膨らます。


 期待していたわけじゃない。

 断じて、期待していたわけじゃ無いよ!?

 ……というかこのシチュエーションで寝るか!?

 チューぐらいしてもいいだろうが!


 ちょっと考えてみて下さいよ。いいですか?

 隣にですね。一応、多分好きだと認識している男子がですね……寝ちゃってるわけですよ!


 ねえ、睫毛長いよ! 肌すべすべじゃん!

 この人、ヒゲとかないの?

 メッチャいい匂いするし!


 なにこの「ご褒美」なのか「お預け」なのか、わからん状況は!

 今の今までまだ一回も……いや、一回だけか。それしかキスしたことないんだぞ! どういうことだ!……私の魅力が足りないのか!?


 うぐぅ……と私は唸る。自分で思いついたことだけど、実に自分の胸を抉る考えだった。


 確かに魅力はない。全然、胸だって慎ましいし言動にも色っぽさは皆無だし、顔だって凡庸なアジア人顔である。自慢じゃないけど「色香」なんて言葉には生まれてこの方縁が無い。ボン・キュッ・ボンってなナイスバディだったら、違ったんだろうか。よくわかんない敗北感に打ちのめされる。


 くすん、くすん……もう寝よう。

 

 ゴソゴソとお布団を引っ張り上げた。確かに色々あって精神的に今日は疲れてしまったから眠い。

 別にイェスタに嫌われたわけじゃないみたいなので、とりあえずよしとして……

 おざなりな説明で、やっぱり私が狙われる理由がわからなかった。『婚約者未満』の状態でも保護してもらわなきゃいけないぐらいの危険があるのかな。

 どうして婚約ごときで「暗殺」なんてきな臭い話が得てくるんだろう。だって、イェスタは第3王子だって話だから、跡目争いなんてあまり関係ないだろうし。


 ああ……やっともらえた商工会からのお仕事、やっぱり諦めなきゃいけないのかなぁ。

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