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22.

 慌ただしく旅装が調えられていくのを他人事のように眺めていた。3人の侍女さん達は忙しそうだ。時折私の意見も聞きに来ていたけど、私もよくわかんないわけで。


 ドレスを仕立てるんだって。

 業者さんが職人さんらしい人と3人ほどチームを組んで来襲してきたのを見て、そういえば、昨夜イェスタが言ってたのはこれかと、やっと気が付いた。


 あちこち測られて、好みを聞かれて。

 「ごめんなさい、よくわからないからお任せします」って何度か返答していたら聞きに来なくなっちゃった。

 タンシェさんと話し合って、着々と話が進められちゃってる。


 すぐに仕上がるモノは王都へ行く前に納品されて、時間がかかるモノも直送されるらしい。

 ……王都にいったい何日居座る事になるんだろう?

 この様子では、どうやら2~3日どころではなさそうだ。


 そんな慌ただしいさなか、イェスタが覗きに来た。午前のうちに王都へ出立してしまうのだという。


 「本当は一緒に行きたいんだが……」という言葉は本物だろう。

 最近気付いたんだけど、イェスタは本心を言うとき目を逸らす傾向があるみたいだ。


 「色々と予定が立て込んでいるからな……準備が出来たら、観光がてら馬車でゆっくり来るといい」

 「うん。わかった。道中、気をつけてね」

 「なに、馬で駆ければ1日だ。夜には王都に着く。お前こそ、俺が居なくても泣くなよ」

 「な、何言ってんのよ、泣かないわよ! 」


 イェスタは破顔する。演技がかった仕草で抱きしめられて私は息が詰まった。

 ちょ、まてまて、仕立て屋さんチームも侍女さんズもいるんだぞ。


 ……ま、まあ、ハグされて嬉しくないわけじゃないんだけどさ!


 なんだか、いつもと違う雰囲気をひしひしと感じるわけで。

 どうも、本当に別れを惜しんでいる感じじゃ、ないんだよねぇ……なんだか嘘くさい。

 ここに居る誰かに……もしくは全員に、仲が良いのだということを見せつけておく必要がある……のかな?


 「ねえ……」


 一応、合わせておくけど……何を企んでるんだろう。こっそり囁くと、みんなには見えない角度でイェスタはニヤリと笑う。

 うっ、……だからその顔をするな。ドキドキする胸を押さえる。


 「大丈夫だ。すぐに会えるから」


 安心させるように、もう一度ギュッてされた。

 ……ぐはっ……イェスタさん。力が強すぎますよ……骨とか折れますから!




 名残惜しい演技を振りまきつつイェスタが退場すると、途端に暇になってしまう。


 「色違いで、ここにレースをあしらった、こちらのデザインを取り入れたドレスを……」

 「見事な御髪が映えるようにこちらの色ではいかがでしょうか」

 「あまり淡い色だと」

 「では、こちらの生地と組み合わせて」

 「ああ、それは良い考えですね」


 頭を寄せ集めて、熱心にあつらえるドレスの検討会を開いているけど、私は蚊帳の外だ。


 「そういえば、私が来る前に用意してあった服って、どうなるのかな」

 「王都では流行のデザインばかりだったのですけれど……」


 ポツリと呟くと、トーコさんが耳ざとく聞きつけて話し相手になってくれた。

 王妃様も好んで着ておられて、王都ではあんな中世ヨーロッパじみたゴテゴテしててウェストを締め上げる珍妙な格好が流行しているのだそうだ。


 「あんまり動きにくい格好とかって、私、好きじゃないんですよね」と、私は本音を漏らす。


 「それでは、乗馬服なども誂えておきましょうか」

 「うん。正直言うと、ヒラヒラしたスカートも苦手」

 「ハルカ様……しかし、社交の場に出られる際は……」

 「あー、うん。仕方ないかなと思ってるけど、見苦しくない程度の部屋着とかがあると嬉しいかも」

 「承りました」


 トーコさんは早速、私の我が儘を仕立屋さん達に伝えてくれる。

 わーい、やったー。

 ……実は、今着てるドレスも、スッキリしたデザインではあるけど動きにくくて、アパートから持ってきた服に着替えちゃいたい程なんだよね。


 「……私が来る前に用意してあったのは、捨てちゃうの? 」


 仕立屋さんチームから戻ってきたトーコさんに、再び質問する。


 「そうなりますね」

 「リフォームとかってできないのかな」

 「りふぉーむ? ですか」

 「うん、縫った糸を解いて、違うデザインに作り直すの。だって、勿体ないじゃない」


 「もったいない……」トーコさんは目を丸くして私の言葉を口の中で転がした。

 私、そんな変なこと言ったかな。


 「……それは……お気持ちはわかりますが、上流階級の皆様が支払う金銭が回ることで市井しせいも潤うという側面もありますから、節約を美徳とするだけが正道とは言えないかもしれませんし……そうですね、イェスタ様は『好きに』注文するように、『欲しければなんでも』と言われてましたし……仮にも一国の王子でいらっしゃいます。婚約をされるハルカ様が、そこまでお気にされる必要はないと思いますよ」

 「うーん。そうかぁ」


 なるほどなぁ。市民にお金が回るとか考えたことも無かったよ。


 私んちは普通の家庭だったと思うけど、お金持ちって感じもなかった。だから「公立高校で安くていいや」って進学したんだしね。

 2歳離れた弟の方は、頭がいいから進学先に私立を考えようかとか、私が高校在学中に私立だと家計が、とか、そんな倹約を検討する程度の経済力だったはずだ。


 こっちの世界に来てからも「自立した生活をするために」って流民管理局の関係施設で色々教わったから、私は結構シビアな金銭感覚を身につけてる方なのかも。

 上流階級の人たちは、あんまりみみっちい生活はしないんだろうなぁ。

 ……でも、私はやっぱり勿体ないと思うけどね。




 部屋から出るなと釘を刺されてたから、不承不承だけど室内で午後も過ごした。

 王都の滞在がどの位の期間になるのか知らないけど、タンシェさんもツェリアさんも忙しそうだ。


 「暇だ」と言ったら、トーコさんが話し相手になってくれた。

 本当は、作法とか教養的な勉強とか、鬼のように詰め込まれなくちゃいけないみたいだけど、急なことで先生が決まっていないのだという。


 「王都で滞在する期間にあちらで教えて下さる方を、あたっているところだそうですよ」

 「そ……ソウデスカ……」


 うおぉ……勉強、キライだよう。異世界でも勉強しなきゃならないとか、ホント地獄。

 マスターできる自信が、これっぽっちもないよ!


 そんなことをグチグチ悩んでいると「ハルカ様は、本当にお美しい御髪と目をされてらっしゃいますね」と、ほう、と溜め息をついて言われた。


 「本当に、神話の聖母神様の絵姿がそのまま動き出されたかのようです」

 「え。普通ですよ」

 「そういえば、異界からいらっしゃったとお聞きします。是非お話を伺いたいです」


 あー……よく聞かれるんだよね。そういうの。

 内心「うへー」と思う。

 何が「つらい」って、私の知っている日本語に相当する単語が、なかなか無くて説明しにくいんだよ。

 アヤシイ単語は、そのまま日本語を使ったりして喋ってる。


 たとえば、さっきの「リフォーム」も、実はこの世界に同じことを表す単語がない。「修理する」とか「作りかえる」にあたる単語はあるんだけど……「作りかえる」は、全部バラしてそれを材料として全く違うモノを作るって感覚みたい。「作りかえる」程じゃなくて、ちょっとデザインを変更したりして、また使えるようにアレンジする、という雰囲気に相当する単語がないみたいなんだ。


 そういう、言葉の壁っていうか、文化の違いみたいなものをすり合わせるのが微妙に難しい。

 1年やそこらで覚えられる単語の数なんて、たかが知れてるもんね。私、元々あんまり頭は良くない方だし。


 明らかに語彙力も足りないなぁと実感して、微妙に落ち込むんだけど、トーコさんは楽しそうに私の拙い喋りを聞いてくれた。まぁ、ここまで会話する度胸が付いたのも、イェスタのお陰だよなぁ。

 よく投げ出さずに、物覚えの悪い私に付き合ってくれたよ。うん。ありがたや、ありがたや……心の中で王都の方に向けて拝んでおこう。


 まあね「異世界っていったら、チート能力で言語の変換ぐらいデフォにしておけよ! 」とか、変なところでカミサマを恨むよね。イェスタの方がよっぽどカミサマだ。


 一通り、日本の説明をしてヘトヘトになったから、今度は私がトーコさんに質問した。


 「トーコさんの出身って、どこなの? 」

 「え、ええと……」


 生まれはこの国の北方だったけど各地を転々としていたらしい。


 「物心つく頃には既に両親は居ませんでしたし、親類も居りません。王都のジャミハ卿の後ろ盾を頂いて王宮で女官をさせて頂いてましたところを、ハルカ様がいらっしゃるとのことで、こちらへ招かれたのです。なにぶん未熟者ですので、わたくしには荷が重くて……勿体ないお話でございました」

 「タンシェさんもツェリアさんも? 」

 「いえ、タンシェ様は、元からこのお屋敷で。ツェリアは私と同時期に別なところから招へいされたと聞きます」


 ──なるほど。3人のうち、タンシェさんが一番えらいのか。何となくそんな気はしてた。

 チラリと忙しそうに職人さん達と打ち合わせてるタンシェさんを見ると、何となく目が合った。スッと目が細くなる。……あれっ? 

 今、何か睨まれたような気がするぞ。な、何か気に触るようなコトしちゃったかな。あー打ち合わせに参加してないからかな。ゴメンなさい。

 でも、それも一瞬のことで……気のせいだったかも知れない。


 うーん。

 ……ま、いっかぁ。私は持ち前のポジティブさが身上だもんね。大丈夫、きっと仲良くなれるさ!

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