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毘の華  作者: 逍遙軒
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褒美

 俺が羽生衆のお飾りとなって小磯に到着したときには、柿崎隊はほとんど壊滅状態だった。

 柿崎のおっさんが三角マークの旗を立ててる北條さんの騎馬兵に周りを囲まれているのが良く分かる程に人数が減っている。

 よく今まで生き残れたなあの人。

 憎まれっ子世に憚るってやつですか。

 まぁしかし、乱戦の中で何故におっさんをこうも素早く見つけられたかと言うと、ヤツの目印は二股の大根マークだったから。

 腹立つおっさんのくせに可愛らしいマークが気に入らない。

 そのせいで余計に早く覚えちゃったじゃないか。

「いたいた。柿崎のおっさんだ」

「おっさんですと?」

 あ、いかん。たまたま一緒にいた羽生の重臣の人に聞かれてしまった。

「今の忘れて。あの人の耳に入ると煩そうだから」

 さて、助けに行きますか。

 なんちゃって殿様の俺がちょっとだけ演技させてもらうよ。

 テレビ番組でのうろ覚えだけど確か殿様って、攻撃前は何か叫ぶんだよね。

 今度こそ伝令に邪魔されない様に周りを確かめて、大きく息を吸い込んだ。

「さぁ俺達羽生人の勇気を見せて北條たちをやっつけよう!越後の御屋形様も見てるぞ。ここ一発ガンバロー!」

 お?

 こんなんじゃなかったけ?

 いまいち気合が入らないみたいだけど、まぁいいや。

「出発だー!」

 とりあえず俺が馬を走らせたら皆付いて来た。

 ほっ。良かった。

 すると、走り出した直後から羽生の人達が俺の後ろで物凄い声を上げ始めた。

 味方なのに怖いわ!

 これが鬨の声だと知ったのは暫くしてからの事。

 その声に気が付いたのか、柿崎のおっさんがこっち向いた。

 こっち見んな。

 じゃないか。

「柿崎さん!助けにきたよ!」

「お前は!」

 柿崎のおっさんが見せた一瞬の嬉しそうな顔、しっかり見たぞ。

「何しに来おったこの腰ぬけめ!お前なぞ来ぬでもこの程度の囲み、抜けて見せるわ」

 かー、負けず嫌いだねぇ。

 自分の周りには5人しかいないじゃん。

 周りの三角マークは大勢いるってのに。

「だったらそこは自分で何とかして下さい。周りは俺達が何とかしますから」

 俺はただ走り回るだけなんだけどさ。

 羽生の人達、やっておしまい!

 しかしあれだ、羽生の人達、なんだかんだ言っても戦国の武将だけの事はある。

 騎馬や足軽を上手く使いこなして三角マークを蹴散らして行った。

 でも凄い&怖い!

 間近で人が刺されたり切られたりなんて怖すぎる!

 この辺りで気が付いた事だけど、たまにマンガや小説なんかで見かける『血生臭い』って表現、あれは本当だった。

 『血』は分からないけど、只々生臭い。

 酸っぱいものがこみ上げて来そうなのを何とか堪えて、できるだけ悲惨なところは目に入らない様に夢中で馬を走らせる。

 とにかく柿崎のおっさんを取り囲んでる三角マークを目指して走り回れば羽生の人達が何とかしてくれる。

 頑張ってくれ!

 たまに目の前に槍の穂先が出て来てビックリするけど、ここで馬を止めちゃうと自分がやられちゃうのは間違いない。

 ラッキーだったのは敵に切り入った事で鉄砲や弓矢で狙われなかった事。

 それじゃなくてもとんでもなく怖いのに、鉄砲玉とか矢が飛び交ってたら怖くて動けなくなっちゃうよ。

 そんな中、どのくらい合戦場を走りまわったんだろう、ハッと気付いた時には三角マーク達が引き揚げを始めていた。

 良かった。

 残念ながら替えの道具とか食料とかが乗ってた小荷駄はみんな盗られちゃったけど、柿崎のおっさんも無事に囲みを抜けられたみたいだから良しとしよう。

 俺達もポツポツと残っている三角マークを一旦押し返して、その隙をついて引きあげる事になった。

 羽生の皆さん有難う。

 思いっきり守られながら走り回る事しかできなくて申し訳なかった。

 そんなこんなで北條さん達を蹴散らす事ができた俺達は、後ろからまた三角マークが来ないか警戒しながら何とか無事に宿河原へ戻って来る事ができた。

 はぁ~。ホッとした。

 槍の先っぽが見えた時は死ぬかと思ったわ。

 それにしても、合戦前はあれほど尿意を催してたのに、いざ合戦となると何にも感じなくなるもんなんだなぁ。

 とか無用な知識を得た事に悦に入っていると、本陣の中から先に引き上げてた柿崎のおっさんと虎ちゃんが出迎えてくれた。

「広田、その方の助けなどは要らんかった。余計な事をしおって」

 俺を見た柿崎のおっさんが近寄って来るなり今までだったら腹の立つ言葉を浴びせてきたけど、何と無く言葉の雰囲気が違うのが分かった。

「その方に貸しておる直垂や裃じゃが、此度の褒美としてくれてやる」

 素直になれないおっさんだなぁ。

「あと、これもやる!」

 ぶっきら棒に渡して来たのは、柿崎のおっさんが羽織っていた黒地に段だら模様の陣羽織だった。

 なんだか今まで腹の立つクソ親父だと思ってたけど、こうしてみると面白いヤツなのかもしれない。

 さっきのでちょっとは見直してくれたのかも。

 羽生衆のお陰なんだけど。

「え、くれるの?それじゃ、有難く頂きますよ、柿崎さん。」

「ほほう。珍しい事もあるものだ」

 虎ちゃんがなんだか笑っているように見える。

 どうした?

「柿崎が陣羽織をくれて寄こすなど、余程の者にしかない事じゃ。広田、お前も柿崎に認められたようだな」

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